Re:4 二人の距離
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー…ホー…ホー…
「と…虎ちゃんどこ行くの…!?」
「……。」
勢いのまま店を飛び出した高虎は、切れ切れになった息を整えながら公園で足を止めた。
手を引いて歩いていた高虎の横顔がどこかいつもより余裕なさ気に見えて、琴子の胸はざわついた。
そして二人の間を強い風が吹き抜けた瞬間、高虎は琴子を抱き寄せ、聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
「…琴子さんが無事で…良かった。」
「虎ちゃん……。」
突然の出来事に驚きながらも琴子が高虎の背中にそっと触れると、
高虎はハッと我に返ったように琴子から離れガバリと頭を下げた。
「すっ……すすすすみません!!勢い余って突然馴れ馴れしく……!!」
「あ…謝らないでよ!!」
「あの……わ…若に聞きました…琴子さんが昔ホステスをしていた頃ストーカー被害にあって辞めたこと。それなのに、若の為に…本当に、本当にありがとうございました。この場を借りて私からも感謝申し上げます…。」
「…。」
そう言ってさっきまでとは打って変わって突然他人行儀な態度をとる高虎に、琴子は少し困惑したように顔をしかめた。
高虎はいつもそうだ。
どれだけ一緒にいて距離が縮まったと思っても、時折こうして一定の距離を保とうとする。
琴子にはそれがどうしても理解出来なかった。
「別に…和泉ちゃんの為だけじゃないわよ。」
「え…?」
「……。」
「……。」
お互い煮え切らぬ態度でそれ以上何も言葉にすることも出来なかった琴子は、少しムスッとしながら踵を返した。
「店に戻る。」
「えっ!?な…何でですか!!?」
「だって元々今月いっぱいの約束だったんだもん、店長達困っちゃうもの。」
「だ…ダメです!!お金は私が支払っておきますから琴子さんはどうぞ"普通の"職場に!!」
ー…カッチーン…
「"普通の"職場~!?悪かったわね!!普通の職場の女じゃなくって!!てか虎ちゃんに言われたくないわよ!!」
「す…すいません!!ですからそう言う意味じゃなくって……でももうホステスで働かないで済むなら働かないで頂きたいと思っただけで…!!」
「「~~~~~!!!!!」」
煮え切らないくすぶった空気は、高虎のささいな言葉の選択ミスで琴子の怒りに火を点けてしまった。
近づけば離れ、離れれば近づくような高虎のじれったい態度に、琴子の我慢は限界に近づいていた。
「だいたい何で虎ちゃんが私にホステスで働いて欲しくないのよ。何の関係もないでしょ。」
「そ……それは……勿論、若の大切なご友人ですから必要がないならば危険でない仕事に就いて欲しいと思い…」
「へーーーー。虎ちゃんは"若の大切なご友人"だったら誰でも抱き締めたりするんだ。」
「そ…それは…」
「もういい!!若若若若うるさいわよこの若コン!!!!和泉ちゃんじゃなくて、虎ちゃん自身がどう思ってるのかって聞いてんでしょーーーーーー!!」
「こ…琴子さん…!!一人じゃ…送りま…」
「うるさい付いて来ないでよバカーー!!!!」
「………。」
琴子に振り切られた高虎は、その場に立ちすくんだまま物憂げにその背中を見送った。
そして高虎を置いて一人雑踏に消えた琴子は、羽織っていた高虎の上着を握り締めながら足早に人並みを掻き分けて行った。
「何なのよ…もう…。」
いつからだったんだろう、虎ちゃんと会うことが当たり前になっていたのは。
いつからだろう、虎ちゃんの存在がこんなに自分の中で大きくなっていたのは。
いつからだろう、友達とも兄妹とも違った、愛しい思いで虎ちゃんのことを見るようになっていたのは。
(でも、虎ちゃんは…そうじゃなかったのかもなぁ…。)
素直に自分の気持ちを伝えきれないのは私だけじゃなくて、もしかして虎ちゃんもなのかもしれないなんて、いい思い上がりだったのかな。
高虎の匂いのする上着が、更に琴子の胸を痛く締めつけていた。
その後、琴子とオタクの奮闘もあってか警察へのバッシングは日に日に激しくなり、ヒナ達への擁護の声は高まっていった。
そして警察が全面的に罪を認めると、高虎の言った通り孝之助の裁判は完全勝利を収めることとなった。
そうして高虎と琴子が顔を合わせぬ日々を過ごしていた頃、
全てを見届けたように、高虎の敬愛して止まなかった冴嶋一敬は静かに息を引き取ったのであった……。