23.バベル
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.....................
ー…バタバタバタ…
『ちょっ…待って下さい和泉さん!!何かお花とかお菓子とか一応買っていった方がいいんじゃ…』
「はあああ?そんなもんに金使うくらいならプリン100個買うわ!!!いらねーよ!!」
『そうですかねえ…』
冴嶋元組長が入院している病院へと向かっていた佐奈と和泉だったが、
佐奈は床に付している冴嶋元組長のためお見舞いの品を買った方がいいのではとあれこれ思案していた。
『あ、ほらちょうど花屋さんが…!!』
「花ああああ?どの面下げて花なんて持ってくかって言うんだ…って聞けええええ!!」
『ガーベラと、あとこのピンクの花とこれで花束を…』
「あああ…あー…もう分かったよ!!」
強引に花束を買おうとしている佐奈の手を掴むと、和泉は佐奈の手を引っ張り隣のコンビニへと入っていった。
「100歩譲っても花はねえ、ジジイが食わなかったら俺が食うからな。」
『和泉さん…』
和泉はそう言ってチッと舌打ちすると、コンビニでいつも買うプリンを店の棚にあったぶん全てレジまで持ってきた。
そんなものすごく嫌そうにお金を払う和泉を見ながら、佐奈は嬉しそうにニコニコして和泉の横顔を見ていた。
「何だよ。」
『いいえ~何でもありません。』
「…俺は別に買いたくないんだからな!!」
『はい、承知してますよっ。』
ー…ガサッ
「……若が…組長にプリンを……!!」
(南在さん佐奈さん…感謝いたします…!!ううう…若…)
「高虎さん…いい加減組長の自覚持って下さいませんか……。」
佐奈と和泉の少し後方に身を潜める影がひとつ。
組長のためにプリンを買う和泉を見ながら、高虎は一人ジーンと胸を熱くさせていたのだった。
.............................................................
ー…コンコン
「会長、和泉さんがいらしております。」
都内の病院に着くと、そこには私服からも感じる威圧感を放つ組員が数名立っており、その中の一人が和泉に気付くと、病室に電話をつなぎ病室まで案内してくれた。
ー…ガラッ
「おう…トドメでも刺しに来やがったかクソガキが。」
「ふん、なんなら本当に刺してやろうかこの死にぞこないめがああ!!」
(いっ…和泉さんんんんん!!!!!!)
病室の扉を開けた途端のピリピリとした空気と静かに罵り合う二人の威圧感に、一人ガチガチになっていた佐奈は恐る恐る和泉の後に続いた。
「正直一秒もこんなとこいたくねえから単刀直入に聞く、佐橋について教えろ、あいつらは何しに来た。」
「佐橋…ああ、あの傲慢な男か…。」
「"何"について話した。」
畳み掛けるように和泉は祖父に尋ねると、祖父はフッと笑いながら答えた。
「なに…密輸したいものがあるから経路の確保をしてほしいと、ただそれだけや。」
「密輸…?」
「結局うちはその話から降りて別の組が引き受けたっちゅー話しや、他にお前が聞いて得することはなんもない。帰れ、そして二度と来るな、探偵気取りのクソガキがお前の顔なんぞ見たないんじゃ。」
「………言われなくたって誰が二度と来るか!!頭下げられたって願い下げじゃボケさっさとくたばりやがれクソジジイーーーー!!!!!!」
ー…バターン!!!!!!バタバタバタバタ…
『……。』
売り言葉に買い言葉。
祖父の言葉に完全に頭に血が上ってしまった和泉は勢い良く病室を飛び出し、そのまま病室には戻ってこなかった。
一人残されてしまった佐奈がオロオロとしていると、和泉の祖父は苦しそうに咳き込み始めた。
『大丈夫ですか…!?ナ…ナースコールを…』
「ああ、いや大丈夫だ。あんたは…?」
『あ…私、和泉さんの職場の後輩で橘佐奈と申します!!和泉さんにはいつも大変お世話になっております…!!』
「南在んとこの…?」
緊張で少し上ずった声で自己紹介した佐奈に祖父は息を整えると、さっきとは違った穏やかな顔で会釈を返した。
その祖父の穏やかな顔に驚きを隠せなかった佐奈だったが、その理由はすぐに分かってしまった。
「わざわざすまないね、うちのバカが迷惑をかけとらんといいんだが…。」
『…!!』
ああ、そうだ。
きっとこの人は和泉さんが憎いから冷たくあたってるんじゃなくて…和泉さんに心配されたくないだけなんだ。
どうやっても報えない過去だから…
せめても悪者のままで逝こうとしてるんだ…。
和泉の祖父の本当の気持ちに気付いた佐奈はいたたまれない気持ちになり唇をぎゅっと噛み締めた。
そして手に持っていたビニール袋をおもむろに祖父に差し出した。
ー…ガサッ
『あの…これ、和泉さんのお気に入りのプリンです、和泉さんがお見舞いにと。』
「和泉が…私に…?」
佐奈から手渡されたビニール袋の中を覗くと、そこには袋いっぱいのプリンが入っていた。
その予想外の土産に祖父は少し驚きそれを見つめていたが、すぐに渡されたビニールをそのまま佐奈に返してしまった。
「プリンか…そういえばあのバカは昔から女子供のようにプリンやらアイスやらが好きだったな…。でもこれはお嬢さんが持って帰って事務所の皆さんで食べたらいい、すまんが私には…受け取る資格が無い…。」
『冴嶋さん…。』
突き返されたプリンの袋を佐奈は手に取ると、中身から一つだけを取り出し祖父に手渡した。
『一つくらいならいいでしょう?これなら一個持っていったなんて分かりませんから。』
「お嬢さん…」
『ではご協力本当にありがとうございました!!また伺うことがあるかもしれませんが…どうぞお体大事になさって下さい!!失礼します…!!』
佐奈が去った病室で一人プリンを持たされて呆然とする祖父は、手にあるプリンをじっと見ながら黙って封を開けた。
「お加減いかがですか?」
「虎か…おかしいと思ったんだあいつが顔を出すなんて…またお前が手引きしたんだな、余計なことばっかりしやがって。」
「私には何のことだか…。」
和泉の去った病室に現れた高虎はそう言うとニッと笑顔を作った。
高虎のその含みのある笑顔に祖父はハアとため息をつくと、封を開けていたプリンを一口だけ口に入れた。
「美味しいですか?」
「女子供が好きそうな甘ったるい味だ、やっぱりあんな甘い考えの腑抜けに冴嶋組を任せんで正解だった。」
「そうですか。」
「ああ、そうだ。」
「…でも、美味しいでしょ?」
「………ああ……そうだな…。」
和泉から奪い取った平穏も両親も未来も、きっと一生償えるものではない。
極道という特殊な世界に身をおいてきた不器用で頑固な祖父は、
それを解った上で、和泉が買ったプリンを一口一口大事そう大事そうに噛み締めていた。
ー…バタバタバタ…
『ちょっ…待って下さい和泉さん!!何かお花とかお菓子とか一応買っていった方がいいんじゃ…』
「はあああ?そんなもんに金使うくらいならプリン100個買うわ!!!いらねーよ!!」
『そうですかねえ…』
冴嶋元組長が入院している病院へと向かっていた佐奈と和泉だったが、
佐奈は床に付している冴嶋元組長のためお見舞いの品を買った方がいいのではとあれこれ思案していた。
『あ、ほらちょうど花屋さんが…!!』
「花ああああ?どの面下げて花なんて持ってくかって言うんだ…って聞けええええ!!」
『ガーベラと、あとこのピンクの花とこれで花束を…』
「あああ…あー…もう分かったよ!!」
強引に花束を買おうとしている佐奈の手を掴むと、和泉は佐奈の手を引っ張り隣のコンビニへと入っていった。
「100歩譲っても花はねえ、ジジイが食わなかったら俺が食うからな。」
『和泉さん…』
和泉はそう言ってチッと舌打ちすると、コンビニでいつも買うプリンを店の棚にあったぶん全てレジまで持ってきた。
そんなものすごく嫌そうにお金を払う和泉を見ながら、佐奈は嬉しそうにニコニコして和泉の横顔を見ていた。
「何だよ。」
『いいえ~何でもありません。』
「…俺は別に買いたくないんだからな!!」
『はい、承知してますよっ。』
ー…ガサッ
「……若が…組長にプリンを……!!」
(南在さん佐奈さん…感謝いたします…!!ううう…若…)
「高虎さん…いい加減組長の自覚持って下さいませんか……。」
佐奈と和泉の少し後方に身を潜める影がひとつ。
組長のためにプリンを買う和泉を見ながら、高虎は一人ジーンと胸を熱くさせていたのだった。
.............................................................
ー…コンコン
「会長、和泉さんがいらしております。」
都内の病院に着くと、そこには私服からも感じる威圧感を放つ組員が数名立っており、その中の一人が和泉に気付くと、病室に電話をつなぎ病室まで案内してくれた。
ー…ガラッ
「おう…トドメでも刺しに来やがったかクソガキが。」
「ふん、なんなら本当に刺してやろうかこの死にぞこないめがああ!!」
(いっ…和泉さんんんんん!!!!!!)
病室の扉を開けた途端のピリピリとした空気と静かに罵り合う二人の威圧感に、一人ガチガチになっていた佐奈は恐る恐る和泉の後に続いた。
「正直一秒もこんなとこいたくねえから単刀直入に聞く、佐橋について教えろ、あいつらは何しに来た。」
「佐橋…ああ、あの傲慢な男か…。」
「"何"について話した。」
畳み掛けるように和泉は祖父に尋ねると、祖父はフッと笑いながら答えた。
「なに…密輸したいものがあるから経路の確保をしてほしいと、ただそれだけや。」
「密輸…?」
「結局うちはその話から降りて別の組が引き受けたっちゅー話しや、他にお前が聞いて得することはなんもない。帰れ、そして二度と来るな、探偵気取りのクソガキがお前の顔なんぞ見たないんじゃ。」
「………言われなくたって誰が二度と来るか!!頭下げられたって願い下げじゃボケさっさとくたばりやがれクソジジイーーーー!!!!!!」
ー…バターン!!!!!!バタバタバタバタ…
『……。』
売り言葉に買い言葉。
祖父の言葉に完全に頭に血が上ってしまった和泉は勢い良く病室を飛び出し、そのまま病室には戻ってこなかった。
一人残されてしまった佐奈がオロオロとしていると、和泉の祖父は苦しそうに咳き込み始めた。
『大丈夫ですか…!?ナ…ナースコールを…』
「ああ、いや大丈夫だ。あんたは…?」
『あ…私、和泉さんの職場の後輩で橘佐奈と申します!!和泉さんにはいつも大変お世話になっております…!!』
「南在んとこの…?」
緊張で少し上ずった声で自己紹介した佐奈に祖父は息を整えると、さっきとは違った穏やかな顔で会釈を返した。
その祖父の穏やかな顔に驚きを隠せなかった佐奈だったが、その理由はすぐに分かってしまった。
「わざわざすまないね、うちのバカが迷惑をかけとらんといいんだが…。」
『…!!』
ああ、そうだ。
きっとこの人は和泉さんが憎いから冷たくあたってるんじゃなくて…和泉さんに心配されたくないだけなんだ。
どうやっても報えない過去だから…
せめても悪者のままで逝こうとしてるんだ…。
和泉の祖父の本当の気持ちに気付いた佐奈はいたたまれない気持ちになり唇をぎゅっと噛み締めた。
そして手に持っていたビニール袋をおもむろに祖父に差し出した。
ー…ガサッ
『あの…これ、和泉さんのお気に入りのプリンです、和泉さんがお見舞いにと。』
「和泉が…私に…?」
佐奈から手渡されたビニール袋の中を覗くと、そこには袋いっぱいのプリンが入っていた。
その予想外の土産に祖父は少し驚きそれを見つめていたが、すぐに渡されたビニールをそのまま佐奈に返してしまった。
「プリンか…そういえばあのバカは昔から女子供のようにプリンやらアイスやらが好きだったな…。でもこれはお嬢さんが持って帰って事務所の皆さんで食べたらいい、すまんが私には…受け取る資格が無い…。」
『冴嶋さん…。』
突き返されたプリンの袋を佐奈は手に取ると、中身から一つだけを取り出し祖父に手渡した。
『一つくらいならいいでしょう?これなら一個持っていったなんて分かりませんから。』
「お嬢さん…」
『ではご協力本当にありがとうございました!!また伺うことがあるかもしれませんが…どうぞお体大事になさって下さい!!失礼します…!!』
佐奈が去った病室で一人プリンを持たされて呆然とする祖父は、手にあるプリンをじっと見ながら黙って封を開けた。
「お加減いかがですか?」
「虎か…おかしいと思ったんだあいつが顔を出すなんて…またお前が手引きしたんだな、余計なことばっかりしやがって。」
「私には何のことだか…。」
和泉の去った病室に現れた高虎はそう言うとニッと笑顔を作った。
高虎のその含みのある笑顔に祖父はハアとため息をつくと、封を開けていたプリンを一口だけ口に入れた。
「美味しいですか?」
「女子供が好きそうな甘ったるい味だ、やっぱりあんな甘い考えの腑抜けに冴嶋組を任せんで正解だった。」
「そうですか。」
「ああ、そうだ。」
「…でも、美味しいでしょ?」
「………ああ……そうだな…。」
和泉から奪い取った平穏も両親も未来も、きっと一生償えるものではない。
極道という特殊な世界に身をおいてきた不器用で頑固な祖父は、
それを解った上で、和泉が買ったプリンを一口一口大事そう大事そうに噛み締めていた。