Re:2 和泉、フランスへ行く。
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ー…ピーチチチ…
(ふう…。)
あれからエマとナタンと会うこともなく朝を迎えた和泉は、散歩と称してブラブラと街を散策していた。
母の家庭があまりうまく行ってない様子を目の当たりにした昨日、和泉は母の悲しそうな顔を見るのが辛くなってしまっていた。
(まあ…突然兄貴だって現れたって受け入れられる訳ないよな、普通。でもなんか俺にあからさまに敵意が向いてる気がすんだけど…一体なんなんだ。)
「…ん?」
和泉がどこか納得いかないようにザクザクと足を進めていると、姿を現したある建物の前で足を止めた。
そこは6年前、行き倒れそうだった和泉が門を叩くこととなった志願兵の軍事演習所だった。
変わらずおどろおどろしい雰囲気を醸し出す建物に、死んでいった仲間を思い出した和泉は小さく顔をしかめた。
「おい、志願兵なら早く中に入れ。」
「…誰が入るかよ、こんなとこ。」
「ん…?お前、どこかで…」
何かに気付いた様子の警備員を前に和泉はそそくさとその場から離れた。
感慨にふけるほどあの場所にいい思い出もない、思い出すのはただ真っ赤に染まった仲間や敵の姿ばかりだった。
(こんな場所、早く無くなりゃいいのにな…。)
「………ん?」
和泉がそんな事を思いながら足を進め始めると、すれ違いざまに背の高い男と歩く見覚えのある顔をみつけた。
和泉は思わず身を隠しその姿を確認すると、それは紛れも無いエマの姿だった。
(あいつ学校も行かずに何やってんだ…?それに隣の男は…?)
明らかに大分年上に見える男と手をつなぎ楽しそうに話すエマ。
その姿は友人というよりはもっと親密なものに感じられ、和泉の目には異様な光景に映っていた。
「…おい、エマ。」
「!!」
突然かけられた声にエマがびくっと驚いたように和泉の方を振り返った。
だが視線の先に和泉の姿を確認したエマは、面倒くさそうにハアと溜息をつき顔をしかめた。
「…何よ。」
「いや、もう学校じゃねえの、お前。」
「だから何なのよ、あんたに口出しされる筋合いなんてないわ。」
「…まあ、それはごもっとも。」
「誰?この男…」
「知らなーい、行きましょ!」
そう言ってプイと顔をそむけたエマは、戸惑う男の手を引くとそのまま雑踏に消えていった。
一人置いて行かれた和泉はその瞬間、エマの寄り添う男の腕に複数の注射痕があるのを見つけ眉をひそめた。
(ヤク中のロリコンかよ…あいつ大丈夫か。どこもまあ…物騒だな。)
和泉は男と消えたエマのことが気になりつつも、自分が口出しすることでもないかと思い直し家の方向へと踵を返した。
だがしかしその日も終始母は浮かない顔で、エマが夕食の時間までに家に戻ってくることはなかったのだった。
.............................................................
ー…チッ…チッ…
「…まだ起きてんの?」
その日の深夜、
皆が寝静まったリビングで一人編み物を続けていた母に、和泉は心配そうに声をかけた。
「ああ、和泉…ごめんね、起こしちゃった?」
「いや別に…エマ、まだ帰ってねえの?」
「……うん、そうなの。」
そう言ってうなだれたように頷いた母に、和泉は今朝のことを話すべきか迷っていた。
だがエマとあの男が本当に相思相愛で、あの注射痕もただ病院通いをしているだけという可能性も捨てきれないだけに、和泉は口をつぐんだ。
「情けない姿ばかり見せてごめんね、和泉…。」
「ん、いや…別にいいよ、そんなの…。」
一人寂しそうな母の背中に胸が痛んた和泉は、母の正面の椅子に腰を下ろした。
すると母は少し笑顔を見せ、ポツリポツリと二人の子供達について和泉に話し始めた。
「エマは昔から社交的で明るい子でね…でもある時期から夜な夜な友達と遊ぶようになって、こうして遅くまで帰ってこなくなってしまった。
ナタンは学校でいじめられたのをきっかけに部屋に引きこもってしまって、今は部屋に銃やナイフなんかを集めてるみたいで私達は迂闊に踏み込めなくなってしまったの…。」
「銃……」
「でもあの二人は今も仲が良くて、ナタンもエマには話をするんだけど…親として情けない話よね…。」
「……。」
「まあもうこんな時間、もう和泉も寝ていいわよ。
エマがどこに行ってるのか知らないけど、遅くまで帰ってこないのはいつものことだから…。」
「分かった…。」
母のその口ぶりに、今朝のような行動を母が知り得ているとは到底思えなかった。
だがそのうち帰ってくるであろうと待ち続けること数時間、
エマは家には戻らぬまま、連絡がつかなくなっていたのに母が気付いたのは、日が登りきった朝の事だった…。