28.役立たずの意地
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初めておっさんに連れられて事務所に来たこと、今でも昨日の事のように思い出す。
雪がちらついていた冬の日、
到着した事務所には陰険な優男と陰湿なメガネがいた。
どちらもワケありな奴らだったが、当時の俺にはそんなことはどうでも良かった。
毎日毎日悪態をついては暴れる、冴嶋組への嫌悪と恐怖と失望が自分を蝕み、社会に戻っても俺は何一つ信用できなかった、いや、しようとしなかった。
そんな俺を、おっさんは嫌な顔ひとつせず、いつも止めてなだめては笑っていた。
九条もヒナも、同じような過去があるからか、いつまでたっても俺を邪険にすることも軽蔑した目で見ることもしなかった。
次第に事務所でまともに働くようになった俺は、ヒナと九条に比べて圧倒的に役に立たない自分に初めて気が付いた。
胸についた幾重にも重なる胸章と賞賛ですっかり思い違えてしまっていた、
こんな平和な世の中で真っ当に生きようとすると、戦うことしか秀でていないバカな自分など、はっきり言って使い道などなかったのだ。
それでも嫌味一つ言わずに仕事を教えてくれた三人。
そして全てを知っても俺を受け入れてくれた佐奈。
ずっとずっと感謝していたけど、
恥ずかしくてそんなこと言えなかった俺は、代わりにこいつらに危険なことが起こった時は絶対に守ろうと決めていた。
役立たずでバカな俺が出来るせめてもの恩返し。
この命に代えても、俺はお前らのことを守ってみせる。
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ー…バタン…
「少々お待ちください。」
「……。」
指定された場所に和泉が到着すると、そこの使用人と思われる女に和泉は部屋の中に通された。
そこは地図上では私有地とだけ記された広大な土地に立てられた、建物の一つだった。
その殺風景な部屋を見回すと、和泉はあることに気付き眉をひそめた。
「ー…ザザザザ…遠い所ご足労おかけ致しました冴嶋和泉さん、私は当組織のCFO、名前はこの場では伏せさせて頂きます。」
「……。」
姿も見せず突然スピーカー越しで喋りかけてきた男。そんな男に嫌悪感を抱いた和泉は、更に顔をしかめた。
犯行も取引も、尻尾の出そうな危険な事は末端にやらせ自分は身を隠す、そういった類の人間が和泉は虫酸が走るほど嫌いだった。
和泉はハアと息を吐くと、スピーカに向かって饒舌に喋り始めた。
「佐橋元防衛大臣に癒着の深い表の顔は警備会社の社長、瀬尾克己。佐橋を総理大臣に押し上げれば莫大な利益が約束されている為、某国から殺人プログラムを買取り秘密裏に既に数人の対抗勢力の政治家を殺害。
今現在は情報を知ったジャーナリストと探偵事務所を一掃する為奔走中、因みにデータなんざ誰が持ってくるかバアアーーーーーーカ!!」
「頭が悪いと聞き及んでいたはずですが、正直驚きました。」
「馬鹿だが一応探偵でな。」
「まあ私達からしてみればデータなどどちらでもいいのです、あなたさえ消せれば残りの人間を消すことなど至極容易い。」
ー…ジャキ…!!
「本性現しやがったな。」
「後片付けもなにぶん面倒ですので、骨も残らぬよう消え去って頂くことに致しましょう。」
男がそう言うと、何もなかったはずの壁に幾つもの穴が空き、そこから数百ともいう銃口が顔を出し一斉に和泉に狙いを定めた。
だが和泉はそれすらも予想していたようでニッと笑うと、スピーカーの向こうの瀬尾に向かって声を上げた。
「余裕かまして画面越しに見てろ…すぐに独房に放り込んでやるからな、瀬尾。」
「この状態で何を…負け惜しみですか?」
ー…バサッツ…
「南在孝之助が一子、南在和泉。
俺の仲間に手を出したこと、俺を敵に回したこと、死ぬ程後悔させてやらあ。」
【28】役立たずの意地 -END-
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