20.天狗祭り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー…バタン
『ただいま~…。』
少し遅めの帰宅に小言を言われるかと思いながら佐奈がそおっと玄関のドアを開けると、バタバタと慌てた様子の佐々が佐奈に駆け寄った。
『あ、佐々神楽お疲れ様!まだ着物着替えてないの?』
「ね‥姉ちゃん達おっそいよ!!ちょっと今それどころじゃないなんかマズイ状況になってるから !!」
『え…?』
佐々の言葉に嫌な予感がした佐奈がリビングに足を踏み入れると、そこには両親と祖父、そして険しい表情の朔太郎の姿があった。
『朔兄ちゃん?どう…したの……?』
「……朝比奈さん、今すぐ佐奈ちゃんと別れてここから出て行って下さい。」
「…。」
『え…?何言ってるの!?朔兄ちゃん…!?』
「そうよ朔君…話があるって言うから集まったのにそんな事突然…」
困惑する佐奈の家族をよそに朔太郎はプリントアウトした昔の新聞記事を取り出した。
その何十枚にも及ぶ新聞記事は全てヒナが逮捕された時のもので、罪の内容が事細かに記されていた。
「…警視庁のデータベースにハッキング…」
「最悪のハッカー…朝比奈了…?」
「この記事に載っている朝比奈了っていうのはお前だろう?その長身にメガネに長髪、どこかで見た顔だと思ったんだ。南在さんの事務所で働いてるって聞いて思い出したよ…南在さんのお陰で量刑事態は少ないがれっきとした犯罪者だ。犯罪者なんかに佐奈ちゃんはやれない。」
『ちょ…なんでそんな事朔兄ちゃんに言われなくちゃいけないの!?ただの幼馴染のくせに!!』
「佐奈ちゃんだけじゃない、このことが集落の人にでもばれたらあっという間にこの家族は格好のネタだよ、犯罪者を受け入れた家だってね。それに橘舞踏教室だって、人気踊り手の佐々の名前にだって絶対にそのことがひっついて回って傷がつく、僕はみんなのことを心配してるんだよ。」
『そんな事あるわけ…!!!!!!』
ない、と言いかけて佐奈はギリッと唇を噛み締めた。
怒りで頭の中がぐちゃぐちゃだったが、朔太郎の言っていることが絶対に無いとは言い切れない、ということだけは佐奈にも分かっていたからだった。
大好きな人をこんな風に言われて言い返せない自分が情けなくて悔しくて、佐奈の目からは大粒の涙が溢れていた。
「…佐奈ちゃんの性格上、この男のことも見捨てられなくて家と縁を切って迷惑をかけないようにするとか言い出すだろう。でもそれのどこが佐奈ちゃんが幸せになれるんだ?朝比奈さん、佐奈ちゃんの事を思うなら身を引いて下さい。」
「……。」
じっと自分を見る朔太郎と佐奈の家族、その全てにヒナは深々と頭を下げ"お世話になりました"と告げると、家を出ようと佐奈に背を向けた。
『ヒナさん待って!!私も一緒に帰ります!!!!』
「佐奈ちゃん!!」
「佐奈…。」
急いで荷物を持って自分の腕にしがみつく佐奈。
ヒナは優しく笑って佐奈の頭を撫でると、その腕をそっとほどいた。
『ヒナ…さん…?』
「佐奈にも佐奈の家族にも幸せになって欲しい。佐奈は…ここにいて。」
『…!?』
「…。」
『やだ…やだ!!!!!!!!!待って!!!!!』
「あのさ…黙って聞いとれば姉ちゃん一番泣かしとるの朔兄ちゃんやんか!!それに教室だってそんなことで傷なんてつかんし俺の名前とか尚更どうでもいいよ!!!!」
ー…バンッ……!!
「お前達はなんにも分かってない…!!今じゃネットでこんな簡単に情報が手に入るんだ、それも一生消えない!!!!子供も家族もいじめられて村八分にされて終わりになるのが目に見えてる!!!!」
……ガシャーン!!!!!!!!
「「!?」」
話に熱が入った朔太郎がテーブルを激しく叩くと、そのはずみで父のパソコンが鈍い音を立てて床に落下してしまった。
朔太郎は慌ててパソコンを持ち上げ起動を試みたが、起動音こそすれど画面が完全にフリーズして壊れてしまっていた。
「お…おじさんすみません…!!修理弁償しますので…明日電気屋に持っていきます…!!」
「……あっ…。」
「父ちゃん…どしたの…?」
動かなくなったパソコンを見て顔面蒼白になった父を佐々が不思議そうに見ると、父は心もとない声でポツリと呟いた。
「祭りの収支のデータとか決済の記録とか…全部その中や………明日町長と役員にデータ渡さんとそれこそ一大事や……。」
「「え…えええええっ!?」」
『ア…アナログで紙とかにデータの予備取ってなかったの!?』
「……だって…ハイスペックやけんこんなことになるとか思わんかった…丈夫で壊れんかと…。」
「父ちゃん…電気屋の言うハイスペックをなんかG-shockみたいなもんと思っとったんか…?」
先ほどまでの状況と打って変わって皆がバタバタする中、朔太郎が何度も電気屋に電話をかけたが時間が時間なだけに電話が電気屋に繋がることはなかった。
そんな中、佐奈にガッチリと腕を捕まれその場にとどまっていたヒナが、おずおずと口を開いた。
「あの…俺で良ければ…直しましょうか。」
『ヒナさん…!!』
「朝比奈くん…出来るんか…?」
「はい。」
静かに頷くヒナに最後の望みを託すようにパソコンを渡そうとすると、朔太郎がその間に割って入った。
「こんな奴にパソコンを渡しちゃダメだ!!こいつはハッキングの前科がある…分からないうちにこのパソコンを悪用する気かもしれません!!」
「朔君…ちょっと言いすぎじゃないか…。」
「犯罪者は一生犯罪者だ、変われなんてしな…」
ー…バキイッッ!!!!!!!!!!!!!!!ガシャーン!!!!!!!
「…!!??」
「ね…姉ちゃんグーで…容赦無いな…。」
自分を追い出そうとした人間の助けを恐る恐る申し出たヒナ。
そんなヒナの気持ちを無残に踏みにじるその言葉に佐奈は怒りで震え全身の力を込めて朔太郎を殴り飛ばしていた。
「朔兄ちゃんが孝之助さんに憧れたって一生かかったってなれっこない…!!朔兄ちゃんなんて大っ嫌い…私の家から早く出て行って………!!!!!!!!」
「佐奈…ちゃん……」
拳に血をにじませ、目いっぱいに涙をためて自分を睨む佐奈。
その姿にさすがの朔太郎もそれ以上は何も言えず、すごすごと佐奈の家を後にした。
「…佐奈、手大丈夫?」
『私は全然…!それよりヒナさ…』
「俺は大丈夫。ではパソコンお借りしますね。」
「……。」
ヒナはそう言うと父に連れられ居間の隣の部屋に入ると、作業を始めた。
一方佐奈はかすかに感じたヒナの違和感に、心配そうにじっとその扉を見つめたのだった。