04.寝癖と女心
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ー…チチチ…チチチ
『ん…?朝……?わっ!?寝ちゃった!!!!!!』
佐奈がソファから跳び起きるとヒナの姿はなく、佐奈は焦って辺りを見回した。
(お風呂場から声がする…ヒナさん…?)
佐奈が声のする脱衣場のドアに近づき中をそっと覗くと、ヒナが電話で話をしていた。
(こんな時間に誰と…それにこれ…英語…?)
ー…ガチャン!!!!!!
「!!」
『あ…す…すみません…。』
思わず手が滑りドアにぶつかった佐奈は、申し訳なさそうにヒナに頭を下げた。
ヒナはそんな佐奈の姿を見るやいなや電話を切り、そそくさと携帯をポケットにしまった。
「何。」
『えっと……寝てしまってすみませんでした…。』
「ここ8時にチェックアウトだから対象ももう出るはず、外で先回りするから準備して。」
『は…はいっ!!!!!』
ヒナの一言で長かったような短かったようなホテルでの調査はようやく終わりを告げた。
佐奈は安堵したような拍子抜けしたような複雑な心境で機材を片づけホテルを出た。
................................................
ー…パタン…
「後は写真に納めるだけだけど、相手は薬の売人だから多少は警戒してると思う。調査がバレたら面倒な事になる、絶対にバレないように。」
『は…はいっ…!!』
ホテルの入り口のすぐそばに身を潜めた二人は、調査対象が現れるのをじっと待った。
緊張でごくりと唾を飲み込む佐奈の前に、調査対象のカップルがイチャイチャとくっつきながら現れた。
ー…カシャ…カシャ…
『と…撮れました…。』
震える手で佐奈がカメラを引き戻すと、ヒナは静かに頷いた。
その様子を見た佐奈がホッとして気を抜いた…その時だった。
ー…カシャーン!!!!!!!!!カランカラン……
「ー…!?」
「!!」
『…え!?あっ……!!!!』
あろうことか佐奈は手を滑らせ、対象に見える位置にカメラを転がし落としてしまった。
佐奈は頭が真っ白になり立ちつくし、それに気付いた男は何かを察知したようにカメラにかけ寄ってきた。
「…佐奈。」
『え…?』
「何やあのカメラ…まさか……!?」
ー…バッ!!!!
「へ…?」
男がカメラを拾い建物の陰に目を向けると、ヒナが佐奈を引き寄せキスをしていた。
思いもよらない光景に呆気にとられる男に気付いたヒナは、状況を飲み込めない佐奈を抱き寄せたまま男を睨みつけた。
「…何。」
(ヒ…ヒナさん…!?)
抱き寄せられた佐奈が男の方を見ようとすると、ヒナは腕にぐっと力を入れ、佐奈の顔を自分の胸に埋めた。
「何や…ただのカップルかいな…いやいや、邪魔してすまんかったの、ほら、デジカメ落ちたで。」
「ああ…どうも。」
男はニヤニヤ笑いながらヒナにカメラを渡すと、安心したように女の子と車に乗り込み、二人の前から去って行った。
ー…ブロロロロロ
「……。」
車が見えなくなったのを確認すると同時に、ヒナは抱き寄せていた手を佐奈から離した。
一方、カメラを落としたあたりから頭が真っ白になっていた佐奈は、何が起こったか訳が分からずヨロヨロとその場にへたり込んだ。
『今…えっと……』
「…あれだけバレるなって言ったのに…注意が甘い。」
『へ…あ…はい…!!』
「バレたら俺達だけじゃなく事務所にも依頼人にもあの女の子にも迷惑がかかる。以後気を付けすぎなくらい気を付けて。」
『申し訳…ありませんでした…以後気を付けすぎなくらい気を付けます…。』
普段あまり言葉を発さないヒナから弾丸のように怒られた佐奈は、しゅんとしながら頭を下げた。
だが佐奈の頭の中はそれ以上に、ヒナにキスをされたというまさかの事態の収拾にキャパオーバー寸前だった。
(…キス…された…ていうか…キスされた直後に怒られてる私って一体…。)
「それと…探偵が顔を見られたらロクな事にならない。女は特に…気を付けた方がいい。」
ヒナのその言葉に、佐奈はさっき自分が顔を男に向けようとしてヒナに押さえられたのを思い出した。
『じゃあさっきヒナさん…私の為に…?』
「…別に…探偵だってバレて後で襲われたら面倒と思っただけだから。」
『…!!』
遠回しでぶっきらぼうではあるか、その言葉は間違いなく佐奈を心配してくれていた。
ヒナが身を呈して自分を庇ってくれていた事に気付いた佐奈には、感謝とは別の感情が芽生え始めていた。
「でも。」
『…?』
「ごまかす為とはいえ、急に悪かった。」
そう言うと、先程までとは一転し佐奈に頭を下げたヒナに、佐奈は慌てて首を横に振った。
『と…とんでもないです!!ヒナさんは私を助けて下さったのに謝らないで下さい!!私が悪いんです!!それに別にその嫌じゃなかったですし…っていや、えっとだからその、本当に気にしないで下さい!!!!』
それまで頭を下げていたヒナは佐奈のあまりに必死な様子を見て、ほんの少し穏やかな表情を浮かべた。
「…分かった。」
ー………ドキッ
『………!!』
笑っているとは言えないが、いつも見ていた無機質な表情とはどこか違う穏やかな表情。
そんなヒナに、佐奈の心中で芽生えた感情は、ほぼ確実なものになっていた。
(……ヒナさんって…あんな顔するんだ…………。)
「今日はもう直帰していいってだから。」
『あ…は…はいっ!!』
前を歩くヒナの背中を見ながら佐奈は、昨日とは全く違う胸の高鳴りを覚えていた。
抱き寄せられた腕と唇の感触がまだ鮮明に残っていて、ヒナの姿を見るたび胸がドキドキと苦しくなる。
佐奈はこの隠しきれそうにない感情を必死に抑え込み、
なんとか平静を振る舞いながら、ヒナと共に家路に就いたのだった…。