21.封の開かない手紙
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ー…バシッ…ゴツッ…ガツッ!!!!!!!!
「っ……!!かはっ…」
「おい殺すなよ~只でさえボロボロだったんだから、冴嶋和泉の居場所聞き出せないだろ。」
「分かってますよ~、早いとこ口を割ってくんないかね?高虎さん。」
「…ハア…ハア……。」
八重樫組の敷地の一端。
ボロボロで鎖に縛られ血だらけの高虎を男が足蹴にすると、高虎はキッと男を睨み付けた。
「組長の右腕…まあ簡単には口割らないか。うーん、爪剥いでも指切っても口割りそうにないんだよなあこのタイプは…めんどくせーなぁ…。」
「あ、そういえばこいつ女といましたけど、そっち連れてきてやりますか。」
「…!!や…やめろ!!彼女はあの時たまたま会っただけの他人だ…関係ない!!」
「関係ないならそこで見てりゃいいだろ。おい、その女探して連れて来い。」
「…!!」
ー…ドガシャアアアアアアアアアン!!!!!!!!
「!!?な…何だ!?」
「兄さん!!なんや門のとこで銀髪碧眼の男が暴れとるらしいんですが…。」
「銀髪碧眼んん?おいおいそれってまさか…。」
銀髪碧眼という言葉に男はそれが和泉だと確信すると、ニッと笑って門へと向かった。
だが向かった先で男が見たのは、想像以上の数やられた仲間達の姿だった。
ー…ザッ…
「虎を返せ。」
「あ~あ、また派手に暴れてくれたなあ…まるで猛獣やって噂はデマやなかったんやなぁ。」
「虎を、返せ。」
「なんやそれ以外喋らんのかい。でもま本人が直々に来てくれるとはこっちも拷問して聞き出す手間が省けたわ。ほらよ。」
男はそう言うとボロボロで血まみれの高虎の姿を和泉に見せた。
口から血を吐き体中から血が滴る高虎の悲惨な状態を見て今にも殴りかかりそうになった和泉だったが、湧き上がる怒りをぐっと堪えて和泉は頭を下げた。
「虎はもういいだろ、虎を離してやってくれ。」
「…はあ?」
「わ…か…。」
「俺は冴嶋組の組長になんてならないし今後関わるつもりもねえ、これでいいだろ!!虎を離せ!!!!!!!!」
「つもりもない…ねえ…。」
ー…グッ…
「証拠がねえよ…若坊っちゃん。」
「……。」
「ここに冴嶋組長を連れてきてそう言ってもらえば信じてもいいがそれよりあんた消した方が早いんだよ、分かるかなあ?」
「穏便に事を進めたほうがいいと思って下手に出てやったんだがな…死ね。」
「わ…若……!!」
「そこまでだ。」
「!!」
突如背後から響いた低い声に八重樫の組員と和泉は振り返った。
そこには予想外にも冴嶋、八重樫、双方の組長が立っており、その光景に組員の男は持っていたナイフを思わず手から滑り落とさせた。
「俺の知らんこととはいえ随分勝手やってくれたようだなあ、坂科。」
「く…組長…!?こ…これは……」
「いいから離せ、坂科。」
八重樫の組長のドスの利いた声に男が思わず高虎を離すと、すぐさま琴子が倒れた高虎に駆け寄った。
「虎ちゃん!!良かった…!!」
「…琴子…さん…。」
虫の息ながらも無事な様子の高虎を確認すると、冴嶋組長は八重樫組の組員とその組長に静かに口を開いた。
「…このまま抗争にしてもええのですが如何しましょう、そちらは丸腰のうちのクソガキにだいぶやられとるようですが。」
「両成敗にしようと?それにしてはうちがやられすぎではないですか冴嶋さん。」
ー…ダンッ…!!!!!!!!
「先に手えだしたのはそっちや、それにうちは"次期組長"を半殺しにされとるんやからな…。」
「え…?」
「…!?」
突然冴嶋の組長が告げた意外な事実に驚いたのは和泉だけではなかった、当の高虎も何が起こったのかよく分からないようで傍らに立つ組長の事を見上げた。
そんな中、孝之助が判を押された一通の書類を取り出し八重樫組の組長に突き出した。
「和泉は正式に俺の養子にすることで話はまとまった。これで和泉はもう社会的にも冴嶋組とも何の関わりもねえ、これで満足ってことにしてくれよ八重樫の組長さん。」
「お…おっさん…?」
「あんたは確か弁護士の………その話、信じていいんでしょうね、冴嶋さん。」
「ああ、考えなしによその組で暴れるような奴に、うちは危なくて任せられんからな。」
「…!!!!」
「組長…それは…」
「虎、お前ほど組を思ってくれる奴はおらん、そこの娘さんに説教されたよ、周りをよく見てみろってね。」
「琴子さんが…?」
「あはは…ゴメン、思わず…。」
「とにかく、俺のせいでこんな怪我させてすまんかったな…虎…。」
「いえ…とんでもございません…勿体無いお言葉です…組長……!!」
そう言って目に涙をためて頭を下げる高虎に組長は肩をポンと叩いた。
そんな様子を見ながら、一方こちらも突然の事態に放心状態になっていた和泉はその場にへたりこんだ。
「和泉大丈夫か。」
「なあおっさん……さっきの話マジなの?」
「ああ…急な話で悪かったな、冴嶋の組長に前から打診してはいたんだがな…まさかこんな急に決まるとは思わなく…」
「俺、本当にもう"冴嶋"名乗らなくていいの…?」
「…ああ、今日からお前は俺の息子だ!!これからは好きに生きろ、和泉。」
「………………うん………!!」
「虎!!」
「若…。」
すべてが終わり組長とともに車に乗り込もうとした高虎に和泉が駆け寄ると、高虎は少し寂しそうな顔で頭を下げて笑った。
「若…助けて頂いてありがとうございます、お手数掛けました…。」
「ん…ああ…」
「もう…会うこともしない方がいいと思いますので、どうかお元気で…」
「虎!!」
「…?」
高虎の言葉をかき消すように和泉が言葉をかぶせると、和泉はニッと笑って高虎を見た。
「冴嶋でも若でもなくなっても虎は一生俺の兄貴なんだからな、また事務所にも遊びに来いよ!!」
「……!!ー……はい…!!」
かくしてこの一連の事件は、高虎を冴嶋組の次期組長とし和泉を孝之助の養子にするという思わぬ結末で幕を閉じた。
その後、冴嶋組と八重樫組も対立関係を解消することに成功する。
長きにわたって続いていた両組による抗争事件は、ニュースや世間を騒がすこともなくなっていったのであった…。