23.バベル
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『対抗勢力のスキャンダル調査!?』
東雲大臣からの依頼を聞いて驚いた一同を前に、孝之助はうんざりしたような顔で頷いた。
「次の総理を決める首相指名選挙までに唯一の対抗勢力である佐橋元防衛大臣を蹴落とそうと?」
「ああ、くだらねえ依頼だろ。俺はそんなことより住民のペット探しの方がよっぽどいいって言ったんだけどな…聞き入れてもらえなかった。」
「……。」
「俺は、こんな仕事をさせる為にお前らを雇ってるんじゃないのに…。」
『孝之助さん…』
ギュッと悔しそうな顔で唇を噛みしめる孝之助を皆が心配そうに見つめると、孝之助はハッといつもの笑顔に顔を戻した。
「佐橋もそうですがこんなことをわざわざ探偵に頼む東雲もどちらも総理大臣になんてなっていただきたくないものですね。」
「ああ…佐橋は元々黒い噂がある、一ヶ月張り付いてたらボロも出てくるだろ。適当なスキャンダル見つけてさっさと切り上げるぞ。」
「はい。」
『…?』
ー…バタン
『孝之助さん…どうしたんでしょうか…。』
東雲大臣からの依頼話を終えた佐奈は、終始様子のおかしかった孝之助を心配していた。
佐奈が心配そうにそうポツリと呟くと、隣にいた和泉が小さな声で答えた。
「俺らのこと、ゆすられたんだ。」
『え…?』
「さっき東雲とおっさんが話してる時聞こえた。ここは元犯罪者ばっかりだとか、それが知れたらこの事務所も彼らの再就職もまた難しいだとか。やっぱり俺らは…おっさんの足枷になってんのかな。」
そう言って少し寂しそうな顔を浮かべた和泉に、佐奈の脳裏にははさっき三人の顔を見て笑った東雲大臣の顔が浮かんだ。
佐奈がこみ上げる怒りに顔をしかめると、いつもと変わらぬ様子の九条がファイルを片付けながら淡々と言った。
「そんな事今に始まったことでは無いでしょう。
孝之助さんは私達のためにしてくれたんです、そう思うなら孝之助さんに恩返しできるように働くだけです。」
「……そだな。」
『…。』
不倫でもキャバクラ嬢との密会でもいい、出来うる限りなら小さめのスキャンダル。
この時の孝之助はそれを得て東雲に渡し、早々にこの件から手を引こうとしていたのだった…。
............................................................
ー…コト…
「佐橋防衛大臣のスキャンダル!?」
「うん、何かないかな。」
例のごとく手っ取り早く情報を持っていそうなオタクから情報を脅し取ろうと…もとい情報を譲ってもらおうと、九条はオタクの仕事場を訪れていた。
「九条さん最近僕のこと情報屋かなんかと勘違いしてますよね…?」
「おや、私はオタクさんに一目置いているから頼っているだけなのに心外ですね。それに政治家のスキャンダルは得意分野でしょう?」
そう言ってニッコリ笑いながらコーヒーを口に運ぶ九条にオタクは敵わないなとハアとため息をつくと、
机に散乱している書類やファイルの山から一枚の封筒を探し当て九条に差し出した。
「佐橋大臣のネタ、あるっちゃあるんッスけど…けっこうでかい山ですし危ないかもしれませんよ…?」
「危ない?」
「はい、これもまだ確証得てない上ににわかには信じられないことなんですけどね…。」
「…!!」
オタクから渡された書類に目を通した九条は、その思っていた以上に大きなスキャンダルに言葉を失った。
そこに書かれていたのは、最近頻発していた政治家の連続死の黒幕が佐橋ではないかとの記述だったのだ。
「いやいやいやいやオタク君、私が欲しいのはもっとこう可愛らしいキャバ嬢との密会とかのスキャンダルですよ?誰がこんな世の中ひっくり返すようなスキャンダル持ち出して来いって言いました?」
「だからさっきでかい山しかないって言ったじゃないッスか~…」
「この役立たず。」
「やっぱこの人鬼だ。」
九条はハアとため息をつくと、渋々オタクに渡された書類に詳しく目を通し始めた。
にわかには信じがたいその内容に、九条は目頭を押さえて考え込んだ。
「…だいたい連続殺人って最近亡くなった政治家は皆"病死"だったはずでしょう?いくら佐橋に都合の悪い人間ばかりが死んでいるとはいえ他殺とするには少々無理がありますよ。」
「それがポイントなんですよ!!病死に見せかけて人を殺すことの出来る"あるもの"を佐橋がある組織から買い取ったとの噂がありまして……」
「はあ…都市伝説の類ならよそでやって下さい…私マジメに聞いてるんですから。」
「だから真面目な話なんですって!!でもこれを表に出すには敵が多すぎて難しくて…どこの報道機関にも相手にしてもらえなかったんです。まあ確かに世に出すと同時に関連者消されちゃいそうですけど…。」
「……。」
オタクは黒だと思ったことは相手がどんな大物だろうと粘着質に張り付き情報を手に入れる。
そういう所を尊敬もしていたからこそ九条はオタクのもとに情報を求めによく訪れるわけで、今のオタクが冗談や嘘を言っているわけではないことは九条もよく分かっていた。
「ですがこの存在が立証されれば同時に佐橋は全日本、いや、全世界の人間を人質に取っているようなものなんです…!!」
「……うーん……こういうものが存在するかはうちの"専門家"に意見を仰ぐとしましょうかね…私じゃ判断しかねます。」
「はい。でも九条さん、この件を扱うのでしたら本当に気を付けて下さいね、僕は悪事を世に知らしめるためなら死んでもそれが自分の役目だと思っています。
ですが九条さん達がわざわざ危険な橋を渡って首を突っ込む事案ではないかとも思います…。」
「まったくですね。」
九条はそう言って笑うとオタクから受け取った封筒を鞄に入れた。
今この時はまだ、この封筒の重みを当のオタクは勿論、九条ですら分かっていなかった。