21.封の開かない手紙
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ー…チチチチ…
「虎ちゃんおはよ~…まだ寝てる?」
高虎が部屋に来てから一週間、
すっかり打ち解けた二人をカーテンからもれた光が照らし、ベッドで寝息を立てる高虎の寝顔を見ながら琴子は一人頬をゆるめていた。
(ホント寝顔だけ見てるとヤクザどころか子供に見えちゃうな…肌キレイだしかなりの童顔…。にしても怪我してるとはいえ一つ屋根の下に住んでて私に手出そうとは思わないもんなのかしら…ホント生真面目。)
(あれ…それとももしかしてキャバクラ辞めて落ちぶれたとか…?)
「……ん。」
ー…グイッ…
「!!」
琴子が枕元でまじまじと高虎の寝顔を観察していると、高虎は寝ぼけたまま急に琴子を抱き寄せた。
突然包まれた高虎の広い胸という突然の事態に、さすがの琴子も緊張と戸惑いを隠せずにいた。
「と…虎ちゃん?!!」
「………ん…?…え……?…うわあああああすみません!!寝ぼけていました申し訳ありませんっ!!」
「い…いや…そこまで謝らなくても…。」
「い…いえ…わ…若の妻になるかも知れぬ人を抱いたとあっては指どころでは…切腹ものです…!!」
「朝から何馬鹿なこと言ってんのよ!誰がここまで手当してやったと思ってんの切腹なんてさせないわよ!!」
起き抜けに平謝りを続ける高虎の頭を琴子はべしっと叩くと突如壊れたムードにハアと溜め息を付いた。
「だいたい和泉ちゃんと私が夫婦になるなんてあるわけ無いでしょ、全然相手にされてないのに。」
「そう…なんですか…?私はてっきり相思相愛かと…。」
「悪かったわね~相思相愛に持ち込めてなくて。」
琴子がそう言っていじけたように言うと、高虎は少し驚いたように琴子を見た。
「こんな美しい方に好きだと言われて心が動かないなんて有り得ないと思いますが…。」
「え…?」
ー…ドキッ…
「はっ!!で…出過ぎたことを申し上げました!!!!申し訳ございません!!」
「もういちいち謝らなくていいから!!ほら虎ちゃんいい天気よ、今日私仕事も休みだし散歩でも行ってみる?」
「…はいっ!!」
そう言って琴子に向けられた屈託のない笑顔、傷の治りから見てもきっとこの笑顔が見れるのもあと数日。
琴子は寂しいという感情を胸にしまい込み朝ごはんの支度を始めたのだった。
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「どうよ虎ちゃん、久しぶりのシャバは!!」
「…琴子さんそれホントのヤクザ相手じゃ洒落になりませんからね。」
冗談交じりにそう話す二人は、暖かな太陽の下で一週間ぶりの外の空気に体を伸ばした。
「虎ちゃん、今日夜ご飯何がいい?」
「そうですね…琴子さんの作るのは何でも美味しいですから迷いますね。」
「またまた~虎ちゃんてば口が上手いんだから。」
「本当ですよ、料理上手な琴子さんに想われてる若が羨ましいです!!若だってきっと琴子さんの料理食べたら振り向いてくれますよ!!」
「……。」
虎のその言葉に琴子は思わず一瞬言葉をためらった。だがすぐに明るい笑顔を作り、そうかな?とだけ返した。
いつのまにか自分の中で大きくなっていった高虎の存在。
琴子はその不安定な気持ちをどうすればいいのか未だに自分でも分からずにいた。
「ね…ねえ虎ちゃん、私…髪の毛切ろうか迷ってるんだけどどっちがいいと思うかな?」
「…そうですね~…琴子さんは長い方が琴子さんらしいと思いますけど。折角綺麗な髪なんですから。」
「…!!」
普通なら照れてしまいそうな歯の浮くような言葉。
本当なら和泉に言われたら最高に幸せだったのだろうか、いや、きっとその言葉は高虎の真っ直ぐな笑顔と一緒に聞けたから嬉しかったのだ。
琴子は自分の中で確かになりつつある感情を再確認すると、恐る恐る口を開いた。
「虎ちゃんあのね…私…」
ー…ザアッ……ー
「…え?…虎…ちゃん…?」
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ー…バタバタバタ
「和泉ちゃん!!和泉ちゃんいる!?」
突然事務所に息を切らせ髪を振り乱して入ってきた琴子に皆が驚いていると、事務所の奥で和泉が面倒臭そうに顔を上げた。
「またお前か、今度はどうした。」
「いないの…」
「は?」
「虎ちゃんがいないの…ちょっと離れただけなのに…きっと八重樫組の人に…!!どうしよう…虎ちゃんまだ傷も治ってないのに……!!!!」
「虎…?虎といたのか!?ちょ…落ち着け琴子!!傷ってなんだよ何があった!!?」
「助けて和泉ちゃん…!!虎ちゃんを…助けてっ……!!!!!!」
「……当たり前だ!!!!」
ー…バタバタバタ
「なっ!?み…みんなどこ行ったんだ!?」
事務所の階段から響いた大勢の足音に、応接室にいた孝之助は驚き顔を出した。
孝之助が見回した事務所の中はすでにもぬけの殻で、かろうじて残っていた九条が孝之助に状況を説明した。
「孝之助さん…どうやら高虎さんが拉致されたようで…和泉が後を追ってます。」
「はあ!?和泉にあんだけ冴嶋組に顔出すなって行ったのに!!」
「孝之助さん、和泉が向かったのは八重樫組の方ですね。」
「余計悪いじゃねえかよ…!!ったくしょうがねええなああのバカわあぁ!!!!!!」
孝之助はそう言って持っていた書類を勢い良く置くと、すぐに羽織りに手を通しどこかに電話を繋げたのだった。