29.利用と救済と
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ー…ドンッツ…!!!
「え…?え…あ…うわ…うわああああああ!!」
瀬尾が和泉に背を向けたその瞬間、
瀬尾の左肩からは真っ赤な血が滲み出ており、痛みに顔をしかめながら瀬尾は後ろを振り返った。
ー…ドサッ…
「な…何だ貴様…一体どこから…!!」
「冴嶋組が組長新藤高虎、若は返して頂きます。」
「冴嶋組組長だと…?ああ、そうか君が冴嶋和泉に変わって組長になったっていうあの…。」
和泉を連れて行こうとしていた男達は既に高虎によって制圧されており、
和泉と瀬尾の間に立った高虎は、この世の恨みを全て含んだかのような眼差しで瀬尾を睨みつけた。
『和泉さん!!和泉さん!?』
「和泉!!」
「…あれは…南在探偵事務所の連中…!?どうして奴らがここまで入って来れたんだ!?」
高虎に続いて現れた佐奈達三人に、瀬尾は血の滲む腕を抑えながらキョロキョロと辺りを見回した。
すると扉の向こう側には先程和泉に逃がされたはずの千咲達が和泉救出の為に通風口を開けガスの出る穴を広げていた。
その姿を見た瀬尾は全てを理解し顔をしかめると、チッと舌打ちをしながらガスマスクを外した。
「恩を仇で返すとは…余計なことをしやがって……!!」
「……。」
瀬尾がそう悔しそうに言う前で、佐奈と九条とヒナは血まみれで倒れる和泉に駆け寄った。
だが和泉は息こそしているものの焦点の合わない目で目を開いているだけで、こちらの呼びかけには何の反応も示さなかった。
『和泉さん佐奈です!!分かりませんか!?和泉さん!??』
「…………。」
「恐らくこれは…薬を…」
『…酷い…。』
「和泉…」
和泉は薬物の多量摂取と同様の状態になっており体の自由はきかず意識もうつろで、今すぐ病院に連れて行かないと危険な状態だということは目に見えていた。
だが高虎に腕を撃ちぬかれた瀬尾はそう簡単には引き下がる気はなさそうで、怒りに震える瀬尾は爪を噛みながらブツブツと言葉を並べ立てていた。
「このスーツ高かったっていうのに…あいつら絶対に許さない…まあいい…また殺せば金が入る、そうしたら…そうしたら今度はもっと高いスーツを買って…」
「……。」
「やっぱり"あいつ"が邪魔なんだ、あいつが、邪魔だ、殺さなきゃな、もっと殺さなきゃな…あいつを一番に殺さなきゃ…」
『く…九条さん…。』
「……ええ、狂っていますね。」
瀬尾はそうブツブツと呟くと、ヒナの方をじっと睨み付けた。
明らかに正常とは言えない異様な空気を醸し出す瀬尾に、その様子を見ていた佐奈は思わず恐怖に息を呑んだ。
金に執着し人の生死などに何の頓着もない金の亡者、
こんな奴のせいで孝之助は生死の境をさまようことになったのかと思うと、佐奈はやるせない気持ちでいっぱいになった。
すると九条が湧き上がる怒りを必死に抑えこんで瀬尾の前に立ち上がり、まっすぐに瀬尾に向かって言った。
「残念ですがもうあなたの元へは金は一銭も入ってはこないし、私達の仲間に手出しもさせない。」
「…は?」
「観念して警察に出頭しなさい、あなたはもう終わりです…瀬尾克己。」
「……!?」
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ー…バタバタバタ…バタン!!
「南在警視総監…た…大変です…!!」
警視庁のある一室、
血相を変えた部下が、慌てて警視総監である進一郎のもとに飛び込んで来た。
書類に目を通していた進一郎はあからさまに嫌そうな顔で書類を机に置くと、ゼエゼエと息を切らす部下を睨んだ。
「騒々しい、何事だ。」
「そ……それが…!!」
「よお、せっかく来たんだから茶ぐらい出さなねえか。」
「お前は……冴嶋一敬…。」
進一郎の元を突如訪れた珍客は、和泉の祖父であり元冴嶋組組長、現冴嶋組会長の冴嶋一敬だった。
一敬は眉をひそめ顔をしかめる進一郎にニッと笑うと、ズカズカと勝手に部屋のソファに腰を下ろした。
「つまみ出せ。」
「おいおい、今は丸腰のただの弱い老人やろう。老人は労るもんやと学校で習わんやったか?相変わらずお前は愛想が欠落しとるな。」
張り詰めた空気の進一郎と一敬を見ながら、部下はその様子を戸惑いながら見つめていた。
部下のその状況に気付いた進一郎は部下達に席を外すように促すと、人払いをした上で一敬の前に居直った。
「何の用だ。」
「いやなに…お前ら組織がふざけた事に手ぇ貸してるせいでうちのモン持ってかれちまってなぁ…被害届出しに来たんだよ。」
「心当りがないな。」
「あんまりナメたこと言っとると一発眉間にぶちこむぞ若造。」
「…どこが丸腰の弱い老人だ。」
「別に何もてめえを討ち取りに来たわけじゃねえんだよ。」
「……。」
かぶせるように言葉を返してきた一敬は、口をつぐんだ進一郎にイライラしたように机を叩きながら更に言葉を畳み掛けた。
ー…カッカッカッ…
「お前らが手え出さんもんだからうちのが乗り込んじまったんだよ…これ以上お前が手をこまねいとるだけなら俺は俺の顔が利く範囲の全勢力使って"佐橋"を叩くぞ。」
「……!!」
一敬が口にした佐橋の名に、進一郎が眉をひそめ顔を曇らせると一敬はニヤッと笑った。
「佐橋は裏ルートで武器の密輸をしようとしていた、それも戦争をしようかってくらいな。うちが断った後もあいつは別ルートで武器を手に入れコンスタントにそれを使っている、違うかい?南在警視総監さんよ。」
「……。」
「お前の地位や名声は佐橋の後ろ盾があってのことで逆らえないのは分かっている、だがな……お前はなにか守るものを履き違えてるんじゃねえのか?自分が誰の味方になるべきなのか、もう一度じっっくり考えるんだな。」
一敬はそう言ってバンと机を叩くと、そのままソファから立ち上がった。
進一郎はそんな一敬の後ろ姿を呆然と見ながら、何かを思い出したかのようにポツリと呟いた。
「…誰の味方…か、確か数日前にもそんな事を言われたな。」
「ほう、俺の他にもてめえにそんな口を叩く大層な命知らずがいたか。」
「大層でも何でもない、あいつによく似た…ただの小娘だ。」
社会の表と裏を回す大きな歯車。
それが今、ひとつの事務所をきっかけとして同じ方向へと回り始めようとしていた…。
【29】利用と救済と -END-
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