21.封の開かない手紙
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ー…コトッ
「はい!!今日は虎ちゃんの好きなラーメン作ってみました~!!」
「おお~美味しそうです!!頂きます!!」
そう言って美味しそうにご飯を頬張る高虎を見て琴子は嬉しそうに笑うと、自分も作ったラーメンを口に運んだ。
「我ながら美味しい!!これ屋台出せるんじゃない?」
「はは、美人大将の作るラーメン屋台って話題になりそうですよ!!」
「……美人…。」
「へ?」
「あ、いやいやなんでもないわよ!!」
毎日一人で静かに食べるのが当たり前だった食事、こうして賑やかに食べるのが当たり前になるときっと後が辛くなるのだろう。
傷のだいぶ治った高虎の笑顔を見て、琴子はこみ上げてくるものをギュッと押さえ込んだ。
「虎ちゃんご飯食べたら包帯巻き直そうか?」
「あ…ありがとうございます!!」
(そうよ、怪我をして動けないから虎ちゃんはここにいるだけなんだから…、深く考えちゃダメよ…私が好きなのは和泉ちゃんでしょ!!)
琴子はふと浮かんだ思いに首を横に振って自分を落ち着けると、包帯を取りに向かった。
「だいぶ治ってきたわよね、一時はどうなることかと思ったけど…良かった。」
「はい、琴子さんの適切な処置のお陰で助かりました。」
「いやいやもう初めはパニックだったのよ~スマホ片手に"傷 銃 手当"って検索しまくって…」
「あはは!!」
次第に高虎が見せるようになった屈託のない笑顔。
スーツを脱ぎこうして笑っている高虎を見るとまるで任侠の世界に身を置く人だという事が信じられなくなる。
だが包帯を外し深々と背中一面に彫られたその刺青と一つ足らない指を見るたび、
琴子はドキリと現実に戻された。
「虎ちゃん…何であんたみたいな優しい人がヤクザなんてやってるの…?似合わないわよ。」
「あはは…似合わないってよく言われます、でも…私はそんなによく出来た人間じゃありませんよ。」
「そんなこと…」
「恐喝窃盗詐欺、私は中学生の時すでに犯罪と呼ばれることは片っ端からやってきた手の付けられない馬鹿でした。
そんなどうしようもない私を親でさえ見放し、その時唯一私を匿い育ててくれたのが今の冴嶋組組長でした。」
「…。」
「この世界では私の経歴なんて珍しくもなく疎まれることも特別変な目で見られることもなかった。変な話、私はそれが嬉しくて、やっと生きる場所を見つけたとさえ思ったんです。おかしいですよね。」
高虎はそう言って少し自嘲気味に笑った。
だが一方琴子は変わらず深刻そうな顔つきで、勢い良く首を横に振った。
「…おかしくない!!私にもその気持ち、少し分かるもん。」
「え…?」
「私も虎ちゃんほどでないにしろ問題児で、親に勘当されて東京に出てきたけど行き場もなくって…キャバクラのスカウトに助けられてここまで生きて来られたの。」
「そうだったんですか…」
「引いた?」
「いえ、琴子さんこそ。」
「引くわけないでしょ。」
どこかしら生きてきた道の似ていた二人、お互いの過去を話した二人は顔を合わせて笑いあった。
「じゃあ冴嶋組に入ってから和泉ちゃんとは出会ったの?」
「はい、私は組に入ってずっと若の世話役を任されていました。でも若の境遇が境遇なだけにはじめは中々受け入れてもらえず、しょっちゅうぶつかっていましたよ…。」
「ふふ…今じゃ考えられない感じね。」
「あの頃はまだ若かったですから……今はもう何が起こっても組長と若に従い、命をかけて若をお守りすると決めているんです。若の為ならいつ死んだって構いません。」
「死……。」
高虎の真っ直ぐでいて刹那的なその言葉。
高虎にとってはきっとそれが当たり前だったのだろう、その言葉にはどこにも揺らぎがなく、それがかえって琴子の胸を締め付けた。
「どうしてそこまで和泉ちゃんに…?」
「……もちろん組長の唯一の血縁であるから、というのもありますが…私は本当は若に対して今も拭えない罪悪感があります。」
「罪…悪感…?」
「…若は……冴嶋組に来てから外との接点を全て遮断されました、それは実の母親も例外ではなかった…。
外との接点をなくし組や私しか頼る宛がないようにすることで若が組から離れるのを防ごうとしたんでしょう、まんまと若は私を兄と慕いました。」
「…。」
「ですが私には本当は慕われる筋合いなんてこれっぽっちも無かった。若は知りませんが組に入った後も若の母親から届いていた何十通にも及ぶ手紙、それを封も開けぬまま捨てていたのは私なんです。」
「…え…?」
「命令だったとはいえ、一枚一枚捨てるたび、若が私に笑いかけるたび身がもがれそうだった。
そして手紙は100通を超えた頃からピタリと途絶えてもう二度と届くことはなくなった。」
「…。」
「内緒で渡すことも出来たはずなのに私はしなかった。若と若の母の最後の繋がりを切ったのは紛れもない私です。だから若にはどうしてもフランスに行ってそれを取り戻して欲しかった…でももう、あの時には手遅れだったようですがね…。」
「…虎ちゃん…。」
初めて知った高虎を今も縛る見えない鎖。
和泉のことを知るのに精一杯で、まさかこんなことが起こっていようとは思いもよらなかった。
「どうしてそんな大切なこと…会って間もない私に話すのよ…虎ちゃん…。」
「さあ…死ぬ前に誰かに言っておきたかったのかもしれませんね…。」
「…。」
高虎の悲しい言葉にぐるぐると堂々巡って考えた結論が出た頃には、琴子の目からは大粒の涙が溢れていた。
琴子はその涙が見えないように高虎の後ろに隠れ俯くと、絞りだすような声で言った。
「組長さんがいけないんじゃない…和泉ちゃんも虎ちゃんも、悪く無いわよ…和泉ちゃんだってそう言うに決まってる。」
「……。」
「だから虎ちゃん…死ぬなんて悲しいこと簡単に言わないでよ…。」
「琴子さん…。」
「ね、お願い…。」
「…はい。」