30.一億人の人質
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ー…ギリッ…
「あんな会社一つ潰れたところで痛くも痒くもない…それにお前らは何か勘違いをしている。俺を捕まえる…?そんなこと、天地がひっくり返ったって無いことは分かりきっているんだからな……アハハハハ!!」
「……。」
「朝比奈了とお前達さえ殺せれば、何の滞りもなく金はまた俺の元へ舞い込んでくる、無駄なお仕事ご 苦 労 様。」
そう言ってニヤリとまた不敵な笑みを浮かべた瀬尾は、武器を構えた部下の後ろにさっと身を隠した。
その瀬尾の行動に部下達は一斉に銃のトリガーに指をかけると、高虎も構えていた銃にグッと力を込めた。
「安心して蜂の巣になりたまえ、すぐにあの死にぞこないの所長も後を追わせてあげますからね。……死ね!!!!!!!!!!!!」
「皆さん私の後ろに伏せて下さい!!!!」
「『……ー!!!!!!』」
ー…ドドドドドドドドドドド!!!!!!!!
瀬尾の声に次いで響いた高虎の声に従って、佐奈達は無我夢中でその場にうずくまった。
飛び交う銃弾と耳をつんざく銃声に佐奈達は目も開けられずに、撃たれてしまうであろうことを瞬時に覚悟した。
だが音が止み体からは不思議なことに少しの痛みもないまま硝煙が晴れると、恐る恐る目を開けた佐奈は驚きの光景に息を呑んだ。
ー…ザッ…
「危なっかしくて組長なんかやらせとられんなぁ、虎よ。」
「はは、申し訳ありません…。」
『あなたは……!!』
「さっ…冴嶋一敬……なぜここに…!!」
佐奈達の目の前に現れたのは、冴嶋一敬と率いていた冴嶋組、そして冴嶋一敬に恩義のある極道の人間達だった。
一瞬で完全に頭数をひっくり返され多数の負傷者を出していた瀬尾達一派は、慌てた様子で更なる応援をかき集めるように指示を出していた。
「くっ……し…至急応援を…今すぐだ!全員ありったけの武器を持って来るよう伝えろ!!殺されてたまるか…!!」
「で…ですがもう残りは戦闘員では…」
「構わん、かき集めろ!!」
「いいかお前ら一気に落とせ、責任は俺が地獄まで持ってってやる。かかれ!!」
一敬の指示で、抵抗を見せる瀬尾一派に冴嶋組が一斉に襲いかかった。
その横で間一髪で難を逃れた高虎は、残り数発しか残っていなかった銃を握りしめながら佐奈達の無事を確認しホッと胸を撫で下ろした。
「虎、そこの馬鹿は生きとるんか。」
「…はい。」
「そうか…このこと、そいつに言うんじゃねえぞ。」
「え…?」
その言葉に不思議そうに一敬を見上げる高虎を見て、一敬はフッと笑って言った。
「今更恩なんて売りたかねえんだよ、目が合えばクソジジイクソジジイってクソガキが…」
「……。」
「だから…最低最悪のクソジジイのまま死なせろ。」
「組長…」
「組長はお前だろバカ虎。」
すかさずツッコミを入れてニッと笑う一敬に、高虎もまたそうでしたと言って笑った。
目からこぼれそうになる涙を高虎はぐっと拭い仕切りなおすと、渡された新しい銃を持ち一敬の横に並び銃を構えた。
「さっさと片付けて帰るぞ。」
「はい!!」
恐らく一敬の体は病魔に蝕まれもう立っている事すら辛いはずなのも、高虎は嫌というほど分かっていた。
だが病院に入院してから口癖のように病室で死にたくないと言っていた一敬の隣で、またこうして背中合わせで立っていられることを高虎は心底嬉しく感じていた。
(あなたを死なせはしません…皆で生きて帰りましょう、若……!!)
未だピクリとも動かない和泉に高虎は祈るように心の中で語りかけた。
そうして激しい銃撃戦と肉弾戦を繰り返し、はなから戦闘へのモチベーションが違っていた瀬尾一派は防戦一方となり始めていた。
そんな中、瀬尾は戦い倒れゆく部下の姿にチッと舌打ちをすると、人影に隠れながらその場を後にしようとしていた。
ー…バタバタバタ…バタン…!!
「逃げるのか。」
「…!!朝比奈…了…!!」
戦いを続ける部下を見捨てて逃げようとした瀬尾の前に立ちふさがったのはヒナと佐奈だった。
静かに怒りを押し殺したヒナは表情一つ変えず逃げる瀬尾に近づくと、有無を言わせぬ威圧感で瀬尾に詰め寄った。
「バベルを解体する、本体はどこにある。」
「どうしてお前にそんな事を教えなきゃならないんだ。」
「バベルは俺自身だ、俺が地獄に道連れにする…言え!!」
「…くくっ…道連れ…解体だと?」
「…?」
瀬尾はまたもクスクスと狂ったように笑い始めると、目の前のヒナを覗き込み勝ち誇ったように言った。
「したければやってみろ。お前とバベル、どっちが死ぬのが早いかな?」
「…どういう意味だ。」
「お前にワクチンを開発されてから俺自身でだいぶバベルを作り替えたんだよ。
バベルをハックしの停止解体をしようとすれば、その相手のコンピューターにもバベルのウイルスが瞬時に送られ画面を通じて相手を死に至らしめる。いわばバベルの自衛攻撃ということだ。」
「『…!!』」
『で…でもヒナさんのパソコンにはワクチンがあって、バベルの攻撃は効かないんじゃ…』
「付け焼刃的ではあるが、ついさっきバベルのプログラムをいじって今のお前のウイルスでは効かないように作り替えたのさ。
すぐにお前に新しいワクチンを作られるのは分かっているが今はそれでいい。そのほんの少しの時間さえあればバベルがお前を殺すのが先だ、お前に勝ち目など無い。」
『……ヒナさん…。』
「………!!」
「さあどうする?人質はこのネットワーク社会、日本だけで一億人は下らないぞ。俺がバベルを無差別に拡散させれば、さて一体何人の人間が死ぬだろうなあ…なあ朝比奈。」
完全に予想外の事実を突きつけられたヒナはギリッと歯を食いしばり顔をしかめた。
そんなヒナを見て瀬尾は楽しそうにニヤニヤと笑うと、立場をひっくり返したように高圧的に言い放った。
「そうだなあ…お前が死んでくれるっていうんなら無差別に拡散させたりはしないと誓ってもいい、どうだ?お前一人の命で無関係な一億人の命が救われるぞ。」
「………。」
「さあ、今ここで死んでみせろ。」
『…ダメですよヒナさん…ヒナさん!!』
目の前に投げ渡されたナイフを手に取ったヒナから、佐奈は慌てて強引にナイフを奪い取った。
佐奈は手にとったナイフをギュッと握りしめ瀬尾に向けて構えると、ヒナと瀬尾の間に立ち塞がった。
『あなたの下らない欲望の為にヒナさんを殺すなんて絶対にさせません…!!きっと今に、今に天罰が下りますよ…!!』
「天罰?ははは、負け惜しみを言うにももっとマシなことを言ったらどうだ小娘!!天罰は今まさにこの朝比奈に下っているんだよ、こんなものを作り出す手助けをしたんだ…当然だよなぁ。」
そうヒナに語りかけるように言う瀬尾に、ヒナの顔はみるみる曇っていった。
ヒナが最も否定出来ない心の枷、
そこに塩を塗りこむような瀬尾の残酷な言葉に、佐奈の怒りは頂点に達していた。
『黙って下さい…それ以上ヒナさんを侮辱すると許しません…!!!!』
「佐奈…。」
「ふははははははははは!!許さないか!俺を殺すか?それとも捕まえるか?やってみろ!!!!」
『っ…わ…私は…!!』
「では、捕まえることとしよう。」
「!?」