Re:6 掌の雪
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ー…パタン…
「……。」
「よーっし‼今日の分もこれで終わりだな‼」
あれから数週間、
すっかり外の空気は冬らしくなり、ヒナと職員達の画面越しのイタチごっこもすでに毎日の日課となっていた。
「見ろよリョウ、今日は雪が降りそうだなあ…。」
「……。」
「そういえば、初雪を初めに捕まえたら願い事が叶うんだと僕のグランマが言っていたなあ…とても素敵な話だと思わないかい?」
「…統計学的に一番初めの雪、と言うのはかなり不確定要素が強く、すぐに溶解してしまう為それを一番に捕まえたという証拠も得られません。ということは実質願いを叶えるなんて不可能ということでは。」
「…リョウ!!お前はプログラミングのしすぎだ!!たまにはファンタジーに触れろ!!僕のグランマに謝れ!!!!」
ー…ピピピピピ…
「…はい、朝比奈です。」
「…?」
「え…?」
突然鳴り響いた電話はサイバー犯罪課の上司、雨宮からだった。
雨宮の声色はどこか焦っているようで、すぐに他の職員らと講義室に集まって欲しいと告げると電話はすぐに切れた。
「何が起こったっていうんだ?」
「さあ…なんでもふざけた予告メールが届いたとかで。」
「ふざけた予告メール…?」
ノアが首を傾げながらヒナの後を追うと、講義室には既に多くの職員たちが集まっており、
職員たちは皆一様に怒りを含んだ顔を浮かべて、パソコンのモニタをじっと見つめていた。
「これが今朝…送られてきていたものだ。」
「……これは…。」
ヒナとノアがパソコンのモニタを覗き込むと、そこには英文で"予告状"と書かれたメールが表示されていた。
内容は数時間以内に警察署のパソコンをダウンさせてデータを奪う、拡散するなど、よくありがちな文面のようだった。
だがその差出人として最後に記載されていた名前に、ノアとヒナは思わず言葉を失った。
「……朝比奈了の再来…だと…?!」
「……。」
その名前を見たノアはアハハと声を上げると、
一転、眉をひそめてモニタを見ていた職員たちを必死の形相で問い詰めた。
「おい……まさか本当にリョウが送ったとでも思ってるのか?このメールを送ったのはリョウの名をかたった偽物だ、それは俺が証明する!!」
「……。」
「リョウ、お前も何とか言え…」
「ノアさん。」
突然言葉を遮られてノアが驚き振り向くと、職員たちはまっすぐノアとヒナを見て頷いた。
「朝比奈さんがやったなんて、ここの誰一人も思っていません。」
「…え…?」
「………。」
「俺達は朝比奈さんの事、報道された当時の事実とノアさんに聞いた事実の二つしか知りません。」
「"ノアさんに聞いた事実"……?」
「リョウ、今は良い話のようだ、水を差すのはヤボというものなんじゃないだろうか。」
じろりとノアを睨みつけるヒナをノアはアハハと笑ってごまかすと、職員の男性に話を続けるように目配せした。
「…その二つの事実は相反していましたが…俺達がこの数週間、モニタ越しに感じたのは憎悪でも憎しみでも何でもない、朝比奈さんが俺達の力を伸ばそうと、懸命に手を差し出してくれているようにしか思えませんでした。」
「……。」
「だから俺達は当時の報道ではなくノアさんの言った事実と目の前の朝比奈了という人間を信じます。そして、あなたが与えてくれたこの技術も。」
職員達はそう言うと、それぞれ自分のパソコンを引っ張りだし、ニコッと笑ってみせた。
「あなたの名前をかたった模倣犯なんて俺達で返り討ちにしてやります。だって俺達の師はバベルを壊し世界を救った本物の天才、朝比奈了だから。そして…」
「………。」
「…そしてこの技術でもう二度と……あなたのお姉さんのような人は出さないと誓います。謝って済む問題では無いのは分かっています、でも……私達の力が足りなかったゆえ本当に…本当に、申し訳ございませんでした!!!!!!!!」
「………!?」
今も鮮明に思い出すあの日の出来事はきっと必然で、
ストーカーをした男が悪いのに、対応の甘かった警察を恨み、感情を押さえられなかった自分の責任だ。
ここに来たのだって、その時の罪滅ぼしが少しでも出来ればと思っていたからで。
だから謝って欲しかったわけじゃない。
ましてや今ここにいる人間で当時もいた人間はほとんどいない、なのに。
どうしてこんなに、胸のつかえが取れたように軽くなったんだろう。
「………頼みます。」
「………!!…はいっっっ!!!!!!!!」
ヒナがそう絞りだすように言葉を返すと、職員達は下げていた頭を勢い良く上げて頷いた。
皆のその瞳には初めてヒナと会ったあの日の陰りは全く無く、その言葉に嬉しそうに各自自分のパソコンの前に向き直った。
「よーっし!!皆気合い入れていくぞー!!」
「朝比奈さんのあのえげつないウイルスと戦ってたんだ、どっからでもかかってきやがれ返り討ちだ!」
ー…ポン…
「よっ…よっ…ぐすっ…良がっだな…リョウ…。」
「……何でノアが泣いてる。」
モニタに向き合う皆を横目に瞳を潤ませ、その様子を人に見られないように部屋の隅にいたヒナに、
ノアは涙でぐしゃぐしゃになった手で、労うようにその肩を優しく叩いた。
「…俺もお前にずっと言いそびれてたことがあるんだ…。もうここでの仕事も終わったし、言ってもいいよな…?」
「…?」
「リョウ、俺と一緒に…もう一度アメリカに来て欲しい。」
「……え?」