Re:4 二人の距離
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ー…ガヤガヤ…
「るな~久しぶりだなあ…待ってたよ!!」
「ふふ、ありがとうございます。だからってあんまり飲み過ぎたらまた入院しちゃいますからね、程々に。」
「るな…!!そんなことまで覚えててくれたんだなあ…ありがとなあ…!!ほら、早くこっち座りな!!」
「ありがとうございます。」
久しぶりに自分に会えて喜ぶ客の男性の隣に琴子は腰を下ろし、ゆっくりと酒を注いだ。
そんな嬉々とした男性の様子を見ながらそれまで男性の反対側に座っていたもう一人のホステスは、ニコリと笑って席を立った。
「じゃあ私はまた後で伺いますね…どうぞるなさんと楽しんで下さいね。」
「おお、一華ちゃん悪いね!!じゃあまた後で!!」
一華と呼ばれたホステスは琴子に穏やかな笑みを浮かべて会釈をしてみせたが、その胸中は決して穏やかではなく
琴子の隣を通り過ぎる際に、一華は小さな声で琴子に暴言を吐き捨てた。
「出戻りの旧トップのおばさんが、調子に乗ってみっともないですよ。」
「あら、こんな短期間でトップに成り上がるなんて余程体を酷使したんでしょうね、いいソープ店紹介しましょうか?」
「……お気遣いなく。」
「あっそ。」
一華のやっかみをあっさり跳ね除け笑顔を見せる琴子に、一華もそれ以上突っかかる事なく悔しそうにその場を後にした。
女同士の諍いなど掃いて捨てるほど経験してきた琴子にとっては取るに足らない事だったが、
トップに立とうと頑張っている若い芽を自分の都合で潰すのは若干気が引けるなと思いながら、琴子はその背中を見送った。
(あれが今のトップ一華ってのね…悪いけどまあ…今だけだから、許してよね。)
「るな?どうしたの?」
「いえ、一華ちゃん体調が優れないようだったので気になっちゃって…」
「そうなの?少し休ませてあげたらいいのにねえ…それにしてもるなは本当に優しいんだな…。」
「そんな…あたりまえのことですよ…!!それより飯田さん、私最近ニュースで見て気になってる事件があるんですけど…」
「?」
琴子はそう言って客一人一人に合った話題から、和泉達を救うための情報を流し続けた。
コミュニケーション能力が高く人の気を惹きつけるのに長けた琴子の話は、みなが真摯に耳を傾けるのには十分だった…。
ー…ガヤガヤガヤ…
「…一華、大丈夫?旧トップだか何だか知らないけど一華にかないっこないよ!!」
「…うん…ありがと。」
一方、琴子にあっさりとあしらわれた一華がバックヤードで悔しそうに琴子を睨みつけていると、
入り口からひときわ盛大な出迎えを受ける大柄な男性の姿が目に入った。
「最上様いらっしゃいました~!!」
「…げっ…最上さん来た~…あの人金は落とすけどセクハラひどいよね~…やだなあ~…。」
「………。」
現れた最上と呼ばれたその中年男は、政財界や裏社会にも通じていると言われている男だった。
金遣いが荒く客としては上客なのだが、女の子達の人格を無視したような振る舞いにホステス達は内心その男を毛嫌いしていたのだ。
「最上さんお久しぶりです、来てくれて嬉しいです。」
「おお!!るな~!!懐かしいなあ、会いたかったよ!!」
「……。」
「一華?」
「いいこと…思いついた~…。」
..............................................................
ー…バタン…
「ふぁああ~…疲れた~…。」
ひと通りの勤務が終わり疲れた様子で店を後にした琴子だったが、
自分の役割にある程度の手応えを感じたようで、清々しい顔で背筋を伸ばした。
(思ったよりもみんなこの件に食いついてくれてたし手応えはある…このまま何週間も続ければきっと…)
きっとこのまま順調に頑張れれば和泉達を救える日もそう遠くはない。
思っていた以上の上客の来訪があった一日に、琴子はやりきった思いで家路を急いだ。
だがそんな琴子の行く手を塞いだのは、琴子を待っていたらしい一台の高級車だった。
「……?」
「お疲れ様、るな。」
「……も…最上さん!?」
突然車から姿を現した最上に琴子が少し驚いていると、最上はニヤニヤと嬉しそうに笑いながら琴子に近づいた。
「るなの方から誘ってくれるなんて驚いたけど嬉しいよ、るなの為にいいホテル予約したんだ、じゃあ行こうか。」
「へ…?誘ったって…私がですか…?」
「さっき一華ちゃんから聞いたよ、仕事終わったら待っててってね。」
(……チッ…あの女……。)
琴子は瞬時に事情を理解し最上に気付かれないよう表情を歪めたが、
すぐにいつもの営業スマイルを作り、それとなく最上に諦めてもらうように促した。
「い…一華ちゃんが少し勘違いしたみたいで、私今日具合が悪くて…待ってて頂いて本当に申し訳ないのですが、またにしても宜しいですか?」
「大丈夫かい?具合が悪いなら尚更ホテルで休むといい、具合が悪い時に一人なんて心細いだろう?」
「はは…でもあの…」
「ね?」
(休ませる気なんて更々無いくせに…よく言うわよ…。)
どう言葉を返しても諦めてくれそうにない最上に琴子がゆっくり後ずさると、最上もまた琴子に距離を詰めた。
意を決した琴子が振りきり逃げようとすると、最上の背後からは明らかにその筋の人間と思われる男二人が姿を現した。
男二人は険しい表情で琴子を見ると、最上の背後にサッと控えた。
(何が何でも連れて行く気…あちゃー…これは流石に…どうしようかしら。)
「この日をどれだけ待ったか…さあ行こうか、る・な・?」
「……やっ…やめ…!!」
ー…ガッ……!!!!!!