30.一億人の人質
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ー…ガヤガヤ……
「皆さん、一時的にインターネット接続機器から離れて下さい、非常に危険なウイルスに感染する恐れがあります。繰り返します…」
「ウイルスって…なんなんだよ。」
「ええ~俺LINE返事返してねーんだけど、見ていいよな。」
「一体どういうことだ!?納期が一時間後なんだ、ふざけるな!!」
進一郎からの指示通り警告を伝え回っていた警察官達だったが、突然の事態に街中はパニックに陥っていた。
インターネット回線ごと遮断するという手段をとろうとしたが全ての回線では到底間に合わず、警察官と市民のアナログな攻防が街の至る所で続いていたのだ。
「ふざけんなよ、どうせ俺二台持ってっからこっちは感染してもいいや……」
ー…ガッ…!!!!
「ダメだ、解除命令があるまで解体の画面を見てはいけない、死んでしまうぞ…!!」
「………し…死ぬ…!?」
そんなパニックの中、孝之助の見舞いに来ていた琴子は、病院内で慌てる警官たちの様子に動揺を隠せないでいた。
未だ目を覚まさず眠り続ける孝之助の隣で琴子は携帯を握りしめると、不安そうに窓の外を見た。
「……佐奈…みんなと何か関係があるの…?」
「急げ!!携帯の使用を中止させるんだ!!」
「ウイルスの発生時間になっている…早く!!」
「…所長さん…寝てる場合じゃないわよ、あんたの大事な部下達が大変なことになってるかもしれない…。みんな…あんたのこと待ってるんじゃないの…?ねえ…!!」
「………」
ー…ピピピッ…ピピピッ…
「…え…!?」
.............................................................
ー…ゴオオオオ…
「どう…なったんだ……?」
「……!!?」
ヒナが部屋に入ってからちょうど15分。
燃えさかる炎の消火に当たっていた皆だったが指定された時間となったその瞬間、当たりは妙な静寂に包まれていた。
「近隣の状況を…確認してみますか…?」
「まだだ、朝比奈が止められていなければ…携帯を見た時点で死ぬぞ!!それより消防隊と救急車はまだ到着しないのか!!」
「それがこのパニックで一般電話の回線がパンクし至る所で混乱が起きているようでまだ…!!」
「ちっ…!!一体どうやって…確認しろと言うのだ…!!」
バベルが拡散されたのかされていないのか、
確認の取れない一同にとってはもはや命綱であったはずの携帯電話は導火線に火のついた爆弾と同じであった。
そんな中一人沈黙を破るように声を上げたのは、ヒナの安否を心配し続けていた佐奈だった。
『ヒナさんは絶対成功させてます、絶対に…!!』
「…お…おい待て!!」
佐奈はそう言うと、進一郎の制止を振り切って自分の携帯電話を取り出した。
佐奈の行動に皆が思わずそれから目を逸らす中、隣に立っていた九条と高虎だけは懐から携帯を取り出し笑顔を見せた。
「私もヒナのこと、信じていますよ。」
「自分もです。」
『はいっ…!!!!』
三人はそう言うと、同時に携帯の画面を表に向け視線を落とした。
だが携帯の画面からはなんの異変も見られず、体にも何の影響も見られず、三人は顔を見合わせて笑顔で頷いた。
「……だ…大丈夫なのか…ん…?」
「いない…?」
進一郎を含む周囲の警察官たちが目を開けると、そこにはすでに三人の姿は無くなっていた。
三人は携帯を見るなり部屋から出て来ないヒナを助ける為、燃え盛る屋敷の中へと飛び込んでいたのだった。
『ヒナさん!!ヒナさん!!!!』
「ちっ…火がもうこっちにまで……!!」
「成功しているのに出て来ないとなると…急いだ方が良さそうですね。」
煙も次第に充満しヒナの状態が心配される中、ヒナのいる部屋へと続く通路には既に火の手が迫っていた。
勢いのある炎を消そうと水をかけるが、バケツの水などでは既に手に負えない状況となっていた。
「このままでは…ここさえ抜けられれば向こうはまだ火の手がないのに…!!」
『……!!』
消防隊もレスキュー隊も到着しないままこのままヒナを放置したら間違いなくヒナの命はない。
佐奈はほとんど無我夢中で外まで走り出ると、停めてあった事務所の車に乗り込みエンジンをかけた。
「お…おい小娘何をする気だ…まさか…!!」
『九条さん高虎さん!!どいて下さい!!!!!!』
「へ?」
「げっ!!!!」
『ヒナさんは…絶対に私が助けます!!!!!!!!!!』
ー…ギュルルルルルルルルルル…ドガシャーーーーーーーーン!!!!!!
佐奈はそう気合を入れて叫ぶと、アクセルペダルを最大まで踏み込み扉をぶち壊して炎の中を突っ切った。
佐奈は車ごと炎を通過すると一旦車を停止させ、中で気を失い倒れていたヒナを引っ張り出した。
「佐奈……?」
『ヒナさん……もう大丈夫です…!!外に出ましょう…!!』
「……。」
火事場の馬鹿力とでもいうのか、本来なら190㎝のヒナを佐奈が抱えられるはずも無い。
だが佐奈はありったけの力でヒナを支え強引に車に押し込むと、またアクセルを踏み込み正面のガラスを破って外へと飛び出したのだった。
『ハア…ハア…で…出られた…!!』
「なっ…な…」
「ほう、肝の座った女子やのう!!アハハハハ!!」
「全く…これだから馬鹿は信じられん…。」
佐奈の一連の行動を呆気にとられたように傍観していた皆は口々に驚きの声を漏らし、佐奈に対して賞賛の拍手を送ったのだった。
だがそんな中九条はズカズカと佐奈に近寄ると、佐奈のほっぺたを引っ張りながら言った。
「あのですねえええええ、火事の中に車で突っ込む人がありますか!!危うく車ごと爆発するところでしたよ!!!!今回はたまったま助かったから良かったですがねええええ!!!!聞いてますか!?佐奈さんっ!!!」
『…はい…すみませんでした…。』
「本当にもう…良かった、心臓が止まるかと思いましたよ。」
そう言うと、九条と佐奈は顔を見合わせて笑い、後部座席に横たわるヒナの元へと駆け寄った。
「く…九条さ…」
「ヒナもよく頑張りましたね…あなたのお陰で、誰一人死者は出ずに済みましたよ…。」
『そうです!!ヒナさんが皆を守ったんですよ!!』
「……良かった…」
九条と佐奈の言葉に、ヒナは声にならないほどの小さな声でそう言うと、小さく微笑んだ。
そして皆にそう一言告げたヒナは、力を使い果たしたように佐奈の腕に倒れこんでしまった。
(ヒナさん…本当に良かった…!!)
バベルの影響がまだ否めないとはいえ、ひとまず安堵したような穏やかな顔で眠るヒナ。
そんなヒナに佐奈は心のなかでそう言いながら、ぎゅっと優しく抱き締めたのだった。