30.一億人の人質
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ー…ピーポーピーポー…
「やっと到着したか…」
それからすぐに携帯およびパソコンの使用禁止は解除され、街中の混乱は次第に沈静化し始めていた。
救急車や消防車もこの混乱を抜けようやく現場に到着し、早速消火作業と怪我人の搬送作業に移れたのだった。
「く…くそ…離せ!!離せ!!」
「全く…お前を死なせては真実がわからぬと焦ったが、まだ死にそうにないな。」
「俺のバベルが…俺の全財産が…あああ…離せぇ!!」
自殺を試みた瀬尾も必死の応急処置の後目を覚まし、燃えゆく自分の豪邸を前に悲痛な叫び声を漏らしていた。
そんな相も変わらず自己中心的な瀬尾を見て、進一郎はあからさまに嫌悪感たっぷりに瀬尾を見下ろした。
「お前のせいで全国民が死に晒されたんだ…これから刑務所で洗いざらい話してもらうぞ。それこそ死ぬまで嫌というほどな。」
「黙秘を続けて保釈金を支払ってお終いだ、馬鹿め!!馬鹿め!!!!」
「……全くもって救えないな。お前の財産は既に全て失われているというのに…。」
「あの……。」
「?」
悪態をつき続け反省の色を微塵も見せない瀬尾を連行していた進一郎に、千咲を始めとする大勢の瀬尾の部下達が声をかけた。
その声に進一郎が振り返ると、千咲達は各々持っていた瀬尾から渡された武器や証拠となる書類を進一郎に手渡した。
「これは…?」
「私達も瀬尾と同罪です、私達が知っていること、真実…全て証言します。」
「んなっ…き…貴様ら…!!」
「瀬尾さん、今まで本当にお世話になりました。恐らくもうこの世で会うことは無いかもしれませんが…私達は今度社会に出られたらあなたのような馬鹿に騙されないよう、精一杯生きていきますね。」
「………!!!!」
「佐奈さん、九条さん。」
『千咲ちゃん……』
瀬尾にそう言い捨てた千咲は佐奈達の方にくるりと向き直り、二人に深々と頭を下げた。
「もう事務所の皆さんの前に現れないことはお約束します、これからは罪を償って…少しでも真っ当に生き直そうと思います。ご迷惑をお掛けして…本当に申し訳ありませんでした…!!和泉さんが気付かれたら…感謝しているとお伝え下さい…。」
『…分かった。』
「頑張って下さいね。」
二人の言葉に千咲は小さく頷きもう一度頭を下げると、そのまま警察官に連れられて行った。
連行される千咲達を横目にようやく観念したらしい瀬尾はガクリとうなだれ、それに続いて大人しくパトカーに乗り込んでいった。
東雲大臣の依頼から始まったこの一連の負の連鎖。
出口の見えなかったこの日々がやっと終わりを告げたのだと、佐奈はその光景を見ながら改めて喜びに目を潤ませていた。
「さて…ではそろそろ私も行きますか。」
『行くってどこにですか?九条さん?』
「……。」
ヒナと和泉を救急車に運び終えるのを見送った九条はそう言って立ち上がると、
不思議そうに首を傾げる佐奈の頭をポンポンと撫でた。
「心配しなくて大丈夫ですからね。」
『へ…?』
「九条誠一、文書偽造、横領示唆の疑いでお前を連行する。同行願えるな?」
「はい。」
『え……!?』
「連れて行け。」
突然進一郎率いる警察官達が九条を囲むように回りこむと、それ以上言葉を交わす間もなく九条はそのままパトカーに乗せられてしまった。
だが事態はそれでは収まらず、何が起こったのか分からずうろたえる佐奈に更に信じられない言葉が浴びせられた。
「冴嶋和泉、朝比奈了ともに傷害罪、不正アクセス禁止法違反により状態が回復次第取り調べを開始する。」
『なっ……!?』
「付き添いは朝比奈に警察官二名、冴嶋にはSATの腕の立つ人間を数名単位で配置しろ。すぐに搬送だ。」
『ま…待って下さい!!何でヒナさん達が捕まらなくちゃいけないんですか!?ヒ…ヒナさんは皆を救う為に…!!』
わけも分からないまま一人残された佐奈は、無情で理不尽と思われる決断を下した進一郎にくってかかった。
だが進一郎は佐奈の顔を見ること無く足を進めると、佐奈の手を振りほどいた。
「朝比奈、九条両名の事に関してはこの事件が起こる前から捜査が進んでいた。九条は瀬尾の会社を潰す為裏で手を回し、朝比奈はバベルのアクセス情報を盗み出していた。」
『だってそれは……そんなの…!!』
「警察は一般市民の味方だと言ったのはお前だ、相手が瀬尾達一味であってもそれは同じ…瀬尾もまた一般市民だろう。」
『……!?』
進一郎のその言葉に、佐奈は目の前が真っ暗になりガクリと膝をついた。
『じゃあ…私達は一体どうすれば良かったの…?仲間を傷つけられて自分も襲われて…何もしてくれなかったのはあなた達じゃない…!!返してよ…私の大切な人達を返してよ!!!!』
「佐奈さん…」
進一郎は高虎に支えられ泣き崩れる佐奈の方を振り返ること無く、パトカーに乗り込みその場を後にした。
その後、冴嶋一敬、高虎両名も任意同行という形で警察署へと連行されてしまい、残った数人の高虎の部下に佐奈は家まで送り届けられた。
これからはもう襲われると怯えることもなく、またみんなで楽しく事務所で仕事ができる。そう信じて疑わなかった佐奈のそばには、
誰一人として、残ってはいなかったのだった…。
【30】一億人の人質 -END-
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