Re:5 魚と最後の夏休み
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ー…ドサッ
「ふあ~…なんか肉ばっか食いすぎて飽きたな…おい亀、なんか魚とかねえの?」
用意してあった大量の肉を皆と共にペロリとたいらげた和泉だったが、どうやら少し物足りなかったようで不満そうに亀名に言った。
「…えっ佐奈さん22なんですか!?俺と同じ歳じゃないですかい!!」
『ええ!!そうだったんですね、見えないです!!』
「そーだ!!せっかくここで会ったのも何かの縁です、連絡先でも交換しときますか…」
ー…げしっ!!!!!!
「さ~か~な~~~~~!!!!」
佐奈と楽しそうに談笑し話を聞いてない亀名を、和泉は渾身の力で足蹴にした。
亀名は腰を痛そうに押さえて立ち上がると、和泉の無理難題に顔を困らせた。
「バ…バーベキューで魚!?そんなの無いっすよ~目の前の海にはいくらでもいそうっすけど…」
「じゃあ行け。」
「はい!?む…無理ですってええ!!!」
「無理かどうかは聞いてねえ行け飛び込め。」
「いやあああ!!こ…琴子姐さん助けてください!!!」
「ん~…でも確かにちょっとさっぱりした魚とか食べたいわよねえ…」
「いやあああああああ!!鬼いいいい!!!」
海に強引に突き飛ばされそうになっている不憫な亀名を前に、
孝之助は待ってましたと言わんばかりにドヤ顔で、あるものを車から引っ張り出して言った。
「ほらほら和泉やめてやれ!!よし、俺が今から釣って来てやっから待ってろ!!」
「釣って来てやるって…釣り道具まで持って来てたんですか!?」
「おうともよ♪どうせ水着で砂浜をキャッキャウフフとする歳じゃねえしな~。」
「釣りですか…?これはまたいい釣り竿をお持ちなようで…。」
「お!!獅子尾君も釣り好きなら一緒にやるかい?」
「…興味深いです。」
まじまじと興味深そうに孝之助の釣竿を眺める獅子尾は、表情こそあまり変化は見られないもののどこか嬉しそうだった。
孝之助は手際よく準備をすると、釣りをしたそうな獅子尾を連れていそいそと防波堤へと去って行った。
「あー…おっさんが魚釣ってくるまで暇だな。あれ、佐奈は?」
「メガネ君とどっか行っちゃたわよ~、九条さんも飲み物買って来るって。」
「あー…そ。」
「えっ?あー!!佐奈さんってもしかしてあのメガネの方と…!?はああ~なるほど、残念ですな~!!」
「……。」
「?どしたの?和泉ちゃん。」
ー…べしっ!!!!
「あいたっ!!な…なんで…?」
..............................................................
ー…ザク…ザク…
『勝手に抜けてきちゃって…良かったですかね?』
「うん。」
浜辺を歩きながらそう言って頷くヒナに、佐奈も嬉しそうにヒナの横に並んで歩いた。
『こうやってみんなで出かけるのなんて泊まりで旅館に行った時以来ですね!!最近みんな忙しかったですもんね…。』
「…うん。」
旅館にみんなで行ったあの日からもう一年以上が経ち、あれから本当に色んなことがあった。
決して楽しい事だったとは言えない事ばかりだったけれど、今はこうして元通り以上に仕事も軌道に乗っていた。
『色々ありましたけど…これからもずっとみんなで仕事できたらいいなあ…。』
「佐奈。」
『?』
「今度…進一郎さんの口添えで警察のサイバー犯罪対策課に技術指導をしに行くことになった。」
『え…?』
突然のヒナの話に佐奈は思わず驚き足を止めると、ヒナも足を止め佐奈に向き直った。
「昔の事もあるから内部データには触れずに技術だけを教える。だからこれから半年くらい…今迄みたいにずっと事務所にいることは少なくなると思う。仕事場も遠くなるし、いったん別に部屋も借りることにした。」
『事務所を出る…?そ…それに警察に行くなんてヒナさんは大丈夫なんですか…?あのと時の事を覚えてる人だって…それにヒナさんのお姉さんは…!!』
予想だにしなかった展開に頭が付いていっていない佐奈は、慌ててまくしたてるようにヒナに詰め寄った。
だがヒナはそれに動じる事も無く佐奈の言葉を受け止め頷いた。
「……勿論後ろ指を指されるかもしれないし、話も全く聞いてもらえないかもしれない。でも昔の事件はBCIが暴走したとはいえ自分の感情を抑えられなかった自分の過失には違いない、だから少しでも罪を償えるならと承諾した。」
『……。』
「何の相談もしないで決めた事…悪いと思ってる。でも、俺みたいな人間は…過去と向き合える機会は逃しちゃいけないと思ってる。」
そう言って頭を下げたヒナの真剣な表情に、佐奈はただ黙って頷くことしかできなかった。
"もうそんな事気にしなくていいのに"などと、無責任で自分勝手な言葉が口を伝いそうになったのを、佐奈はぐっと飲み込んだ。
色々な想いを抱えて、この人は過去ともう一度向き合おうとしているんだから。
『…事務所をやめるわけではないんですよね?』
「もちろん。」
『それなら……私も応援します!!半年くらい…ヒナさんの帰る場所は私がしっかり確保しておきますから!安心して行ってきて下さい!!』
「佐奈…。」
『はい!!』
「ありがとう……。」
ヒナはポツリとそう呟くと、ニッコリと笑顔を作る佐奈の頭を愛おしそうに優しく撫でた。
佐奈は撫でられた頭に嬉しそうに手をやると、ふざけたようにヒナに腕にしがみついた。
『…でも…浮気しないでくださいよ?』
「うん。」
『部屋借りたら…泊まりに行ってもいいですか?』
「いいよ。」
『いっそのこと…私も一緒に住んじゃおっかな~な~んてっ☆』
「事務所から遠いから部屋借りるって言ってるのに。」
『………分かってまーす、冗談ですよ!!』
佐奈は少しいじけたようにそう言うと、ヒナから手を離し精一杯の笑顔で笑って見せた。
そうして佐奈がヒナから離れ砂浜を歩いていると、突然後ろから聞き覚えのある声が響き、佐奈は振り返った。
「あの……佐奈さん…じゃないですか?」
『へ………?』