26.奪われた日常
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それから数日、
ヒナも無事退院し、事務所にとって比較的平和な毎日が続いていた。
ー…カー…カー…
「佐奈、ヒナどこ行った?」
今日もまた平和に一日が終わり、姿の見えないヒナの所在を孝之助が佐奈に尋ねると、佐奈は慌てて帰る準備をしながら答えた。
『あ、さっきコンビニ行ってたので多分今は部屋にいると思いますけど…』
「佐奈~帰るぞ~。」
『は…はーい!!じゃあ孝之助さん…お疲れ様でした…!!』
「おう、お疲れ~…。」
孝之助にペコリと頭を下げ和泉と帰宅する佐奈の後ろ姿を見て、孝之助はなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。
和泉にとってはまたとないチャンスでもあると同時に、ヒナにとっては毎日が身を切られる思いだろう。
それを思うと、孝之助は二人を大手を振って笑顔で見送ることが出来なかった。
(早く解決して…好きなようにさせてやりてぇけどな…。)
ー…ガチャ
「孝之助さん。」
「お、ヒナどした?」
皆が帰宅しがらんとした事務所にヒナはひょっこり顔を出すと、溜め込んでいた仕事の書類を孝之助に手渡した。
「あと…九条さんは…」
「あいつももう帰らせたよ、ここのとこ貯まってた仕事徹夜で片付けてたからな…。」
「そうですか…。」
「お前もだぞ、ヒナ。」
「?」
「お前が責任を感じてることは分かる、でも無理ばっかりしすぎるなよ。」
孝之助はここの所深夜まで缶詰になって仕事をしているヒナを心配していた。
退院したとはいえまだ本調子には程遠い身体にむち打ち、好きな人さえ手放さなければならなくなったヒナが痛々しくて見ていられなかったのだ。
「でも…無理をするなというのは孝之助さんも同じですよ…」
「へ?」
「ノアに聞きました…孝之助さんが俺のいた組織にずっと連絡をとってくれていたこと…。」
ヒナの口から出た予想外の言葉に孝之助は一瞬驚いたようだったが、すぐにアハハとごまかすように笑った。
「…あれはいいんだよ、結局断られちまったしさ。役に立てなくてゴメンな…。」
「いえ…俺なんかの為に…本当に…」
ー…ペチッ…
「"俺なんか"なんて言うな、ヒナ。俺にとっちゃお前だって大切な息子のよーなもんなんだからよ。」
「…!!」
目の前で笑顔を見せる孝之助の言葉は、いつだって迷いも嘘偽りも感じられない。
いや、仮にこれが嘘だったとしてもそれでもいいとさえヒナは思った。
「それでな、ヒナ。俺も色んなツテ使ってバベルについて調べてみたんだが…」
ー…ガチャン…!!!!
「「!?」」
孝之助の言葉を遮るように響いた破壊音に二人が振り返ると、鍵を閉めてあったはずのドアの鍵が壊れて落ちていた。
不思議に思い二人が近づくと、その後ろから黒い影が二人を襲った。
「ヒナ!!危ない!!」
ー…ガシャーン!!
「……!!」
「走れるか!?逃げるぞ!!」
ヒナに襲いかかったのはナイフを手に持ちマスクを被った一人の男だった。
男はその充血した目を二人に向けると、裏口から屋上に逃げた二人の後を追った。
ー…バタバタバタ…
「ヒナ!!こっちだ渡れ!!」
「す…すみません…。」
屋上の鍵を閉め隣のビルに移ろうとした二人だったが、怪我が完治していないヒナの傷が再び開いてしまったようでヒナは痛みに顔をしかめた。
隣のビルに渡るには今にも崩れそうな細い足場から飛び移るしか無く、そこを孝之助がヒナを支えて行くには到底無理があった。
「孝之助さん…俺は渡れません、俺がここで囮になります、今のうちに逃げて下さい…!!」
「馬鹿言うな!!こっちから引っ張ってやるからさっさと来い!!」
孝之助の言葉にヒナは少しニコリと笑うと、孝之助の言葉を振り切り屋上の扉を壊そうとしている犯人の元に近づいた。
その様子を見た孝之助はギリッと唇を噛みしめると、元のビルに戻りヒナの腕を掴んだ。
「そんなこと…誰がさせるか!!」
「!?」
ー…ドガシャーン!!!!!!
「んなっ…!!」
「どうだ!!まだまだ衰えてねえぞ~…!!」
孝之助はヒナを掴むと足場に足をかけ一気にヒナを隣のビルに投げ飛ばした。
だが二人が乗ったその衝撃で足場は崩れ落ち、人が飛び移ることは不可能な距離となってしまった。
「孝之助さん!!なんで…こんな事…!!」
「いいかヒナ、よく聞け…バベルにとっての唯一の天敵はお前だ、お前を取られたらこの勝負、詰んじまうんだよ。」
「……!?」
柵越しに孝之助に手を伸ばすヒナだったが、そんなことをすれば傷の痛みで踏ん張りのきかないヒナまでも落ちてしまう。
それが分かっていた孝之助は、その手を取ること無く覚悟を決めたように笑った。
「ま、それだけじゃなくてお前達にはもっと長く生きて欲しいんだ。この世界はお前らの知らない楽しいことが沢山ある、お前は俺と違ってまだ若い、それを佐奈と一緒に見つけろ、ヒナ!!」
そう言ってさっきと変わらない笑顔を見せる孝之助に、ヒナは必死に呼びかけ続けた。
「孝之助さん早くこっちに…!!孝之助さんはこんなところで死んでいい人じゃありません、だから…早く…!!」
「誰も死ぬつもりなんかねえぞ、俺は今でも今日の夕飯何食うか考えてるからな!!心配してくれるならヒナ、そっちのビルから降りて誰か呼んできてくれ、頼んだぞ。」
「……!!すぐ戻ります!!」
ヒナは動転しながらも残された孝之助を救うためビルの扉を開け下へと駆け下りた。
その様子を確認した孝之助は、安堵したようにフウと息を吐いた。
(これでヒナは助かる……良かった。)
ー…ガシャーン!!!!!!
「……。」
「とは言え、俺もまだ最後まで足掻く気満々だからな、この若造が。」
扉を壊し屋上に来た犯人に孝之助はそう言うと、武器になりそうな棒を構え、ニヤッと笑った。