28.役立たずの意地
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ー…ホー…ホー…
『スー…スー…』
「……。」
あれからソファに眠った佐奈の隣で座ったまま夜を明かした和泉は、まだ薄暗い早朝に目を覚ましていた。
隣で眠っている佐奈は、和泉の様子がおかしいのを心配して徹夜で見張ろうとしていたのが裏目に出、夜が明ける頃には深い眠りに落ちてしまっていた。
「………じゃあな。」
和泉はそう呟くと、静かに手錠に力を込め手錠を壊し佐奈の頭を撫でた。
隣で目を覚ますはずの佐奈におはようと言えないことを残念そうにしながら、
和泉は佐奈の家からひっそりと姿を消したのだった…。
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ー…バタバタ…
「若!!お待たせ致しました!!」
「よう、悪かったな朝早く呼び出して。」
「いえ、毎朝五時には起きてますので問題ありません。」
「相変わらずジジイみてえだな、お前は…。」
まだ薄暗い赤紫色の空の下、和泉の前に現れたのは息を切らした様子の高虎だった。
高虎は先に到着していた和泉の隣に腰を下ろすと、少し様子の違う和泉に心配そうに尋ねた。
「南在さんのご容態は…?」
「ん?ああ…意識は戻ってないけど、今のところ安定はしてんだと思う。」
「申し訳ございません…こんなことと知っていましたらうちの組員を皆様の警護に回せたものを…!!」
「イヤイヤイヤ逆にそれはそれでこえーよ、事務所客こねーよ。」
真剣な高虎の提案に笑顔でツッコミを入れる和泉を見て、高虎も少し頬を緩めた。
正直孝之助が刺されたとの報道を見てから、和泉が気落ちして我を忘れているのではないかと高虎は気が気ではなかったのだ。
「若は大丈夫ですか?」
「ああ、俺がウジウジしててもしょうがねえからな。」
和泉はそう言って笑うと、高虎も深く頷いた。
「そんで、今日から俺別件で仕事があってよ…どうしても佐奈のそばに居てやれない。だから…頼んだぞ。」
「はい、お任せ下さい。」
「ホントは組長のお前にこんなこと頼むのも忍びねえんだけどよ…。」
「お気になさらないで下さい。私もいつもお世話になっている事務所の方々のお役に立てるのであれば嬉しいのですから…!!」
高虎のそのありがたい言葉に、申し訳なさそうにしていた和泉も安堵したように笑った。
「じゃあお言葉に甘えて頼むな…これ佐奈の番号。絶対にあいつのこと…守ってやってくれ。」
「はい、命に代えてもお守り致します。」
和泉はそう言って高虎に佐奈の番号の書かれたメモを渡すと、目の前の高虎を少し懐かしんだような目で見た。
高虎はその和泉が見せた一瞬の表情に気が付くことはなく、渡されたメモを大事そうにポケットに仕舞っていた。
「虎、今まで本当にありがとな。」
「え?」
ー…ドスッ!!!!!!!!!!
「…な…!?」
「……。」
ー…ドサッ…
その一瞬、和泉は高虎のみぞおちにピンポイントで一撃を与えた。
その衝撃で意識を失った高虎を和泉はベンチに座らせると、高虎のスーツのポケットに隠してあった拳銃を二丁取り出した。
「悪いな。」
和泉はそう一言呟くと、高虎から奪った銃に銃弾を装填し、その場を離れた。
それから高虎が不思議なことに何の痛みもなく目を覚ましたのは、もう陽が登り切ってからの事だった……。
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ー…バタバタバタ
『た…大変ですっ…九条さん…!!!!』
「どうしました?」
夜もすっかり開けいつもの時間よりだいぶ早くに出社してきた佐奈は、血相を変えて事務所に飛び込んできた。
佐奈は切れ切れになった息を必死に整えると、九条に事の次第を話した。
『やっぱり和泉さんあれから様子がおかしくって…九条さんに頂いていたアレで捕まえていたはずだったのですが今朝起きたらいなくなってて……』
「鉄製なんですけどこれ…あの馬鹿力…。」
パッキリと折られた手錠を見て九条がハアとため息をつくと、佐奈はポケットから更にあるものを取り出した。
『これが今朝、私の家の鍵と一緒にポストに入っていました…。』
「これは…レンタルロッカーの鍵…?」
九条は渡された鍵をギュッと握り締めると、何かに気が付いたようで顔を曇らせた。
佐奈がそんな九条の様子に更に不安を募らせていると、事務所の階段を勢い良く駆け上がる足音が響いた。
ー…バタバタバタ…
「若は…若はいらっしゃいますか!?」
『高虎さん!?』
息を切らして入ってきた高虎は、事務所に和泉いないのを確認すると、焦った様子で九条に尋ねた。
「あの…若は今日から何か仕事が入っているのでしょうか…?」
「仕事…?いえ、今は一旦仕事は休業状態ですので受けている依頼はありませんが…。」
『和泉さんから何か聞いているんですか!?』
「いえ…私は今日から仕事だから佐奈さんを守るようにと若に頼まれていたのですが…情けないことに途中で気を失わされ気がついたら私の銃が二つとも持ち去られていました…。」
『銃……なんで…!?』
「恐らくこのままでは守りきれないと考えたんでしょう…あの馬鹿…」
その言葉に佐奈はサアッと血の気が引いた。
状況は佐奈が考えているよりもはるかに悪い、恐らく和泉は単身敵地に乗り込んだのだ。
どうしてあの時異変に気づいていたのに眠ってしまったのだろう。
ぐるぐると頭をよぎる後悔と自己嫌悪に陥りながらも、佐奈はすぐさま和泉の後を追うことを決めた。
『そうだ…和泉さんの携帯のGPSを追えば…!!』
「いえ、電源が切られています。追跡は別の方法でするしかありませんね…少しですが心当たりがありますし。」
九条はそう言うと、電話の通話記録が記されたらしい一枚の紙を佐奈に差し出した。
「これ…昨日の事務所の通話記録です、昨日皆が病院を出た後、誰かがここでかかってきた電話に応対しています。
ヒナは病院に、私と佐奈さんは一緒に帰宅していた頃だったのでこれは和泉が受けたんでしょう、通話時間も五分…依頼を断るだけにしては長過ぎます。」
『ということは…』
「相手方に取引を持ちかけられたか、罠にかけられたか…どのみち孝之助さん達を襲った黒幕でしょう、でないと和泉がわざわざ銃まで奪って行く必要がない。」
「九条さん。」
突然掛けられた声に皆が振り返ると、そこには目の下にクマを作ったヒナが立っていた。
ヒナは一枚の地図の載った紙を差し出すと、昔に戻ったような無表情で言った。
「バベルの発信信号があったパソコンと、昨日の電話の基地局の位置でほぼ一致する場所が割り出せました。」
「よし、ありがとうヒナ…これで和泉の後を追える。」
「私もお伴させて下さい!!若ほどの腕はないにしろ、少しはお役に立てるかと思います…!!」
『わっ…私も行きますっ!!』
出発しようといきり立った面々に、ヒナも静かに頷いた。
それから高虎を含めた四人はヒナの割り出したデータを元に、
姿の見えない犯人の元へ向かった和泉の後を
追うことにしたのだった…。