30.一億人の人質
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ー…ザッ……
「なっ…お前は……南在…!!?」
すでに瀬尾の部下ら一派は一敬達によって鎮圧され、
その背後から現れたのは、瀬尾が裏切らないと信じきっていた警察組織、そしてそこの現トップである南在進一郎の姿だった。
瀬尾は動揺しうろたえ周りを見渡したが、既に自分の周りには味方と呼べる人間が一人もいなくなっていたことに瀬尾は今更気が付いた。
「遅過ぎじゃねえか若造…とっくにカタはついちまったぞ。」
「貴様らのような小さな組織とは違い警察組織を動かすには時間と手間がかかるのだ。」
「ふん、そうかよご苦労なこった。」
一敬はハハッと皮肉たっぷりに笑うと、進一郎とともに瀬尾の前に立ちはだかった。
この世界の表と裏を回す人間。
今まで自分が人類の頂点にいると有頂天になっていた瀬尾も、この二人を前にして動揺するなというのは無理な話だった。
「瀬尾克己、お前を殺人教唆、及び殺人罪、銃刀法違反諸々で逮捕する。」
「貴様…一体どういうつもりだ…裏切るというのか!!佐橋が黙っていないぞ…!!」
「そうだろうな、だが俺はもうお前らのご機嫌取りには嫌気が差した、共に地獄まで堕ちるぞ、瀬尾。」
「地獄…?はは…お前何言ってるんだ?」
「連れて行け。」
ー…バッ!!!!!
「う…動くな、動くと日本中の至る所で大多数の死人が出ることとなるぞ!!」
「…何…?」
『「……!!」』
進一郎の突然の裏切りとその強硬な姿勢に驚いた瀬尾は、思わず自分の最後の切り札を盾に進一郎達を脅し始めた。
だがバベルの存在を知らなかった進一郎達警察は、瀬尾の気が触れ狂言を吐いたのだろうとくらいにしか思ってはいなかった。
「今ここで抵抗したところでお前はもう逃げられない、大人しく観念しろ。」
「抵抗…?するよ、俺は捕まればこの一攫千金のチャンスを棒に振ることとなるんだ、捕まってたまるか!捕まってたまるか…!!」
瀬尾はゆっくりと警察と間合いを取りながら、震える手で携帯を何処かに繋げていた。
必死の形相で電話口にかじりつく瀬尾だったが、そこから聞こえてきたのは無情とも言える音声だった。
「佐橋…佐橋…早く出てくれ…お前の為に戦った俺を助けてくれ……佐橋…佐橋!?」
「ー…プルルルルルルル…プツッ…お客様がお掛けになった電話番号は、現在使われておりません。」
「…ー!?」
警察組織さえ裏で操るほどの絶大な力を持つ佐橋、その佐橋はすでに瀬尾のことを見限っていた。
そんな佐橋から依頼を受け更にその後ろ盾を武器に好き放題やってきた瀬尾は、この時ようやく自分が佐橋に見捨てられたことに気が付いたのだ。
「はは…ハハハハハ…嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…!!佐橋が俺を見捨てた…?そんなはずは…どうして…どうしてこんな事に…!!」
『どうしてって……だから言ったじゃないですか…。』
「……!?」
『天罰が下るって…!!反省して…罪を償って下さい…!!!!』
佐奈の自分にまっすぐ向けられた言葉に、瀬尾は思わず言葉を失い呆然と立ち尽くした。
だが虚ろながらに進一郎の声が聞こえその手が触れた瞬間、瀬尾は弾かれたようにその場から部屋の奥へと走り去った。
「逃げたぞ!!追え!!」
「…まさか…!!」
逃げた瀬尾を進一郎達よりもいち早く追いかけたのはヒナだった。
ヒナは瀬尾がバベルのある部屋に向かったと見てその後を必死で追い、更にその後を佐奈達と進一郎らが追った。
だがその行く手を阻んだのは、瀬尾が点けたと思われる至る所で燃え盛る炎だった。
「下らん、こんなもので振りきれると思っているのか…!!すぐに消火だ!!」
「あの部屋か…!!」
『ヒナさん鍵が!!』
瀬尾が逃げ込んだと思われた部屋には、ガッチリと鍵がけられていた。
何度押し破ろうとしても頑丈な扉は破れず、すぐさま進一郎の部下達が持っていたチェーンソーで扉を破壊することとなった。
『ヒ…ヒナさん…』
「………。」
ー…バンッ!!!!!!!!!!!!!!!!
「開いたぞ!!!!!」
「瀬尾!!そこまでだ!!」
『っ……!!』
壊され無残な姿となった鉄の扉を踏み越え進むと、その先には血まみれで倒れる瀬尾の姿と不気味に赤く光るパソコンが置かれていた。
倒れる瀬尾に急いで駆け寄ったヒナは血まみれの洋服を掴み上げ、必死の形相で瀬尾に問いただした。
「このパソコンのパスワードを言え!!早く!!」
「………はは、俺も終わりだ、この世界も…道連れにしてやる…!!」
「…言え!!瀬尾!!!」
起き上がらせた瀬尾は体の至るところから血が吹き出しており、そう一言吐き捨てた瀬尾はそのまま意識を失った。
後がなく逃げられないと踏んだ末の行いではあろうが、残した置き土産は今まさに最悪の事態を引き起こそうとしていた。
ー…ピー…ピー…
「おい…こいつを連れて行け、すぐに応急処置だ!!殺すなよ!!それよりも…これは一体何だ…?」
『ヒナさん…まさかこれって……』
「……バベル……!!」
瀬尾の起動させたと思われるパソコンは赤く警告音を発しており、おどろおどろしく何かをダウンロードしている様子が映し出されていた。
何も知らない進一郎がパソコンに近づこうとすると、ヒナは声を荒らげそれを阻止した。
「出て行って下さい、そして、全国民にインターネットと接続している機器を見ないよう今すぐ緊急速報を出して下さい。」
「どういうことだ…?」
「バベルは画面を通じて脳波に異常を起こさせ人を殺します、もうすでに瀬尾はこのプログラムで何人も殺している。瀬尾はそのプログラムを今日本中に無差別に拡散させようとしている…発動までは多く見て15分、急いで下さい…!!」
「……!?」
にわかには信じられない話に、思わずその場にいた警官達は互いに顔を見合わせた。
だが進一郎は瀬尾が佐橋と組んでから佐橋の対立候補の政治家が不審な連続死を遂げていることを知っていた。
それを引き起こしたのがこのバベルと瀬尾だとしたら、その存在の全てに合点がいった。
進一郎はすぐに戸惑う部下達に緊急速報を手配するよう呼びかけたが、その瞬間ハッとある可能性に顔をしかめた。
「だがしかし…この速報の真意を確かめる為に逆にパソコンや携帯を見る者が増えるのではないだろうか…?この速報は逆効果になるのでは…!?」
「出来うる限りそれまでに俺が"これ"を止めます。ですが万が一を考えて…お願いします。」
「わ…分かった。」
進一郎はそう言うと、すぐに警察本部と連携し、極力インターネット回線を使わない方法で警報を発令するよう伝えた。
ラジオ、街頭放送、警察官が直接呼びかけて回るなどアナログな方法を取ることしか出来ない為どの程度この呼びかけが伝達できるかは全くの未知数。
だが今の進一郎にできる事はヒナのバベル解体の成功を祈りつつ、手助け出来る事を実行するのみだった。
「総理官邸、防衛大臣の指示を仰いだほうが宜しくはないでしょうか?にわかには信じ難い話ですし…」
「では佐橋防衛大臣にこのことを伝えろ、真っ先に携帯を投げ捨てるだろうからな。それよりも消火だ!!朝比奈の作業を滞らせるな!!」
やはり自分は守るべきものを履き違えていた。
警視総監という仕事は、自分の地位や名誉を守る為の役職ではない、国民を守る為のものだったのだ。
そんな簡単な事にも気づかずに頂点でふんぞりかえっていた裸の王様の自分。
もっと自分が早くに瀬尾と佐橋を逮捕できていたら。
進一郎は必死に方方に電話を繋げながら、一人悔やんでも悔やみきれない思いに唇を噛み締めた。