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「佐奈…おまえさあ…。」


『はい？』







日差しも強くなり始めたある日の午後、
和泉は佐奈の跳ねまわった頭を見て溜め息をついた。



「一応事務所の紅一点なんだから寝癖くらい直せよ!!!!」


『はい…じゃあこの仕事が終わって仮眠とって帰る準備が出来たら直します。』

「それは事務所ではなおす気が無いって事だな？しばくぞコラ。」


『だって…それ所じゃないんですもん…。』


そう言ってﾊｱと溜め息をつく佐奈は、最近のヒナと組んでした仕事でヒナのこなす仕事の速さに全く追いつかず、

いつも書類とにらめっこしては報告書の山に埋もれている毎日だったのであった。


「そんなんだから彼氏も出来ないし色気も出ねえんだよ～…。」

『彼氏は関係ないです!!和泉さんだって皆さんだっていないでしょ!?彼女!!』


「う…俺はいいんだよ、品定め中だ!!それに九条も彼女いるしおっさんだって不特定多数いるだろ～ヒナだってああ見えて分かんねえぞ～。」


『えっ!?く…九条さんって彼女いるんですか!?』



和泉の言葉を聞いた佐奈が弾かれたように九条に尋ねると、九条はニコッと笑って答えた。



「はい、いますよ。」


『…………そう…だったんですね…そりゃそうですよね…かっこいいですもんね…。』


「何落ち込んでんだお前。」

『なんでもないです。』



密かに憧れていた王子の思わぬ売約済みを知ると、佐奈は少し落ち込みながら再び書類の山にうずもれた。



『好きな人でもできたら寝癖なおします…。それでは飲み物買ってきますさようなら。』

「はああ!?おい待てコラ佐奈!!」



ー…ﾊﾞﾀﾝ


『はあ…。』


和泉の猛攻を振り切り事務所近くの自販機でお茶を買うと、佐奈は悶々と自分のこれからについて思いを巡らせながらお茶を口にした。



(というか本当に私このままじゃ彼氏どころか好きな人も出来ないんじゃ…!?毎日仕事仕事で会うのは問題抱えた依頼人だけ………なんか無理な気がしてきた……。)


「佐奈。」


(じゃあ事務所の人は？でも唯一ときめいた九条さんは恋人がいて…ほか三人……？いや、無いな。)


「佐奈～？」


(だって和泉さんはあんなだし孝之助さんは歳離れすぎだし…じゃあヒナさん…？

まあ顔はいい方だし背はすごく高いよね…でも背の差があんまりあるとキスの時とかって困らないんだろうか…。)



「佐奈!!!!!!!!」

『わあああはい!?』


「何をしかめっ面で思いつめてんだよ。」



お茶を握り締めながら考え込む佐奈に突如声をかけたのは、孝之助と孝之助に連れられたヒナだった。







『孝之助さんと…ヒナ…さん………』


ー…ﾊﾞｯ!!!!!!


ヒナで勝手な妄想をついさっきまで繰り広げていた佐奈は、突如目の前に現れたヒナを見て思わず顔を赤らめた。



「…どうしたんだ佐奈？」

『いや、気にしないでください…。』


「？」


顔を赤らめたまま俯く佐奈の頭に持っていたファイルをボスッと置くと、孝之助はニッと笑った。


「なんか知らんが仕事だ仕事!!佐奈がいなきゃ出来ない仕事、持ってきたぞ。」



『私がいなきゃ…出来ない仕事？』



孝之助の言葉にキョトンとして首をかしげる佐奈を連れて、三人は事務所へと戻って行った。