Re:6 掌の雪
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー…バタン…
「よーーーう!!えらくまたアンチヒーローやってるじゃないか、リョウ☆」
「なっ…ノ‥ノア!?何でここに……!?」
講義室を出て自室に戻ろうとしていたヒナの前に飛び出したのは、数年ぶりに会ったノアだった。
全てを知っているらしいノアに一瞬驚きを見せたヒナだったが、すぐにいつものトーンにテンションを戻した。
「何で、と言うのは愚問でした。」
「そうだな!!リョウが寂しがってるといけないから会いに来てやっただけで…」
「……………。」
「・・・ゴホン、なあーんてな。リョウにその昔"ここ"を紹介をしたのは我が施設だ。繋がりがない方がおかしいな?まあ、ヤボ用だよ。」
ノアはそう言って笑うと、ごそごそと自分の鞄から大量の東京ばな奈を取り出した。
「先日実はコウノスケの事務所にもお邪魔してな、食べてみたかった東京ばな奈の店にも連れて行ってもらったんだ、佐奈ちゃんにな。ほれ差し入れ。」
「佐奈に…?」
「ちゃんと連絡してやれよ~お前は頭いいのにキャパが少ないというか何かに没頭すると他がおろそかになるからなあ…。大体根暗コミュ障パソコンオタクのお前には出来過ぎた彼女なんだから大切にしないとな!!」
ノアの弾丸トークと共に笑顔で手渡された東京ばな奈をヒナは受け取ると、ぱくりとそれを頬張りコーヒーを飲んだ。
「……で、リョウは何で佐奈ちゃんと結婚しないんだ?」
「ご…ごほおっ…!!!!!!!!!!」
「ちょっとリョウ!!佐奈ちゃんと図ったように同じ反応しないでくれよ!!ジョークで言ってるんじゃないぞ?」
「……佐奈にも言ったんですか…。」
「まさかお前まだヴィオラのこと忘れられてないとか?それかジュリアか!?あいつお前にご執心だったもんな~!!だがアメリカンガールはお前には荷が重いから止めとくんだリョウ!!」
「………それ全部ノアが好きだった女の人じゃないですか。あ、そういえばノア眼鏡変えましたね。」
「え?ああそうそうお前の真似してフレームの太い奴にしたんだ…じゃなくてちがーう!!」
コーヒーを拭きながらそうしれっと話題を変えるヒナに、ノアは一転笑顔を仕舞い真剣な顔で言った。
「リョウ……本当はさ、お前……首の"それ"の事がまだ気になってるんじゃないのか?」
「……。」
ノアに指さされた自分の首に手をやると、ヒナは少し表情を強張らせた。
今はバベルの一件で動かなくなってしまったけれども、"それ"は今もしつこくヒナの体の中に居座り続けていた。
「BMIの後遺症がこの先歳をとってどう現れるかも分からない、ましてやお前が死んだ後、遺体は施設に引き取られて家族にはからっぽの墓だけが残る。そんな人間が果たして他人の人生に責任をもってもいいのか…そう心配しているんだろう?当たりだな?」
「………。」
ノアのズバリと核心をついた言葉に、ヒナは思わず顔を俯けた。
それはヒナがずっと考えていたことで、話が話なだけに誰にも話せないでいた事だった。
「佐奈と一緒にいたいと思う…けど、佐奈はまだ若いから…俺なんかをわざわざ…ともやっぱり思ってしまいます…。」
「……佐奈ちゃんリョウよりも6つ下なんだっけ…まあそう思う気持ちも分からないでもないけれどもね。」
ノアは腰掛けていた椅子から立ち上がると、俯くヒナの肩をしっかりと掴んで言った。
「まあ…さっきの話だが今のままじゃあり得ない話じゃない。火葬されて機械が残ってもまずいから組織はお前が死んだらまず遺体を回収に来るだろうしな。だがな、リョウ。お前にばかり神が辛く当たるものか、話はもうハッピーエンドを迎えてもいいはずさ。」
「……え?」
「お前は今まで本当によく頑張ってくれた…我が施設にも多大な貢献をしてくれた。だからな……」
ー…ガターン…!!!!!!!!!!!!
「へっ!?」
「でっ……できたあああああ!!!!!!!!」
「「!?」」
ノアが真剣な表情でヒナに何かを言いかけたその瞬間、講義室の方から盛大な歓喜に湧く声が響いた。
その声にヒナとノアは思わず部屋を飛び出すと、こっそりと講義室を窓越しに覗いた。
「やったぞ…時間はかかったが駆逐できた…!!あの朝比奈了の作ったウイルスを…!!」
「俺達だってまだまだやれるじゃないか…!!ああ眠たいなぁ…あはは!!」
「でも解いてて思ったんだがこの経路はここを遮断しておけばもっとスムーズに行ったんじゃないか?」
ー…ガヤガヤ…
「「………。」」
「解けたみたいだな、お前の練習問題ウイルスちゃん。」
「…はい。」
「まあお前の本気のマルウェアは邪悪すぎて解体出来るのは世界に数人しかいないだろうからなあ~一般的にこのくらいで十分なんじゃないか?」
「……これに本来ならデータ復旧がある、時間がかかりすぎ、…まだまだです。」
そうまだまだだと言いながらも、横目に見えるヒナの顔はどこか嬉しそうで、ノアはその顔に、少し安心したように胸をなでおろした。
「じゃあお前のサイバー犯罪課のレッスンはこれでTHE ENDか?」
「………まさか。」
ー……ピーッ…ピーッ!!!!!!
「うわあああああ!!何だこれ!!また!?」
「ふざけんな朝比奈了!鬼か!!」
「……リ…リョウ…?」
「まだまだ甘い、失格。」
「何!?また送ったのか??お前意外とそういう負けず嫌いでSなとこあるよね…。」
ヒナの思いを知ってか知らずか、職員達は口では文句を言いながらもその顔はどこか充実感に溢れているように見えた。
そんな不思議な彼らを横目に足取り軽く講義室を後にするヒナを見ながら、やはり日本人は勤勉だなあなどと、ノアはしみじみと感じ入った。
「…それにしても…このウイルス、妙に手順を教えてくれてるというか…解きやすくされてなかったか?」
「確かに僕も思った……でも相手は"あの"朝比奈了だ…そんな事しないだろ…?」
「……"あの"って言うけどさ…俺達報道以外で朝比奈了のこと…何も知らないよな。」
「「………。」」
「皆さんお疲れ様~な所悪いけど、ちょっといいかい?」
「ノ…ノアさん!!」
講義室でヒナの真意を皆が感じ取り始めたその瞬間、声をかけたノアに皆はハッとそちらを振り返った。
「さてみんな、朝比奈了が本当はどんな人間なのか…気になってきたかい?」
「え……?」
「教えてあげよう。世界最恐と言われた、優しくて不器用なハッカーの事を……ね?」