Re:5 魚と最後の夏休み
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー…ピッ…ガランガラン…
「ふう…。」
自動販売機で買った飲み物を飲みながら、九条はひとり海岸沿いを歩いていた。
魚が嫌いで自ら足を向けなかったとはいえ、遠くから見る海は綺麗で九条は防波堤で足を止めていた。
「………ん?」
「うおああああああああ!!!!」
「へっ!?」
突然の叫び声と遠くに見えた人影に近づくと、そこには必死に釣竿を引っ張る孝之助と、それを手伝う獅子尾の姿があった。
九条は若干距離を取りながらも冷静に二人に状況を尋ねた。
「何やってるんです…?」
「これが釣り以外何やってるように見えるってんだよ!!めちゃくちゃでかいの釣れそうなんだけど上がらねえ!!九条っち手伝って!!」
「さようなら。」
「だああああ待て待て引きずり込まれるううう!!!!」
「なっ…南在さんこれはもう釣竿を離した方がよろしいのではっ…!?」
「嫌だっ!!この竿高かったんだよ!!」
「…………。」
大人げなくだだをこねながらも海に引きずり込まれそうになっている孝之助に、九条はハアと溜め息をつき嫌々ながらも孝之助らと共に釣竿を握った。
「上がったら臨時ボーナス頂きますからね。そして私の目の前に絶対に釣り上げないで下さいね。」
「オッケー任せとけってんだ!!」
「一気に引きます!!」
「「せーのっ!!!!」」
ー…ピチピチッ…ピチピチッ…
「……で、何これ。」
『見た事も無い魚ですねえ…キレイな色ー…。』
大人の男三人がかりで釣り上げた魚は想像したよりも小ぶりで、だが今まで見た事の無いような不思議な色合いの体をしていた。
バケツの中で窮屈そうに泳ぐ魚を和泉が捕まえて焼こうとすると、孝之助はバケツを和泉から取り上げた。
「まあいいや、取り敢えず焼くぞ~。」
「だああああ待て待て待てこれは食べない!!食べる用はこっち!!」
「えっ、食べねえでどうすんだよそれ!!」
「若…そもそもよくこんな鮮やかな色の魚食べる気になりますねぇ…うっ…。」
「食べないんならさっさと海に戻してやったらどうですか。」
魚を見ることなく呆れるように言う九条に、孝之助はバケツの魚を愛おしそうに見た。
「…だってなんかこの魚珍しいみたいで、探しても名前が見つかんないんだよ…どうする?新発見の魚だったら、貴重よ?」
『確かに…検索してもこんな色の魚出て来ないですね…。』
「じゃあ何、この魚おっさんの名前でもつくの?コウノスケフィッシュとか?」
「「…コウノスケフィッシュ……?」」
そのなんとも笑いを誘う名前に皆がまじまじとコウノスケフィッシュ(仮)を見つめると、
孝之助はコウノスケフィッシュ(仮)の入ったバケツを抱え、意を決したように言った。
「そうだ!!事務所で飼おう!!」
「却下。」
「なんでーーー!!別に九条っちに世話してなんて言ってないじゃん!!だってコウノスケフィッシュ(仮)をこのままにしておけるかよ!!」
「このままにしておくのがコウノスケフィッシュ(仮)の為に決まってるでしょう!!それにだいたいこれからヒナも事務所で寝泊まりしなくなるんですからそうなってくると必然的に私達が世話しなくちゃいけなくなるでしょうが!!」
ー…ギャー…ギャー…
『………。』
(そっか…九条さん達も…ヒナさんの事もう知ってたんだ…。)
"俺みたいな人間は…過去と向き合える機会は逃しちゃいけないと思ってる。”
『あっ…あのっ…!!いい提案があります!!』
「「…へ?」」
.........................................................................
ー…ピチャン…
「……。」
「……。」
翌日、事務所に出勤した九条は、事務所のどまんなかで悠々と泳ぐコウノスケフィッシュ(仮)を必死に目に入れないようにしていた。
「…佐奈さん、これのどこがいい案なんですか。」
『あっ…これはあの一時的といいますか…!!水族館の方に聞いたらコウノスケフィッシュ(仮)はやっぱり珍しい魚なんだそうで、今日取りに来てくださるそうなんです。』
「コウノスケフィッシュ(仮)~絶対水族館に遊びに行ってやるからな~!!」
「おっさん、とりあえずエサこの熱帯魚用のでいいんかな?」
「………それなら構いませんが。」
ピチピチと嬉しそうに跳ねながらエサを食べるコウノスケフィッシュ(仮)を見ながら九条はハアとため息をつくと、
そそくさとその場を立ち去りたいようで自分の荷物をまとめ始めた。
『く…九条さんどこに行くんですか!!?』
「どこって…魚に興味はないので私は外に用事を済ませに…」
『だっ…ダメです!!!コウノスケフィッシュ(仮)の引き渡しは九条さんがお願いします!!』
「はあ!?何で!???」
佐奈の提案に九条があからさまに怪訝な顔を浮かべると、佐奈は食い下がるように言った。
『過去には向き合えるチャンスがあるなら向き合うべきだって…ヒナさんが教えてくれたんです、私もそう思うんです…!!』
「は…はあ!?過去って…魚…?って二度とそんなもん向き合わなくて結構です!!!」
『九条さん!!やっぱり交流をすることで一歩前進しましょう!!そうすればきっと見えてくるものが沢山あるんですから!!』
「……佐奈、何であんな地雷踏み抜きまくってんの?もしかして佐奈ってまだあいつが魚嫌いなこと知らないんだっけ?」
「ん~…というかなんか話が噛み合ってないような気がするんだけどねおじさんは。」
『とにかくっ…ヒナさんも出掛けましたし私達三人も出掛けますのでどうぞよろしくお願い致しますっ!!水族館の方は13時に来られるそうですので…ではっ!!!!!!!!』
「ちょっ…!!」
ー…バタン!!!!!!
「……一体何なんですか…。」
「ピチッ…」
「・・・・・・。」
訳も分からぬまま大嫌いな魚と二人きりにされた九条。
誰もいなくなった事務所でハアと溜息を付きながら、九条は仕方なくコウノスケフィッシュ(仮)に背を向けるように腰を下ろしたのだった…。