22.父親は誰だ
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ー…ピーチチチ…
『はあ…何で私こんなイライラしてんだろ。』
「佐奈?佐奈じゃない!!」
公園で一人落ち込んでいた佐奈に声をかけたのは、偶然そこを通りかかった琴子だった。
琴子は一緒にいた明らかにコワモテの男性に先に行っててと言うと、佐奈の座っていたベンチに腰を下ろした。
『さっきのって…冴嶋組の組員さんじゃないんですか…?』
「ああ、さっき虎ちゃんとこ行ってたから。」
『すっかり姐さんですね…琴子さん…。』
「バカね~そんなんじゃないってば!!」
いつもの勢いで佐奈の肩をバシバシと叩く琴子に佐奈が苦笑いを返すと、元気のない佐奈の様子に琴子は不思議そうに尋ねた。
「何?メガネ君と喧嘩でもしたの?何か顔色悪いじゃない。」
『いえ…別にそういうんじゃないんですが…依頼人の件でイライラしちゃって…。』
「依頼人?」
佐奈はそれから琴子にざっくりとした依頼の概要を説明した。
事務所の面々よりは女同士ということもあってか琴子も佐奈と同調し、イライラと腹を立てた。
「何なのよその男!!クズね、人間のクズだわ!!」
『でっしょおおおお!?頭にきますよね?やったのは自分なくせに完全に女を馬鹿にしてるというか子供に愛情が微塵も感じられないというか!!!!事務所の皆さん男だからかそんなもんだろ程度で全然分かってくれなくって頭にきちゃって…。』
「まあでもそんな男の子供産みたいって思ったその女もバカといえばバカなんだけどね~、それにしたって男がダメだわ、どのみち養育費も払わなくなるんじゃない?」
『本当の子供だったとしてもですか?』
「だって最近養育費払わない男がほとんどらしいわよ。今は体裁とかで払ってるのかもしれないけどさ、別れた女はともかく、子供もどうでもいいんでしょうね~男って。」
『……子供からしたら絶対知りたくない事実ですよね…そんなの…。しかもその為に探偵使ってDNA鑑定だなんて………。』
世知辛い世の中に佐奈はハアとため息をつくと、浮かない顔で空を見上げた。
探偵をしているとしょっちゅう人の汚い部分を見るのだが、結婚に憧れを持っている佐奈にとっては今回の話はどうも受け付けがたい話だったのだ。
「まあでもあんたがそんなに気を揉む事じゃないでしょうよ、あ、チョコ食べる?」
『チョコ…あ、いや……』
「珍しい。甘党の佐奈が。」
『何か昨日から風邪引いたみたいで気持ち悪くって…あはは、もう踏んだり蹴ったりです。』
「…!!!!」
佐奈の言葉にふとある疑問を感じた琴子は、顔色の優れない佐奈にまじまじと尋ねた。
「…ねえ佐奈、あんた妊娠してたりしないわよね?」
『・・・・へ?』
突然の琴子の言葉に佐奈は驚いたように顔を上げると、そんなまさかと首を横に振った。
「だって~妊娠初期ってムカムカして好きだったもの食べられなくなったりイライラしたりするじゃない、生理来てなかったりして~?」
『いや~いやいやいやいやそれはないですよ、だって…え…………?』
最近仕事に追われてそんなことに気を留めている余裕がなかった佐奈はすっかりその事を忘れてしまっていた。
自分の一ヶ月前を必死に思い出していた佐奈はさっきよりも深刻な顔で考えこんでしまい、心配した琴子は鞄の中からあるものを差し出した。
「これあげるから調べてみれば?違うなら違うでスッキリするし。」
『妊娠検査薬…!?何でこんなもの持ってるんですか!?まさか高虎さんとのっ…!?』
「だーかーらー虎ちゃんとはそんなんじゃないって言ってるでしょ!?これはあれよ…昔の仕事柄心配で持ってるのが癖になっちゃってただけで。」
『そう…なんですね…。』
「それはそうと、相手は勿論メガネ君なんでしょ?」
『はい…。』
「ならもし出来てたとしても問題ないじゃない。私時間ないから行くけどまたメールするから、あんまり一人で考えこむんじゃないわよ!!分かった?」
『あ…ありがとうございます!!』
そう言うと佐奈は名残惜しそうにその場を離れる琴子の背中を見送りながらその場に立ち尽くした。
(赤ちゃん…?いやいやそんな…まさか…。)
もし…もし本当にヒナさんとの子供ができているのなら嬉しいと思う。
でも、嬉しいと同時に怖い。
子供が本当に出来ているとしたらヒナさんは一体どういう顔をするんだろう。
そんな事、考えたこともなかった…。
ヒナさんが嫌な顔をするとは思えない、というか思いたくもない。
でも、さっき聞いたばかりの依頼人と琴子の話や言葉ばかりが頭を巡ってしまう。
佐奈は琴子に渡された検査薬を鞄にしまうと、足早に事務所へと足を進めたのだった。
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ー…バタン
『只今戻りました…。』
「お帰り~、ヒナまだ寝てっからこれ起こすついでに渡してきてもらえる?」
『ああ…はい、分かりました…あと孝之助さん…ちょっと具合が悪いので少し休んでてもいいですか…?』
「おう、無理すんなよ。早退しなくて大丈夫か?」
『はい、治ったらまた戻りますので…有難うございます。』
ー…バタン
「………佐奈大丈夫か?」
「…風邪ですかねえ…具合悪そうでしたけど…。」
「……。」
ー…トントン
『ヒナさん、入ります…。』
「……佐奈?」
恐る恐るヒナの部屋に入った佐奈。
佐奈の声に目を覚まし体を起こしたヒナに、佐奈は孝之助に渡された資料を手渡した。
『今度の依頼です…お子さんのDNA鑑定だそうで…秘密裏にサンプル採取して鑑定する事になりそうです。』
「DNA鑑定…?」
まだ眠たそうに目をこすりながら書類に目を通すヒナ。
そんなヒナに佐奈は意を決して、だがあくまで自然な流れであることを尋ねた。
『相手は子供になりそうですけど…ヒナさんは子供…好きですか……?』
「子供…?苦手。」
『!!!!!!!!(←ショックのあまり言葉にならない。)』
「というか接したことがないから接し方が分から……佐奈?」
『すみません…私失礼します。』
「佐奈…?」
ヨロヨロとおぼつかない足取りで部屋を出る佐奈。
その後ろ姿を見ていた何も知らないヒナは、一人不思議そうに首を傾げたのだった。