29.利用と救済と
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ー…ガンッ…ガンッ…!!
「ごほっ…ごほっ…ひっ…ひいい…!!」
「ガスは上に溜まる、出来るだけかがんでろ!!!!」
和泉はそう言いながら、一人ひたすら扉の破壊を試み続けていた。
和泉を手伝っていた男達も一人、また一人と倒れていく中、必死に耐えていた千咲も遂に咳き込み倒れこんだ。
「ちっ…これでも口に巻いとけ!!」
「…何で…私なんかに…」
倒れた千咲に上着を投げ渡した和泉に、千咲は理解が出来ないという顔で和泉を見上げた。
いくら自分達の境遇を知ったとはいえ、佐奈や孝之助達が襲われる原因を作ったのは千咲自身に他ならなかったからだ。
だが和泉は千咲のその問いかけに振り返ることもなく、扉に斧を突き立てながら言った。
「お前のことムカつくし許せねえ…けど、知った奴が目の前で死ぬのはもう嫌だ。
生きて罪を償って、あいつらにキッチリ詫び入れさせる、やり逃げなんて胸糞悪いことすんじゃねえ!!!!」
「………!!」
和泉の言葉に千咲は何も返さなかったが、咳き込みながら小さく頭を下げた。
だが状況はそんな感傷に浸っている暇など全く無く、益々ガスの濃度の増す中なかなか頑丈な扉は破れなかった。
ー…ガンッガンッガンッガンッ…!!
「くっそ…破れろ…!!!!!!」
「ごほっ…ごほっ…死にたくねえ…死にたくねえよ…!!」
「泣き事言ってんな!!俺の前に武器持って立っといて死ぬ覚悟も無かったのかてめえは!!!!」
「そんな事言ったってよ…こんな…こんな死に方ねえよ…」
「死なねえ!!俺だってまだぶっ潰さなきゃならねえ奴らがいんだ、てめえらなんかと心中してたまるか!!!!!!」
和泉はそう言うと、力の全てを込めて思い切り斧を振り下ろした。
すると持っていた斧はパキリと上半分が欠け、それと同時に硬い扉にもほんの少しのヒビと亀裂が入っていた。
「あっ…穴が…!!」
「よし、お前らちょっと離れろ。」
「……。」
和泉はそう言うとポケットから小さな手榴弾を取り出し、パチリとストッパーを外すと扉にあいた穴に差し込んだ。
数秒後、手榴弾の爆発でその穴は人一人やっと通れる程度の大きさに広がり、和泉達一同は歓喜の声を上げた。
「あと少しだ、外に出るぞ!!歩けるか!?」
「……ごめん…ごめんなさい…ありがとう…。」
「……おう。」
和泉がそうして倒れた者達に手を貸しながら外に出ようとしていると、突如固く閉ざされていたはずの反対側の扉が開いた。
そこには厳重なガスマスクを付けたスーツ姿の男達と、モニタールームから出て来たらしい瀬尾の姿があった。
「逃がしはしませんよ。」
「瀬尾………!!」
瀬尾の合図でスーツ姿の男達は一斉に銃を構え、脱出を図ろうとしていた和泉達にその標準を合わせた。
少しの希望が見え歓喜の表情を浮かべていた千咲達の表情は、一転落胆の色に変わり、
やっとの思いで開けた穴に入ることも出来ずに、次第に千咲達の体はブルブルと震え動かなくなり始めていた。
「お前ら先に行け、俺が食い止めといてやる。」
「な…何言ってるの…!?そんなことされる義理なんて…!!」
「いいから早く行け!!!!」
和泉の勢いに後押しされるように、男達は一人、また一人と部屋の外へと逃げて行った。
一人戦うことを選んだ和泉は、逃走する千咲達をかばうように立ち塞がると、自身も持っていた銃二丁を構えニッと笑った。
「おや、君だって体辛いだろうに…いいのかあ?そんなクズ共のために命捨てて。」
「俺の目標はてめえの首なんでな…逃げる理由がねえんだよ。」
「面白くない冗談だなあ…まあいい、僕の取り敢えずの目的は君を消し去ることだから利害は一致したというわけ…じゃあ…」
「死ね。」
「てめえがな。」
ー…ドドドドドドドド
ー…ドンッ…ドンッ!!
部屋中に響き撒き散らされた銃声と煙、
それは部屋から脱出して少し離れた所にいた人間にも、その戦いの壮絶さが分かる程のすさまじい音だった。
そして誰もが和泉が蜂の巣になってしまったのを覚悟したその直後、噴煙が晴れたと同時に和泉はスーツ姿の男達の中に飛び込んでいた。
ー…ザッ……!!
「なっ…!?どこから湧いて出た……!!」
「うらああああああ!!」
「バ…バケモノか…!!!!」
和泉は男達を一人、また一人と瞬時に気絶させ地に伏せていった。
大層な銃を持っているとはいえ接近戦で素早く動く和泉を捉えることは難しく、発砲した弾丸が味方に当たることを恐れた男達は防戦一方で和泉にやられ続けていた。
だがその中のひとりが捨て身で放った一発が和泉の片足を打ち抜き、和泉は一旦その場を離れ態勢を立て直した。
「ハア…ハア…ハア…あと…3人…」
「…気に食わないけどさすがだ…こんなバケモノ相手にあんなクズ共を差し向けたところで殺せないわけだ。ふふふ、ですがもう…半身は傷と薬で動かないでしょう?」
「………。」
瀬尾の言葉に和泉は顔をしかめ睨み付けたが、状況は瀬尾の言う通り最悪だった。
恐らくガスの毒が体に回り始め、口の中は血の味が滲み左半身は徐々に動かなくなっていた。
動かなくなる前に瀬尾にとどめを刺すつもりだったのだが、千咲達の脱出の為時間を稼いでいた和泉にはもうその力は残っていなかった。
「ふむ、あなたとあいつらの様子を見ていると毒の効き方にもムラがあるようですねえ…毒に対する耐性か…はたまた持っている身体能力によるのか…非常に興味深いので、あなたには実験体としてもう少し働いてもらおうかな。」
「……はっ…ふざけんな…!!」
ー…ドンドンッ!!!!
「…ごほっ……!!」
「半殺しにして後は抵抗できないよう薬漬けにしておけ、お前ら貴重な実験体だから殺すなよ。」
瀬尾がそう言うと、銃弾を更に二発撃ち込まれた和泉はついにその場に膝をついた。
そして一人が意識の朦朧とした和泉に薬剤の入った針を打ち込むと、和泉はガクリとその場で頭を垂れてしまった。
薬の効果で動かなくなった和泉を遠目に確認した瀬尾は、ニヤニヤと笑いながら部下に和泉の回収を指示した。
「猛獣とはいえもう動けないかな?連れて行け。あと、逃げた奴らも全て捕まえて即刻処分しろ、うちの情報が漏れては一大事だからね。」
「はい。」
「ふふふふふ…残念だったなぁ…冴嶋和泉…。お前のようなクズには、結局何も守れやしないんだよ。」
「ー……。」
和泉を見下ろしながらそう冷たく言い放った瀬尾は、虫の息だった和泉をボロ雑巾のように足蹴にした。
和泉の目は既に光彩が失われており、その時の和泉にはもう、
瀬尾に言い返すことが出来るほどの自我が、残されてはいなかったのだった…。