28.役立たずの意地
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ー…バタン
『あ、和泉さん戻ってたんですね!!すみません遅くなって…!!』
あれから家に帰宅した佐奈は、先に佐奈の家に戻っていた和泉に駆け寄った。
「あ…いや俺こそゴメン、置いてって…。」
『いえ、九条さんが送って下さったので大丈夫ですよ、たまには一人になりたい時だってあります!!そんな時は戸締まりばっちりして寝ますので、気にしなくても大丈夫ですよ!!』
「……。」
『どうしました?』
孝之助が刺され、今度はまたいつ自分が襲われるかも分からない。
そんな状況の中、守るという約束を放棄し勝手に置いていった自分を責めるでもなく、佐奈はいつも通りの様子で自分を気遣ってくれていた。
『あ…とりあえずお風呂入りますか?もう遅いし疲れたでしょうし…すぐ沸かしておきますのでどうぞお先に!!』
「…うん。」
..............................................................
ー…パタン…
『…和泉さん。』
風呂から上がり部屋に戻った佐奈は、相変わらずぼうっと一点を見つめたまま考えこむ和泉を心配そうに見つめた。
『和泉さん…あの、お茶いりますか?』
「…ああ…いや…佐奈…ちょっといい?」
『…は…はい!!』
突然そう言ってマンションのベランダに出た和泉に、佐奈は少し驚きながらも和泉に続いた。
夜風が心地よい冷たさで頬を撫でるなか、空を見上げ言葉を発しない和泉の隣で、佐奈も黙って空を見つめていた。
「あのさ…今日はごめん、取り乱して八つ当たりした。」
『いえ…取り乱しちゃいますよ、冷静でいろって方が無理な話です。』
頭を俯けて佐奈に謝罪する和泉に、佐奈は顔をブンブンと横に振って笑顔を見せた。
「…おっさんの兄貴が言ってた事さ、俺すごい図星でさ…。」
『え…?』
「軍隊にいる頃、何十っていう死体を前に真っ赤に染まった自分が生き延びて帰る度、周りは俺を褒め称えて胸には金ピカの胸章がずっしり増えてった。
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俺は良いことをしたんだって、そう、思うしか自分を保てなかった。ずっと、今まで…。」
『……。』
「でも結局やったことはあのおっさんが言った通りただの大量殺人だったんだよな…ああ、やっぱり俺は皆と違う人間だったんだって突きつけられたみたいで、今更怖くなった…情けなさすぎるよな……。」
和泉はそう自分の手を見つめながら言った。
和泉の目には今もその手が血に染まって見えているかのようで辛く悲しそうで、佐奈は思わず自分の手を和泉に重ね、和泉の手を見えなくした。
「佐奈…?」
『大丈夫です、何にも変わらない、私の知ってる優しい和泉さんのままです。』
「……!!」
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佐奈はそう言って微笑むと、黙って和泉のそばに寄り添った。
相手の気持なんて、違う人間なのだからきっとどんなことをしても分かるはずはない。
薄っぺらい共感や、哀れみを含んだ励ましではなく、ただ、大丈夫だと、受け入れて欲しかった。
和泉は握った佐奈の手を引き寄せると、そのまま佐奈をきつく抱き締めた。
『いっ…和泉さんあのっ……!!』
「佐奈、ありがとう…俺やっぱお前の事好きだ。ヒナの事好きでも、これから結婚して子供産んでも、しわくちゃの婆ちゃんになっても…多分ずっとお前のこと好きだわ。」
『…和泉さ…』
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和泉はそう言うと愛おしそうに佐奈の頬を撫で、キスをした。
突然の事に和泉から離れようとした佐奈だったが、佐奈の手はそれ以上和泉の手を振りほどくことが出来なかった。
「佐奈はさ、どっかでずっと俺に悪い事したって引け目に思ってるだろ?」
『……!?そ…そんなこと…』
「だから今も俺のこと振りほどいてぶん殴れない。」
『……。』
ヒナが事務所から姿を消した時、和泉は誰よりも優しく支えてくれて、こんな自分を好きだと言ってくれた。
そして自分もそれに答えようとしていたくせに、今も自分を思い続ける和泉のそばでヒナと一緒になってしまった。
佐奈が心の隅で感じていた罪悪感を感じ取っていた和泉は、自分の腕に収まっていた佐奈に笑って言った。
「俺さ、お前とは恋人になれなかったけど、俺にはずっと欲しかった家族が出来たから…命を懸けても守りたいって思える仲間もできたから…。」
『……和泉さん…。』
「だからほら、泣くな!!」
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そう言うと、和泉は佐奈の頬を伝う涙を拭い、ニッと笑った。
「俺も勝手にするから佐奈も勝手にしろ!!でも突然その……ごめんな、最後の思い出にってことで許してくれよな。」
『……え…?』
佐奈は涙を拭いながら和泉の話を聞いていたが、和泉の発するその言葉の一つ一つに妙な違和感を覚え始め、和泉の腕をギュッと掴んだ。
『和泉さん…?"最後"って…なんですか…!?』
「ああ、明日から俺ちょっと用事あってさ、その間お前のボディーガードは虎に頼むことにしたから、よろしく頼むな。あ、あいつには常時外の車で待機するように言っとくから心配しなくていいぞ!!てかなんか寒くなってきたなあ…中戻るか。」
『答えになってません!!和泉さん!?』
不安げな顔で和泉を引き止める佐奈に、和泉は何でもないってと言って笑った。
だがその笑顔がどこかおかしいことを、佐奈は直感的に気付いていた。
『明日の用事ってなんですか…?私も付いていきます。』
「ダメだって、女禁制なんだよ、ほら、空気察しろよ~もう。」
『嘘下手くそです。和泉さんは孝之助さんがこんな時にそんなとこに行くような人じゃありません。』
佐奈は目を泳がせる和泉にぎりぎりと詰め寄った。
なかなか諦めてくれなさそうな佐奈に和泉はハアと溜め息をつくと、しぶしぶ諦めたように言った。
「……分かった分かった、じゃあ一緒行こう。」
『それも嘘ですよね?』
「あのなあ!!じゃあどうすれ……」
ー…ガシャン
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「え…?なにこれ。」
『手錠です。』
「いや、そりゃ見れば分かるっつーの、じゃなくて…」
佐奈はそう言うと躊躇いなく和泉と自分の手に手錠をはめた。
突然の佐奈の行動に動揺した和泉は、慌てふためきながら佐奈の手と繋がった自分の手を見た。
『九条さんから和泉さんがおかしな真似をするようならこれで捕まえろと渡されていました。』
「いやいやいやいやほら、前科者気遣おうよ、手錠なんてさ、心の傷がとかほらさあ!!」
『和泉は大丈夫、この間手錠で拘束された系のAV借りてたしそんな事気にしてないよ☆by九条。』
(あのクソ腹黒……今度会ったらぶっ殺す…。)
好きな女の子にとんでもないことをばらされた和泉が九条に猛烈な殺意を抱いていると、佐奈は心配そうに和泉を見上げた。
『お願いします和泉さん…これ以上誰もいなくなって欲しくないんです。一人で何かしようだなんて、絶対に思わないで下さいね…?』
「佐奈……。」
佐奈の言葉に思わず言葉をつまらせた和泉だったが、すぐにあっけらかんとした笑顔に切り替え、曇った佐奈の額をぱちんと弾いた。
「てかこれじゃ一緒の部屋で寝なきゃなんねえだろ、バカ!!やるなら柱とかに繋げよ!!」
『だってうちの家の中手錠つなげるようなものないんですもん。とにかく、和泉さんの様子おかしいので今日はこのまま寝ますから勝手にいなくならないで下さい!!あと襲わないで下さいね!!』
「お…襲わねーよ!!てかおい…トイレとかどうすんだよ。」
『あああああああ!!しまったっ!!』
「馬鹿かてめーは!!さっさとはずせっっ!!!!」
『それがさっきから鍵が見当たらな…』
「バカ佐奈ーーーーーー!!!!」
夜中のマンションに響き渡ったであろう和泉の叫び声。
だが口ではそう言いつつも大好きな佐奈と一緒に眠りにつけること、和泉は心底嬉しかったに違いなかった。