22.父親は誰だ
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「はい口開けてね~お、えらいえらい!!」
一方、予定通り検診を開始した三人は、手際の良い侑の診察のお陰でさくさく滞りなく検診を進めていた。
侑が子供の喉を見る際に佐奈が母親に案内のプリントを渡し目をそらすという手順で進め、数十人の診察を終えた頃だった。
「宜しくお願い致します。」
(対象親子…!!)
ついに今回の目的である対象親子が姿を現すと、佐奈は少し緊張で顔をこわばらせた。
チャンスは一回きり、手筈通りに佐奈が母親の目をそらし、九条が侑と交代し子供の口からサンプルを採取しようとしたその時だった。
「ねえ先生、僕虫歯治ってる?」
「え?虫歯?…うん、大丈夫みたいだよ?」
「良かった~!!虫歯治ったら今度お父さんに電話してもいいってお母さん言ってたんだ!!やった~!!」
『……!!』
「そっか…それは楽しみだね…。」
九条がサンプル採集を終えそう言って男の子の頭を撫でると、その子は屈託のない笑顔でうんと頷いた。
そうしてひと通りの検診を終えると少年は嬉しそうに九条達に手を振り去って行ったのだった。
『私…なんだか自分がすごく汚い事をしているように思えてきました…。』
「今更ですか?これが私達の仕事ですよ。」
淡白にそう言ってサンプルをしまう九条を見ながら、佐奈は少し寂しそうな顔で対象親子の後ろ姿を見つめていた。
本当の親子だった方がいいのか、それとも違う方があの子の為になるのかそれは佐奈の知るところではなかったが、
あの子にとってこれが少しでもいい結果になるようにと、佐奈は祈りながら片付けに取り掛かった。
『でもやっぱり私この依頼人の事は理解できません…自分の子供を血とか関係なく可愛いと思えないなんて…あんなに可愛いのに…。』
「男は女性と違って出産しませんから変われない人もいますからね、俺は自分の子供ができたら溺愛しちゃいそうで逆に怖いくらいですけどね~!!」
『そうですよね?そうですよね~!!才原先生は素敵なお父さんになりそうでいいですね~!!』
「……。」
そう笑顔で侑と子供について楽しそうに話す佐奈。
佐奈のその一言一言が自分の子供とヒナの事を言っているように思えてならず、九条は思わず口をつぐんだ。
『よいしょ…あ…いたた…。』
「佐奈さん!?どうしました!???」
荷物をまとめ終えた佐奈が突如お腹を押さえながらうずくまると、九条は慌てたように佐奈に駆け寄った。
「大丈夫ですか!?佐奈さん!?」
『あ、いえすみません...少しお腹が痛くて...』
「お腹が痛い!?」
佐奈のその言葉にさあっと青くなった九条は、慌てて侑に声をかけた。
うずくまる佐奈に侑は駆け寄ると、様態を診察するため佐奈を車まで運んだ。
「はい、口開けて。」
『はい…。』
「うん、脈も呼吸も安定してますし、喉も腫れてないけど…ストレスとかかな?」
『ストレス……。』
「あるかな?」
そう言って少し微笑んだ侑の顔を見ると、ここのところ一人で思い悩んでいた佐奈は堰を切ったように喋り始めた。
『あの…才原先生……例えば彼女に赤ちゃんができて、でも自分が子供が嫌いだったら、どう思いますか…?』
「子供…?」
そう言ってぎゅっと唇を噛みしめる佐奈を見て侑はニコッと笑顔を見せると、佐奈を安心させるように肩をポンと叩いた。
「大概の男は初めはそんなものじゃないのかな。でも自分と好きな人の子供なんだから可愛くないはずない。大丈夫だと、俺は思いますよ。」
『才原先生……うっ…うわあああん!!ありがとうございます……!!』
侑の優しい笑顔と大丈夫という言葉に胸が少し楽になった佐奈は顔を抑えてポロポロと涙を流した。
だが一方の侑は少し引っかかることがあるようで、佐奈が落ち着くのを待って佐奈にそれを尋ねた。
「よしよし、大丈夫大丈夫。でも、ところで妊娠してるって…佐奈さんが?」
『あ…はい…でも怖くて調べてないままなんですけど…』
「まずはちゃんと調べるか病院行きましょうか。あとこれは俺の長年の勘ってだけなんだけど………違うような気がするんだよなぁ。」
『へ…?』
.......................................................
ー数日後ー
『えっ…陽性だったんですか…?』
「おう、何だかんだ言って本当の親子だったみたいだな。」
戻って来たDNA鑑定の結果を聞いて佐奈は一人呆気にとられていた。
本当の息子だというのにあの依頼人はそれも感じ取れなかったのかとガクッと肩を落とした。
『まったく…この上ないドヤ顔で鑑定結果渡してやる。せめてもあの依頼人が絶対養育費放棄しないように出来ないんですかねえ。』
「まあそれは俺達の出番じゃないから弁護士に任せるとしようや。」
『孝之助さんも弁護士じゃないですか。』
「俺はもう弁護士の仕事しないって決めてんのー。」
『ですか…。』
「それより佐奈、お前体調もういいの?」
『へ?体調?はい、別に何ともないですけど。』
「……そう。」
『?』
なにか言いたげな様子だった孝之助の態度に引っかかりながら佐奈は自分のデスクに戻った。
するとそこで佐奈を待っていたのはこちらもなにやら神妙な面持ちのヒナだった。
「佐奈、ちょっといい。」
『はい!!どうしたんですか?』
ヒナに呼び出され佐奈がヒナの部屋に行くと、ヒナは真剣な顔で佐奈に頭を下げた。
突然の出来事に佐奈が驚き慌てていると、ヒナは佐奈の手をギュッと握った。
『へ…?ヒナさんどうしたんですか…?』
「ごめん…俺のせいで佐奈のこと悩ませてた。子供は確かに苦手だけど、ちゃんと努力するし…佐奈だけが大変にならないようにする。」
『ヒ…ヒナさん…?』
「だから佐奈、俺とけ…」
『け?』
「えっと…だから…け…けっ…。」
『はい!?』
「…いや…だから…」
『ヒナさん…何の話をしてるんですか?』
キョトンとした顔でヒナにそう尋ねる佐奈に、ヒナは決死の思いで伝えようとした言葉を飲み込んだ。
「え…?いや…だって和泉から聞いて…」
『和泉さん?』