25.夏空の思い出
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ー…バタン
「着いたぞ~。」
「おおっ!!なんかすげえ旅館じゃん!!」
『本当です!!雰囲気最高です~!!いつも思いますけど孝之助さんホントいいとこ知ってますよね~…。』
皆が車を降りるとそこには純和風で落ち着きのある旅館があった。
キレイで雰囲気もいいその旅館に佐奈達がはしゃいでいると、中から出迎えの仲居が姿を現した。
「お待ち致しておりました、お部屋は離れの紫陽花の間となります。女性限定で色浴衣が選べますが如何ですか?」
『えっ!?はい!!着たいです!!』
「ではご案内いたしますね。」
仲居に連れられていそいそと浴衣を選びに行った佐奈を見送ると、残された男四人はフロントに荷物を預けた。
「只今当旅館のすぐ下の川でヤマメ釣りが出来ますよ、あとは当旅館に隣接したアートミュージアムとチョコレートショップ、カフェもございます。」
「チョコレート…は後で行くとして俺釣り行きてえ!!」
「まあそう言うだろうと思ったよ、じゃ釣り行くか!!お前らはどうする?」
「私は折角ですし色々見て回ってから行きます。」
「俺はとりあえず佐奈待ってます…。」
そう言って九条とヒナが返事をすると、孝之助はじゃあまた後でな、と言って和泉と二人釣りをしに渓流に向かった。
そのうち九条もヒナと分かれその場を立ち去ると、その直後、浴衣選びから戻った佐奈が戻って来た。
『あれ、みなさんどこ行ったんですか?』
「和泉と孝之助さんは釣り、九条さんは美術館に行った。」
『皆自由ですねもう…ちょっとくらい待っててくれてもいいのに。』
「どうする?」
ヒナが佐奈に旅館の施設のパンフレットを見せながら尋ねると、佐奈はうーんと考えながら言った。
『チョコレートショップ行きたいです!!で、のんびりカフェでお茶しましょう!!』
「言うと思った。」
『え、チョコレートがですか?』
「うん。」
佐奈はヒナと顔を見合わせて笑うと、二人肩を並べて歩き始めた。
夏の日差しを心地よく遮るように緑のトンネルが続く渡り廊下。
二人がそのキラキラ光る心地良い景色に目を奪われ足を止めると、佐奈はヒナの手をギュッと握った。
『今度は二人でも来たいですね、あ、浴衣可愛いの選んだので楽しみにしてて下さいね!!』
「うん。」
『えへへ…。』
佐奈がそう言って照れたような笑顔を見せると、ヒナは佐奈の目線までかがみキスをした。
突然のことではあったが佐奈が嬉しそうに笑うと、ヒナは佐奈を抱き寄せた。
「佐奈…ありがとう。」
『…へ?何がですか?』
「全部。」
『ふふっ…ええ~?全部とは。』
................................................................
ー…ザザザザザザ
「おおっ!!また釣れた!!すごくない!?」
「お前俺に釣りで勝てると思ってんのか~俺2匹同時だからな~!!」
「は!?ホントだすっげー!!!!俺もおっさんには負けん!!」
涼しい風が吹く渓流沿いに腰掛け釣りをしていた二人は、釣れた大量のヤマメを前に子供のようにはしゃいでいた。
無邪気に笑顔を見せる和泉に孝之助も思わず頬をゆるめ、
父親と釣りに行った記憶など無い和泉と子供などいた事もない孝之助だったが、その姿ははたから見ると親子そのものだった。
ー…ザザザザ
「は~マジおもしろいな!!釣り!!」
「ははは、そら良かったな。」
「………なあ…おっさん…。」
「ん?」
和泉はそう言って川に新しい釣り糸を垂らしながら、少し言い出し辛そうに言葉を続けた。
「俺のこと迷惑になったら言ってくれよな。養子にして冴嶋組から抜けさせてくれたことは本当に嬉しいけど、こんな訳ありの養子なんていたらさ、おっさんが結婚するってなってもまとまらなくなるだろうし。」
「何言ってんだよ、んな相手もいねえアラフォーに。嫌味か?」
「いや、だって今は良くてもさ…」
「だいたいな。」
「たとえそうなってもそんな事も受け入れられない相手を選ぶかよ。お前がそんな事心配してくれなくていーの、好きなだけ迷惑だろうと暴言だろうとかけてろ。」
「……おっさん…。」
孝之助はそう言って申し訳無さそうにうつむく和泉の額にデコピンすると、和泉とは対照的にあっけらかんと笑った。
「ま、このまま独り身で死ぬ可能性のが高いからな、その時は墓の掃除くらいはしてくれよな!!」
「…うん、するよ。」
「あっ!!ほら和泉竿!!引いてる引いてる!!」
和泉は孝之助の声にハッと竿に目を向け急いで竿を引いた。
すると引き上げた和泉の竿には、ヤマメが2匹と小さな小エビのようなものがきっちりと整列してくっついていた。
「はは!!やるじゃねーか!!」
「俺がおっさんに負けるわけねーじゃん。」
「…そうだ、俺佐奈嫁さんにもらおうかな~理解もあるし何も問題ねえだろ!!」
「佐奈が母ちゃん…?そんなん問題しかねえ!!ダメだっ!!佐奈は俺が嫁さんにもらうからダメだーっ!!」
「あはは!!お前必死すぎ!!」
本当の家族というものは正直分からないけれど、裏表のない笑顔を見せてくれる父親と、過保護すぎる兄貴。
血の繋がりのない人間ばかりだけれど、和泉は24年間生きてきて初めて
家族がいるということの幸せを噛み締めたのであった。