20.天狗祭り
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ー…ガラッ
「佐奈、朝比奈さんにお夜食作ったんやけど…食べんかな?」
『ああ…ありがとう、渡してくるね。』
ヒナがパソコンに向かい始めて二時間弱、時計は深夜0時を回っていた。
ひたすらパソコンの修理と復旧に没頭するヒナに夜食を渡すと、佐奈は邪魔にならないように部屋を出て台所の椅子に腰を下ろした。
「あんたは先に眠ったらどうね?お母さん起きてるから。」
『ヒナさんがお父さんの為に頑張ってるのに…寝てられないよ。』
「それもそうね…。」
母はそう言うと、佐奈の向かいに腰を下ろし佐奈のために作ったおにぎりをテーブルに置いた。
そういえばこうして母と二人きりで話すことなんていつ以来だろう、
佐奈はこの何だか気まずい沈黙に耐えかね、おにぎりを一つもぐもぐと頬張った。
「佐奈、あのね…お母さん達薄々分かってたんよ…あんたが前科のある人とお付き合いしとるって…。」
『…へ…?』
突拍子もない母の言葉に佐奈が目を丸くして驚いていると、母は少し笑って言葉を続けた。
「あの電話の時に、きっとあんたの大切な人がそういう人なんだろうって気付いてね、でもあの時はちょっとびっくりして朔君と同じような酷いこと言っちゃってね…ごめんね佐奈…辛かったよね…。」
『…。』
「だからお母さんお父さんにもそのこと話して、佐奈の選んだ人なんだから、変な先入観を持たずに佐奈の彼氏に会ってみようって決めたの。で、実際会ってみたら朝比奈さんは落ち着いてて優しくて気も利いて…お母さん達もホッとして応援してあげようって思っとった…でも…」
「朔君が言ったこともやっぱり引っかかってて、普通の人と結婚してくれたらってどこかで思ってた…だからさっき二人をとっさに庇ってやれんやった…本当にごめんね…母親失格ね…。」
『お母…さん……。』
初めて聞いた母の本音、
佐奈は目の前で肩を震わせて泣く母の手をぎゅっと握ると、滲む涙をゴシゴシと拭いニコッと笑った。
『ヒナさんね、普通の人だよ?カレーが好きでクッキー食べたこと無くて、クリスマスイブが誕生日だからずっとケーキ一個だったって根に持ってたりして。』
「……。」
『無口で愛想もなくて…でもほんとは誰よりも優しいの…それにね…』
それから佐奈はヒナとどうやって出会って、どういうことが起きて今に至ったのか、
朝比奈了という人間がどうやって生きていたのか、話せる限りを母に話した。
それが母を安心させることに繋がるかは分からなかったが、佐奈は包み隠さず話せる限りを話すことが、今自分に出来る唯一のことだと思っていた。
『今ヒナさんが頑張ってるのは相手が私のお父さんだからじゃないよ、ヒナさんはこれが近所のおばさんでも、下手すれば朔兄ちゃんだって同じように助けてくれる。
犯した罪は消えないと思うけれど…私はもう一度生き直そうとしている優しいヒナさんのそばにいたいの。』
「佐奈…。」
そう言ってニコッと笑った佐奈の心からの笑顔に、母は佐奈がヒナを心から想っていて、本当に大切にしてもらっているんだということを感じた。
『でも…正直みんなに迷惑をかけることになるならもう実家には立ち寄らないようにするから…だからね…』
「佐奈。」
佐奈の言葉を遮り何かを決意したように微笑んだ母は、佐奈の手を温かく握った。
「何も悪いことしとるわけじゃない、堂々としとればいいと。分かった?」
『……うっ…おかあさんんんん……!!』
「なあに、あんたが泣く事ないとよ~…もう…。」
つい数時間前まで有り得ないと思っていた展開、聞けると思っていなかった言葉。
その全てが温かくて嬉しくて、佐奈は隣にいるヒナに聞こえないよう、小さな小さな声で泣いた。
「朔君もね、言い過ぎやったとは思うけど佐奈の事思って言ったと思うんよ、ほら、朔君佐奈のこと本当の妹みたいに可愛がってたから…だから許してあげてね。」
『……ヒナさんに謝ってくれたらね。』
「佐奈…あんた意外と根に持つタイプなのね…。」
そう言うと佐奈と母は顔を合わせて、小さな声で笑いあったのだった。
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ー…ピーチチチ…
「ん…?まだ電気がついてる…?」
あれから一夜明けた朝6時、
台所に朝食の準備のため降りてきた母は、未だ明かりの付いたままの和室をそっと覗き込んだ。
「あら…ふふふ。」
母が覗いた和室では机に突っ伏したまま寝ているヒナと、ヒナがいなくならないようにかヒナの服の裾をしっかりと握り締めたまま眠りについていた佐奈の姿があった。
そしてその傍らには父が提出する書類と、復旧したことを知らせるかのようにぼんやりと光る父のパソコンが並べられていた。
母は二人の姿を見て少し微笑むと、押し入れから布団を取り出し二人にかけたのだった。