20.天狗祭り
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「朝比奈くん本当にありがとう!!助かったよ!!」
「いえ、とんでもありません…。」
提出する書類が揃った事に心から感謝する父に、昨日の事がまだ気にかかっているヒナは申し訳無さそうに顔を俯けた。
『もうお父さんデータは今度からちゃんと印刷してとっとくんだよ!?ヒナさんがいなかったらホントどうなってたか…!!』
「あはは、いやもう全くだ!!」
「姉ちゃん電車何時~?送る前に稽古場ちょっと行ってきてもい?」
『うん、11時半の電車だからもうちょっとなら大丈夫だよ!!』
「了解っ!!」
そう言ってバタバタと家を飛び出す佐々の後ろ姿を見送ると、荷物をまとめた二人の前に両親は居直った。
「朝比奈くん、今回はわざわざ手伝いに来てくれてありがとう、祭りもパソコンも本当に助かったよ。」
「…いえ…私もお世話になりました。"私のような者"を泊めて頂き本当に感謝しています。ご迷惑をおかけ致しました…。」
『…ヒナさん!!』
「…。」
ヒナの言葉に佐奈は怒ったようにつっかかり、顔をしかめた。
だが、この家にとって自分は恐らく疫病神に違いなく、それは朔太郎の言葉で改めて思い知らされたこと。
ヒナにはもう黙って頭を下げこれ以上この家に迷惑がかからないようにすること以外思いつかなかったのだ。
だがそんなヒナの思いとは裏腹に、佐奈の両親はニコッと穏やかな笑みを浮かべてヒナの肩をポンと叩いた。
「ぜひまた遊びにいらっしゃいね?佐奈と二人で!!」
「…え…?」
「朝比奈くん、佐奈は東京には知り合いもほとんどいない。だから佐奈のこと…これからもどうかよろしく頼むよ。」
「…!?」
勿論ヒナの答えはイエスだった。
だがヒナの頭の中には想像を超えた以上のクエスチョンマークが並び、なぜ?と言わんばかりの顔で戸惑うヒナに、佐奈と両親は笑った。
『理解できないって顔してますね。』
「……だって…。」
『私のお父さんとお母さんですよ?』
「……!!」
優しくて朗らかでまっすぐで、人を見下さず差別せず損得を考えずに人の為に突っ走れる。
ああ、佐奈のそういうところは、この二人からきていたんだ。
「君が言ってくれたんだよ、私達が誰よりも幸せになって欲しいって。私達の幸せは佐奈が幸せな事だ、そして佐奈の幸せには君が必要なんだよ。」
「おじさん…」
「お父さんでいいよ、了くん。」
ヒナが二人の笑顔に溢れそうになる涙をこらえて頭を下げると、父はヒナの震える背中をポンポンと撫でた。
「ちょっと待たれい、朝比奈くん!!」
「!!」
『相田のおじいちゃん…?』
突然道沿いから掛けられた声に佐奈とヒナが振り向くと、そこにはこの集落最高齢の朔太郎の祖父と、孫の朔太郎本人が立っていた。
戸惑う皆を前に祖父はおもむろに地面に頭を付けると、ヒナの前で深々と土下座をした。
「あ…相田さん何を…!?」
「昨日はうちのバカ孫が大変な失礼をしたと伺った。その詫びを入れに来た。」
「…!?」
「人には皆過去がある、それをわざわざ明るみにして吹聴するなど言語道断。明日は我が身と思わずして生きておるからあのような酷いことが平気で言えるんや…本当に…本当にすまんかったのう…!!ほら、おんしも謝れ!!いい歳してからに!!」
「……ごめん佐奈ちゃん朝比奈さん…俺も言い過ぎだったって反省してる…本当にごめん…。」
『朔兄ちゃん……。』
「あの…本当にいいですから…頭を上げて下さい…!!朔太郎さんのおっしゃったことは事実です…謝られる筋合いは…」
予想外の出来事にオロオロと頭を上げるように促すヒナの腕を相田のおじいさんは掴むと、ニッと笑ってヒナを見上げた。
「過去はどうあれわしは嫌な顔ひとつせずせっせと働くお前さんが気に入ったんじゃ、ここを嫌いになられては来年もまた手伝いには来てもらえんじゃろうて。」
「相田さん…」
『相田のおじいちゃん…!!』
「あはは!!相田のじいちゃんに気に入られちゃ誰ももう文句は言えんよなあ!!」
「朝比奈くん、えらいまた面倒な人に気に入られたわね~♪」
「…。」
『良かったですね、ヒナさん!!』
「改めて聞くけど…佐奈のことお願いしていいかな、朝比奈くん。」
「………はい…!!」
ー…バタバタバタ…
「ねえちゃーん!!急がんと間に合わんかも!!早よ乗って~!!」
『ええっ!?もうそんな時間!?ヒナさん行きましょう!!』
「あ…うん…!!」
慌てて車を出す佐々を待っているヒナの腕を、それまで黙っていた朔太郎がガシッと掴んだ。
驚いたヒナが振り返ると、朔太郎は昨日とは違う真っ直ぐな目でヒナを見た。
「俺が言えた立場じゃないけど…佐奈ちゃんの事…絶対に泣かせるなよ…!!あと…おじさんのパソコンのことはその…ありがとう…。」
「…どういたしまして。」
「朝比奈さーん!!行くっすよ~!!」
「今行く。」
【20.】天狗祭り -END-
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