30.一億人の人質
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ー…バタバタバタ…
『ヒナさん…!!』
「ヒナ…どうするつもりですか…?」
「画面を見なければバベルの攻撃は受けません、BCIで…全ての作業を終わらせます。」
「可能…なんですか?ヒナのBCIは体に多大な負荷が…」
「今この日本でバベルを止められるのは物理的にも技術的にも恐らく俺だけです。」
不安げに尋ねる二人の言葉を遮るようにヒナは返事を返した。
出来ないでは済まされない、そんな覚悟がヒナの言葉からはにじみ出ていた。
「それより佐奈と九条さんも早く外に、このメインの画面も見ない方がいい。いつバベルが発動するか分からない。」
『それならヒナさんも…!!BCIを使うなら外でだっていいでしょう!?』
「正直これで間に合うかは微妙、間に合わなかったら直接このパソコンから停止させるから。佐奈達は先に外に。」
『でも…だってそれじゃヒナさんが……』
死んでしまう、と言おうとして佐奈はその言葉を飲み込んだ。
ヒナは今たった一人で自分の過去と戦おうとしている、
絶望的な状況なのは誰の目に見ても明らかだったが、そんなヒナをこれ以上ぐらつかせることは佐奈にはどうしても出来なかった。
そして佐奈は一人何かを決意したようにギュッと自分の拳を握り締めると、
勢い良く顔を上げヒナの手を握り満面の笑顔で笑った。
『ヒナさん………頑張れ!!!!!!!!!』
「…佐奈…。」
『私、信じて待ってます…!!』
「…うん、ありがとう。」
佐奈の笑顔にヒナは小さく頷くと、佐奈を残し一人バベルのある部屋へと入っていった。
そんなヒナの背中を見送った佐奈はヒナの姿が見えなくなった瞬間、その場にガクリと膝をついて俯いた。
「佐奈さん…」
『私……言っちゃった…』
「…?」
『ヒナさんに頑張れって………言っちゃったああああ……!!!!!!』
「佐奈さん……」
本当は無理にでも連れ出したかった。
和泉さんの言葉を借りるなら、無関係な人がどれだけ死のうが構わないから私はあなたに生きていて欲しい。
そう、伝えたかった。
だけどきっとそうしたらあなたはもう二度と笑ってくれないような気がした。
自分のせいで沢山の犠牲が出たまま生きていけるほど彼は強くないって知ってるから。
優しい人だって…知ってるから。
泣き崩れヒナのいる部屋の前から離れようとしない佐奈。
まだ瀬尾の点けた火の鎮火は出来ておらずじわじわと火の手も迫る中、九条はうずくまる佐奈の手を取り佐奈の頬をパチンと軽く叩いた。
「あなたがヒナを信じてあげなくてどうするんですか…!!あなたや私達の為に命を張った和泉と孝之助さん、そしてヒナの為に、あなたができる事はこんなところで泣き崩れることではないでしょう!!」
『……!!!!』
「自分の過ちに自分でカタを付けられることは私達にとって滅多に無いチャンスなんです。ヒナのこと…今は心から応援してやってくれませんか…?」
佐奈は九条の言葉にハッと顔を上げた。
ヒナを失う恐怖のあまりヒナを信じることを止めてしまっていた自分、そんな自分に気付いた佐奈は、思い直したように涙を拭い頷いた。
ヒナは死にに行ったのではない。
ヒナは救いに行ったのだ。
私達だけじゃない、今も皆の帰りを待つ琴子やオタクさん。
商店街や近所のおばちゃんおじちゃん達、
私や皆の家族、親戚、
今まで関わってきた依頼人やお世話になった人達、みんなみんな。
その全てを、ヒナさんは救おうと頑張っているんだ。
佐奈は居ても立ってもいられず突然九条の元から走り去ると、
建物に広がる火の鎮火を進める進一郎達を、率先して手伝い始めたのだった。
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ー…ハア…ハア…
「/tool.…enter.…開いた…。」
一方、部屋に残ったヒナは一人BCIを使い自分のマシンを介してバべルのある瀬尾のマシンへ進入する事に成功していた。
残り時間はあと9分、
これからコンピューター内部からバベルを停止させることは無謀にも近いことであったが、ヒナはためらうこと無く作業を続けた。
「…バベル…あった…っ………ゴホッ…ゴホッ……!!!!」
一心に作業を続けるヒナの目と口からは、咳き込むたびに赤く血が滲んだ。
BCIで短時間の作業を行っただけでも酷い頭痛と目眩に苦しまされていたヒナ、
そのヒナが全てのハッキング作業をBCIのみで行うのは勿論初めてのことで、体に与えるダメージは遥かに想像を超えたものであった。
とうに頭痛などで片付けられる程度の痛みは超えている、脳の中に小さな刃物を刺し込まれそれが縦横無尽に暴れまわっているようなそんな痛み。
一瞬でも気を抜けば気を失ってしまいそうな痛みの中、ヒナは必死にただバベルを停止させるためのプログラムを打ち込み続けた。
バベルの唯一の天敵である自分。自分が止めなければ、恐らく日本の人間の半分以上は死に絶えてしまうのであろう。
一億人以上の何も知らない人質を救う為、ヒナは自分の体がもつことを祈りながら必死の攻防を続けていた。
だが時計の針とバベルのダウンロードゲージが無情にも進行し続ける中、ヒナは何かを決意したように立ち上がった。
「……これじゃ…間に合わない…」
ヒナはBCIの副作用の痛みでフラフラの体を起こし瀬尾のパソコンの前に腰を下ろすと、極力画面を見ないようにしながら物凄い速さでタイピングを始めた。
痛みでもうBCIを素早く動かせなくなっていたヒナは、残り僅かな解体をバベルによる攻撃を覚悟の上で直接瀬尾のマシンで進める事に決めたのだ。
一つキーを押す度、ひどい痛みが襲うことにはもう慣れた。
あと二分、あと一分、ひきこもりの割には頑丈だと言われた自分の体がバベルに完全に殺されてしまう前に
「15分経過まで残り5秒です…!!」
「ヒナ…」
『ヒナさん……!!!!』
4
3
2
どうか。
1……