25.夏空の思い出
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『では皆さん、私お風呂に行きますのでまた後で!!』
「おう!!」
美味しい夕食を食べ終え満足気に部屋へと戻った五人は、早速この旅のメインでもある温泉に向かうことにした。
ー…バタン
「よーし、じゃあ俺も風呂入ってこよっか…」
「却下。」
佐奈を見送った後、和泉の提案に素早く蓋をかぶせたヒナに、またも和泉は腹を立てながら食って掛かった。
「言うと思ったけどな!!今どき覗ける風呂なんて存在するかバーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!」
「一般人には無理でも和泉には可能なことは山程ある。」
「じゃあ四人で入って見張ればいいでしょう。」
「そだな、俺らも風呂入るか~!!その後晩酌だ♪」
...............................................................
ー…チャプ…
『はあ~露天風呂最高だなぁ~…』
佐奈は月明かりの下、広々とした露天風呂を一人独占して満喫していた。
温かいお湯とひんやりと涼しい夜風があいまって、仕事詰めで疲れきっていた身体を癒してくれていた。
(みんな楽しそうだし本当に来てよかったな…バベルのことも千咲ちゃんのことも…全部嘘だったんじゃないかって思えちゃうよ…。)
千咲が一体何のためにどこから来たスパイでどんな情報を持ち帰ったのか。
バベルの情報を知ったことがなぜ知れてしまったのか。
これから一体、どんなことが起こるというのか。
今の南在探偵事務所には逃げ出してしまいそうなほどの不安材料が沢山ある。
佐奈は折角の旅行中に嫌なことを思い出すまいとザバッとお湯を顔にかけた。
ー…!!!!!…!!
『…ん?これは…和泉さんとヒナさんの声…?』
突然隣の男湯から聞こえてきた二人の声に佐奈は顔を上げた。
会話の内容は聞き取れなかったが、その真剣に何か言い合っているような二人の声に、佐奈はハッと何かに気が付いた。
(そっか…!!二人も私の前では口には出さなかったけど、きっとこれからのこと話し合ってるんだ…。
私もしっかり考えて足手まといにならないよう動かなくっちゃ…そうよ、くよくよしちゃダメよ、みんないるんだ、頑張ろう!!)
佐奈はパチンと自分の頬を叩いて気合を入れると、心のもやもやが晴れたように颯爽と風呂場を後にしたのだった。
ー…ガポーン……
「んなははははは!!まさかこんな薄くて低めな板切れ一つで隣が女湯とはなあ…俺の運動神経を使えば覗き放題!!観念しろこの粘着インテリ!!!!」
※良い子も悪い子も絶対に真似をしないでね。
「…〇■×も頭も中学生レベルだな。ここから先は通さん。」
「なんだとコンニャローーーーー!!〇※〇が△×■×なのはてめえが◯×■だからなだけでだなあああああ!!!!」
「だいたい和泉は×△が◯■で…」
ー…ドガシャーン!!!!
「孝之助さん、あの二人放っといていいんですか?周りに迷惑ですよ、自主規制用語連発してますし。」
「まあまあなんか修学旅行みたいでいいじゃないの。若いもんは放っとこうぜ~、マッサージチェアと風呂あがりの一杯が俺を呼んでんのよ~。」
「…立派なおっさんですね。」
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ー…ガラッ
『はあ~いいお湯でしたぁ~!!…ん?』
「…おう。」
「……。」
『何で温泉入る前よりボロボロで疲れてるんですか…?』
男湯でのくだらない決闘のことなど知る由もない佐奈は、ヨレヨレで完全にのぼせた二人を不思議そうに見た。
だが佐奈はそれよりも選んだ色浴衣にはしゃいでいる様子で、楽しそうに二人に尋ねた。
『それよりほらっこの浴衣!!可愛くないですか?似合います?』
「「…!!」」
年甲斐もなく風呂場で暴れて疲れきって部屋で寝そべっていた二人だったが、
"湯上がりの浴衣"というベタな理性破壊力抜群の佐奈に、ガバリと起き上がった。
「お…おう、悪くないんじゃね。」
「うん。」
『へへ~やった♪』
「いやあ~若いっていいよなあ~、なあ九条っち~。」
「私を年配サイドに入れないで下さい。」
「あれ…九条っちまだ昼間の魚のこと根に持ってる…?」
ー…ドンッ…ドンッ…
「お、この音は。」
わいわいと談笑する声を割って入るように聞こえた音に、皆は障子を開けて空を見上げた。
『花火だあ…!!キレイ…!!』
「花火なんて数年ぶりに見たなぁ…。」
「そうですね…。」
「花火見ながら一杯とはこりゃ贅沢だ。」
「……。」
電灯も少ない田舎では、夜空に映える花火の色がより一層虹色に輝いて見え
佐奈はこの花火と夏の思い出をずっとずっと覚えていようと、噛みしめるように空を、そして皆の顔を心に焼き付けた。
『そうだ、旅行に来たのにまだ写真全員で撮ってませんでしたよね!!』
「おお、そういやそうだったな。」
佐奈はそう言うと鞄の中からいそいそとカメラを取り出し、花火を背景に全員を並べた。
『はいじゃあタイマーいきますよ!!せーのっ!!』
ー…ドオオン…ドオオン…
その瞬間、佐奈達の背後には特大の花火が上がった。
その花火に皆驚き笑い、更に花火の明るさで少し暗くなってしまった写真だったが、佐奈にとってはそれはそれは特別な
ずっと欲しかった、皆と撮った写真だった。
『……。』
(嬉しい…!!)
佐奈は何度も何度もカメラのプレビューでその写真を見ては、一人こっそりと笑顔をこぼした。
山間を咲く花火と大好きな、大切な皆の笑顔。
こうしてこの夏最初で最後の花火は、佐奈にとって忘れられないものとなったのであった。