27.「26.5」
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ー…ガヤガヤ…
「んんんん~…どうすっかなぁ~…。」
拘置所を後にした孝之助は、死ぬ以外沈黙を貫くヒナのことを思い悩みながら、家までの道のりをトボトボと歩いていた。
(打ち解けないことには何にも始まらねえよなあ……あいつが食いつきそうなもん……ん~…。)
その時、ちょうど前を通りかかったピカピカと眩しい電気屋に孝之助はふと目を留めた。
パソコンが好きなのは間違いないであろう、でも事件を起こしたのもパソコンなのであって…果たして今それを見たいものか…?
そう孝之助がブツブツ電気屋の前で自問自答していると、電気屋の店員が元気よく孝之助に声をかけた。
「お兄さん、最後尾はこちらになりますよ。」
「へ?ああ…俺並んでるんじゃないんだわ…って何の最後尾?」
「はい!明日の10時発売の最新型iPadの購入の列です!!」
「あいぱっど…?」
とんと機械に疎い孝之助は、その聞きなれない言葉に目の前のキラキラと光る商品看板に目を向けた。
「これ、人気なの?パソコン好きなやつだったら興味あるかな?」
「それはもちろん!!最新型のOSとバージョンですし、今回の駆動バッテリーのうんたらかんたら……」
「……ほ…ほう…?」
イキイキと説明をしてくれる店員の言葉のそのほとんどは孝之助にはよく分からなかったが、
必死な形相で並ぶ皆の顔に孝之助はこれだと直感し、いそいそと列の最後尾に身を置いたのだった…。
.............................................................
ー…バンッ!!
「じゃーん!!見てこれ、昨日出たばっかりのアイパッドとかいうやつ。」
「……。」
翌日、孝之助はやっと手に入れたiPadを手に、寝不足の目をこすりながらヒナの元を訪れていた。
「深夜から並んで買ったんだけどよ、俺全く使い方分かんねえんだよ。最近の機械ってのはあの分厚い説明書とか無いのな!!」
「……。」
機械に疎い孝之助がこんなものをそう簡単に使いこなす事ができるわけもなく、
ぎこちない手つきであれやこれやとiPadをいじる孝之助を、何で買ったんだという顔でヒナは見ていた。
「おっ?これどうやってさっきの画面に戻るんだ?」
「……。」
「おおおお!?なんかこれアイコン揺れてる揺れてるやだなにこれ気持ち悪!!何これ!?」
「……ホームボタン。」
「え?何それ?」
「真ん中下のボタン。」
「おお!ああこれね、直った直った!!ありがとよ!!」
そう言って嬉しそうに笑いながら礼を言う孝之助を見て、ヒナは更に不思議そうに首を傾げ尋ねた。
「……あの、一体何しに…?」
「ん?何って…お前と話しに来たんだよ。」
「だから死刑で構わないと…」
「俺はさ。」
「…?」
「お前がどんなやつか知りたいんだ。これからずっと一緒に戦うんだ、知っておきたいと思うのは当たり前だろう?」
「………!?」
孝之助の言葉にもその瞳にも何の迷いも嘘も無いことは明白だった。
孝之助のその持って生まれた性格であろうが、人の心を溶かす才能にヒナもまた感化されつつあった。
「…変な弁護士。」
「あはは!!んなことよく言われるから傷つきもしねえぞ~!!」
そうして一日、また一日と月日を重ね、ヒナは一言二言ではあったが死ぬという言葉以外の会話を交わすようになっていった。
そんな日々が続いた、ある日の事だった。
ー…パチッ
「うんうん、だいぶ使えるようになってきたなあ。ヒナのお陰だな!!」
「…いえ、俺は別に…」
「ヒナ次はパソコン講師とかやったらいいんじゃないか?分かりやすいし!!あ、でもあんま大人数制だとお前声小せえから聞こえないって言われそうだな!!」
「……。」
孝之助はよくこうして外の世界に出てからの事をヒナに話していた。
それはまるで孝之助が絶対外に出してやるからなと言っているようでもあったが、それが逆にヒナの胸を締め付けた。
なぜならヒナが人知れず隠し持っていた足枷は、その話に希望を持つことすら許してはくれなかったのだ。
「それは、無理です…」
「何で、お前の教え方分かりやすいぞ?あ、あとこれ聞こうと思ってたんだ…このサイトの消し方…」
「……。」
ー…ピピピッ
「?」
その瞬間、孝之助の持っていたiPadの画面はひとりでに動き制御できなくなってしまった。
そして焦る孝之助を尻目に、そのアイコンはテキパキと動き孝之助が消して欲しいと言っていたサイトを消してしまったのだった。
「今の…」
「多分俺はもう…"普通"には生きさせてはもらえません。」
「え…?」
状況がよく理解できない孝之助にヒナは少し悲しそうに笑い、
それ以上は決して口を開こうとはしなかったのだった…。