05.夜蝶の姫君
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ー…チッ…チッ…
その日、事務所の空気は明らかに違っていた。
どこか浮き足立ったような、そわそわした空気。その空気作り出した原因は、この依頼人だった。
「あの女…姫川るなだろ?」
『へ?誰ですかそれ?』
「歌舞伎町のNo.1キャバクラ嬢ですよね。雑誌とかでもたまに見ますよ。」
『へぇぇ~!!そうなんですか…どうりで綺麗な…!!』
「なんでそんな女が探偵事務所にいんだ?」
うららかな日差しの午後、突如現れたNo.1キャバ嬢に事務所の皆は興味津々に応接室をのぞき込んでいた。
くりくりの目に艶やかな肌に髪。そしてその華やかな雰囲気。
毎日地味なスーツでメイクもほぼ落ちながら過ごす佐奈にとっては眩しすぎる存在だった。
(いいなあ…あんなに綺麗だったらヒナさんも振り向いてくれるんだろうけど…。)
「おーいヒナ!!ちょっと来て。」
『!!!!!!』
「…はい。」
依頼人と話をする孝之助に呼ばれヒナが応接室に入って行くと、佐奈は柱の陰から心配そうにヒナを見つめた。
(ち…ちょっと孝之助さん~!!あんな美人さんの前にヒナさんを呼ばないでよおおお!!!)
「…何やってんのお前。」
『何でもありません!!』
不審そうに佐奈を見る和泉をよそに、佐奈は美女の前に腰を下ろすヒナをチラチラと見つめたのだった。
ー…パタン…
「…で、居場所も何もかも突き止められちまうんだとさ、そのストーカー男に。」
「……はあ…。」
「…元々はうちの常連だったの、でも徐々に借金まみれになっていってお店以外で会おうっていうのを断り続けたら…家まで来てて…。
"いるだけ"だから警察も様子を見るとしか言ってくれないのよ…。」
るなはそう言うと、青ざめた顔で参ったように頭を抱えた。
るなの相談事はストーカーの被害だった、離婚や探し人に次いで多くなっているこの事案に、孝之助もヒナも慎重に耳を傾けた。
「それだけじゃなくて、欲しいって言ったものとかまですぐにばれちゃってて…本当に気持ち悪いの…。」
「…SNSやってますか?」
そのヒナの質問に、るなは分かってると言わんばかりの態度で返した。
「やってるけどどれも位置情報なんかは非表示に設定してる。投稿も料理とかしか載せてないし。」
「恐らくカメラの方のジオタグ(位置表示)が初期設定で設定されたままなんだと思います。その場合、SNS側で非表示にしても写真をダウンロードすれば位置は分かります。」
「えっ…何それ…!?私設定とかよく分からないから設定し直して!!!!」
るなはそう言うと、おもむろにヒナに携帯を手渡し画面を覗き込んだ。
「どう?」
「…………この携帯…そのストーカーに触らせたことありますか?」
「……え?」
るなのスマホを少しいじったヒナは、何かに気付いたように携帯のマイク部分を手で押さえた。
るなはそのヒナの様子に不思議そうな顔を浮かべながらも、口に手を当て記憶をたどった。
「そういえば…まだストーカーになる前のただの客だった頃、カメラ撮ってもらったり面白いゲームがあるって探してもらったくらいだけど…それが何で?」
「ああ……。」
「何か見つかったのか?」
「多分…その相手に盗難防止アプリをインストールされてます。」
「「盗難防止アプリ!?」」
ヒナから告げられた思わぬ事実に、るなは血相を変え立ち上がった。
「そ…そんなアイコン何も出てなかったけど‥だいたい盗難防止アプリなんて何で…!?」
「名目上はそうですが、このアプリは位置情報の特定は勿論。会話や写真を傍受したり、スマホ内のあらゆる情報がパソコンから抜き取れます。
しかもスマホ側にアイコンは表示されませんしアンインストールも困難です。」
「何でそんなアプリが盗難防止なのよ…!?」
「そもそもは盗難された時の追跡用で、アプリ非表示は犯人に悟られない為です。」
「…!!」
相変わらず愛想が欠落しているヒナは淡々と遠慮なく事実を告げ、それと同時にるなの顔からは血の気が引いていった。
「そんな…それじゃ…位置どころか…会話やメールも筒抜けだった…ってこと…?」
「恐らく。だから会話は携帯の無い所で話すか、マイクを押さえて傍受されないようにした方がいい。」
ヒナの言葉に、るなはがくっと力が抜けたように崩れ落ちた。
仕事柄こういう事には気を使っていたるなだったが、あまりに予想だにしない手口に驚きを隠せないでいたのだ。
「困難…でもお前ならそのアプリ、消すことは出来るんだろ?」
「まあ…やろうと思えば。」
ー…ガンッ!!!!!!!!!!
「…?」
「いらない…こんな…あんな奴に全部見られた携帯なんて………!!」
るなはそう言って震える手で携帯を壁に投げつけた。
その表情は恐怖と怒りが入り混じった複雑なもので、顔を見合わせたヒナと孝之助を見上げた。
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