20.天狗祭り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー…ガヤガヤガヤ
「朔太郎君~お酒まだいらんかね?」
「あ、大丈夫です~!!それよりおじさん注ぎますよ~!!」
「……。」
『……。』
あれからなぜか二人に付いて来た朔太郎は、
なぜかごく普通に佐奈のうちに上がり込み佐奈やヒナと夕食を共にしていた。
朔太郎と久しぶりに会えた懐かしさよりも、隣で明らかに不機嫌になっているヒナの様子に、佐奈は心中気が気ではなかった。
(ヒ…ヒナさん絶対何か怒ってる…もう朔兄ちゃん早く帰ってよ~!!!!)
「…えっ!?ちょ…佐奈ちゃんが働いてるのって南在探偵事務所なの!?」
『…え?あ、うん…そうだけど…それより朔兄ちゃんそろそろ帰ったほうが…』
「うそ!!!!!!俺が憧れてた弁護士って南在孝之助さんだよ!!めちゃくちゃ羨ましいんだけど!!」
『え…?こ…孝之助さん?』
突如出た聞き慣れた名前に佐奈が目を丸くしていると、朔太郎は世間は狭いねえと言って笑った。
「彼の現役時代は本当にカッコ良かったんだよ、量刑ブレイカーなんて言われてさ。何でわざわざ弁護士やめて探偵事務所なんて…南在さんも落ちぶれたよねぇ。」
『………。』
「…孝之助さんは、今も十分かっこいいです。」
「…え?ああそうか、朝比奈さんもそこで働いてるんだっけ?」
「……ご馳走様でした、夕飯美味しかったです。」
朔太郎が悪気があって言っているのかいないのか分からなかったが、そのどこか引っかかる物言いにヒナのイライラは静かに頂点に達していた。
あたりにピシリと張り詰めた微妙な空気に耐えられなくなった佐奈は、その空気を打破するように思わず声を上げた。
『……朔兄ちゃん!!ゴメンけど明日朝から準備で忙しいからもう帰って?お開きにしよ!!』
「佐奈、今日くらいせっかくなんやけんそんな事言わんで飲…」
『お父さんは黙ってて!!!!』
父を一喝し朔太郎を焼酎瓶を持たせたまま押し出すように帰らせると、佐奈は一人部屋に戻っていたヒナの元へ急いで向かった。
ー…ガラッ
『ヒナさん…?』
「……。」
ムスリと機嫌悪そうに振り返ったヒナの横顔。
その背中に佐奈はそうっと近づくと、ぴたっとひっつき顔をうずめた。
『言わんとしていることは分かります。』
「佐奈、趣味悪い。」
『え?』
「あの男が初恋の相手って。」
『なっ…何でそれを知って…!?佐々ですね!?あのおしゃべり…!!!!』
そう言ってプイとそっぽを向いてふてくされるヒナに、佐奈は困りながらも少し嬉しそうにヒナを抱きしめた。
『初恋だったのはこの辺に年齢の近い子供が佐々と朔兄ちゃんだけだったからです!私も朔兄ちゃんのさっきの言葉には正直イラっときましたし…見る目無かったなあと思いました。』
「…。」
『ヒナさん、女の子にとって初恋なんてなんの特別感も意味もないんですよ。大切なのは、今好きな人だけですから…。』
「…本当に?」
『勿論です!ヒナさんは私がどれだけヒナさんのことが好きか見くびりすぎです!!!!』
そう自信満々に言う佐奈にヒナも思わず吹き出し、嬉しそうに笑った。
「分かった、もう見くびらない。」
『はい!!よろしい!じゃあそろそろ寝ましょうか。』
「…うん。」
明日は天狗祭り当日。
佐奈は提灯で赤く照らされた空を見ながらぼんやりと瞳を閉じた。
.................................................
ー…ピーチチチ…
「…佐奈…」
『…ん…?』
「…佐奈!佐奈!!!!!!!いい加減に起きなさいっ!!」
『えっ!?あっ!?はいっ!!!!!!?』
バタバタと忙しそうな物音と母の鬼のような声に目を覚ました佐奈は、隣に寝ていたはずのヒナの姿がないことに気付き、目をこすりながら階段を降りた。
「やっと起きたのねあんたは!!早く準備なさい!!朝比奈さんは朝からちゃんと起きて手伝ってくれてたわよ!!」
『えっ…!?ヒナさんが!?ヒナさんは今どこに…』
「佐奈。」
『あ…ヒナさんおはようごぉほっっ…・・・!!!!!!!!!!!!!!!???』
突然咳き込んだ佐奈の前に現れたのは、天狗祭りで着用される装束を纏ったヒナの姿だった。
いつも祭りでその装束を着ているのを見るのは大抵父や祖父達世代の人ばかりで気付きもしなかったが、その姿のヒナのかっこよさに佐奈は思わず目と心を奪われていた。
(わ……悪くない……!!!!!!天狗祭り万歳…!!)
「佐奈…大丈夫?これ着ろって言われたんだけど…やっぱり似合わない…?」
『いえ!!似合います!!寧ろかっこよすぎるというか…いえ何でもないです気にしないで下さい!!』
「?」
思わず緩む頬を必死に平常に戻すと、佐奈も支度を済ませるためにいそいそと部屋に戻った。
今日は一日祭りの運営で忙しいというのに、正直身が入りそうもないなあと佐奈はひっそり確信した。
(お祭り…ヒナさんと二人で回れる時間ないかなあ。)
折角大好きな彼氏とお祭りにいるのだから一緒に見て回りたいと思う乙女心を渋々抑えこみ、
佐奈も今日のために準備した真新しい浴衣に袖を通したのだった。