21.封の開かない手紙
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ー…チッ…チッ…
「…?」
それから数時間が経ったのだろうか、目を開けた高虎は見慣れない天井をぼうっと見上げた。
部屋には血の滲んでいた上着が洗って掛けられ、何枚もの洗われたガーゼが綺麗に干されていた。
「ここは……」
ベッドの傍らに眠る琴子の姿に高虎が気付き少し驚くと、琴子はハッと目を覚まし顔を上げた。
「良かったぁ……生きてた……!!!!」
「あなたは…若の事務所で一度お会いした…」
おぼつかないながらも会話ができるまでとなっていた高虎に琴子は安堵の表情を浮かべると一気に緊張の糸が切れたようにソファにもたれかかった。
「も~…誰にも言うなって言って倒れるもんだから苦労したんだから!!その手当…調べてやったけど素人のやり方だからあってるか分からないけど許してね!!」
「いえ…とんでもないです…ご迷惑をお掛けしました…!!」
「でも傷があんまり深くなくて良かった…あの上着の血見てびっくりしちゃったけど、あれ高虎さんの血じゃないわよね…?」
琴子はそう言って掛けてあった上着を指すと、高虎は言葉を濁らせながらも頷いた。
「一緒に銃撃された組員の人の血?」
「ど…どうしてそれを…!?」
「だってニュースでやってたから、高虎さんは行方不明だって報じられてて和泉ちゃんも心配してたわよ?」
「……え…若はこのことを知って…!?」
それから事の次第を聞いて高虎は考えこむように黙り込んでいた。
ニュースで報道された事か和泉に知られた事か何を考えこんでいるのかは琴子には分からなかったが、その深刻な表情に琴子もそれ以上問い詰めはしなかった。
「それよりご飯食べれそう?私の手作りで悪いんだけど!!」
「あ…でもこれ以上世話になるわけにはいきませんのでお気遣いな…」
「私の手料理が食べれないって言うわけ~?」
「い…いえ…決してそういうわけでは…!!頂きます!!」
「よーし!!」
慌てて取り繕う高虎を見て琴子はニッと笑うと、手際よく手料理の乗った皿をテーブルに並べた。
高虎は琴子に進められるままに料理を口に運ぶとその美味しさに思わず顔をほころばせた。
「美味しいです…!!」
「なら良かった、無理しない程度に食べてね。でも本当なら病院に行ったほうがいい傷だと思うんだけど、そういうわけにはいかないの?」
「…いえ、取り敢えず今は…」
「そう。」
「あの…見ず知らずな私をここまで助けて頂き感謝します、食事をいただきましたらすぐに出て行きますので…。」
「…その足で?」
「…。」
琴子はそう言うと高虎の傷だらけの足に目を向けた。
高虎の傷のほとんどは足に集中しており、夜の街で色々な人間と問題を長年見てきた琴子にとってはそれがどういうことかくらいは見当がついていた。
「相手は高虎さんを殺さず捕まえたかったんでしょ?そうじゃなきゃ傷が足に集中してるっておかしいもの。」
「……。」
「和泉ちゃんが関係してるのね?」
「…………。」
高虎はその質問に何も言わずに言葉をつまらせた。だがそれは遠回しに肯定しているようなもので、琴子はハアと溜め息をついた。
「和泉ちゃんには言わないから、命の恩人にくらいは話しなさいよ。」
「……………今回私達を襲ったのは八重樫組です。」
「八重樫組…あの冴嶋組とよく揉めてる…?」
「はい、長年うちと対立してきた八重樫組でしたが、近年は平和的に協力関係を築こうとしていたんです。ですが冴嶋組の次期跡継ぎが若だということを知ってからあちらの態度は一変しました。」
「…。」
「血筋というだけで素人を組長にしようとしていると八重樫組はうちから距離を置くようになり、まあそれによって不利益を被った組員がいたようで…そこの一派に襲われたという次第です。」
「高虎さんに和泉ちゃんの居場所を聞き出して…殺そうとしたのね?」
「…恐らく。」
高虎の話を聞いて頭を整理した琴子は、シンプルな疑問に首を傾げた。
「あちらも和泉ちゃんが組長になって欲しくない、和泉ちゃんも組長になりたくない、なら和泉ちゃんを組長にしなければ済む話じゃない。」
「組長がそう言ってくださればいいのですがそれがなかなか難しく…。組長は度重なる内部抗争で完全に組員に対し疑心暗鬼になっており"血"という確かな物以外信じられなくなっているようなのです…。」
「…なんか悲しいわね…。」
「はい……。」
そう言って寂しそうな顔で頷く高虎、そんな高虎を励ますように琴子は明るく笑うと、高虎の肩をポンとたたいた。
「でも高虎さんみたいに信用できる仲間がいるってこと、きっと組長さんもわかってくれるわよ!!さ、ご飯食べて食べて!!」
「……ありがとうございます…!!」
それから数日、高虎は狙われているということもあり傷が治るまで琴子の部屋で世話になることになった。
毎日傷の手当に食事にと献身的に尽くしてくれる琴子に、高虎も次第に心を許していったのだった。