20.天狗祭り
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ー…ガラッ…
「ただいま~!!姉ちゃんたち拾ってきたよ~!!」
『…た…ただいま~…。』
「…お邪魔します。」
佐奈が恐る恐る玄関のドアをくぐると、中から現れた両親は思ったよりも笑顔で明るく二人を迎えてくれた。
その姿にひとまずホッと胸をなでおろした佐奈は、懐かしい我が家にヒナを通した。
「わざわざ手伝いに呼んで悪かったね、遠くて疲れただろう?」
「あ…いえ、こちらこそお招き頂きありがとうございます。」
「男手があると本当に助かるわぁ、あら、すごく背が高いのねぇ!!何センチある?着物のサイズ合うかしら!?」
「189くらいだと…あ…お構いなく…。」
『……。』
(ヒナさんが今までにないくらい丁寧に会話してる……。)
基本的にヒナは依頼人と話す時すら愛想良くすることも丁寧に感じよく喋ることもしない。
だが自分の両親を前に物腰柔らかく喋るヒナを見て、佐奈の頭には九条の言葉が浮かんだ。
"ヒナもね、頑張っていますよ。"
『……。』
「…姉ちゃん、さっきから何ニヤニヤしてんの?」
『な…何でもないっ!!』
佐々に指摘され思わず緩んでいた顔を元に戻すと、佐奈はリビングに通されていたヒナの元に駆け寄った。
「ここが佐奈の家…。」
『はいっ!!でもなんか凄い違和感です!!私の家族みんな背が高くないので…その欄間に頭当たるなんて初めて見ました!!』
「…俺もびっくりした。」
『ふふ。』
「はいお茶どうぞ。」
「あ、ありがとうございます…。」
出されたお茶を前に家族がリビングに揃い他愛もない話に花を咲かせていると、佐奈の父親が自慢気にあるものを引っ張り出してきた。
「じゃーん、これ見ろ佐奈!!ついにうちもインターネット買ったとぞ!!!!これで都会もんにはバカにされん!!」
『おっ…お父さん~!!それを言うならパソコン買ったでしょ!?インターネットはつなぐもので…!!』
「タナカ電器の一番"ハイスペック"なやつや!!容量も画面もうんたらかんたら……で、今回の祭りのデータも収支もぜーんぶこれでまとめとるんや!!朝比奈君もパソコンのセキュリティとかちゃんとやっとるかな?」
「あっ…はい…!!」
『お…お父さん…あの…。』
(お父さん~~~~これ以上ヒナさんの前でパソコンハイスペックだとかうんちくとか言わないでええええ!!恥ずかしいからあああ!!!!泣)
世界中で恐らくトップ10には入るほどのパソコンの知識を持ったヒナだとは露知らず、自慢気に新しいパソコンを見せる父に佐奈は穴があったら入りたい気持ちになった。
だが当のヒナはそんな父に呆れるでもなく、穏やかな笑顔で相槌を打っていた。
「な!?いいパソコンやろう?朝比奈くん!!」
「はい、そう思います。」
『…ヒナさん。』
「まあ最初は全く使えんやったんやけど隣の朔君が設定やら使い方やら教えてくれてな、今じゃバッチリや!!」
『えっ?朔兄ちゃんってまだ隣にいるの!?』
「去年からこっちに戻ってきとるぞ。お前昔からひっついてまわっとったもんなあ…後で遊びに行ってみたらどうや?」
『いや~今更久しぶりすぎて何話せばいいか分かんないからいいよ~…。』
「……。」
「朝比奈さん、朔(サク)兄ちゃんってのは隣の家の6つ年上の兄ちゃんで姉ちゃんの初恋の人っす。」
「佐々、別に聞いてない。」
「あっ、これは出過ぎたことを…失礼しましたっ!!」
佐奈の初恋の人がどうやらこの家に今も関わりがあることを知り、ヒナは人知れずムッとした顔を浮かべた。
「…あっ、俺もう稽古行かなきゃ。じゃあ姉ちゃん朝比奈さんまたあとで!!」
「佐奈、お前も夕飯まですることもないからこの辺を朝比奈さん案内してやるといい。明日になったら忙しくてそんな暇もないだろうからな。」
『じゃあ…そうしましょうか、って言ってもあんまり何にも無いですけどね。』
「うん。」
...........................................
ー…ザク…ザク…
『お父さんがなんか知ったかぶりですみません…もうホントいつもああなんです…居心地悪くなかったですか?』
佐奈は家の裏の田んぼ道にヒナを連れて出ると、バツが悪そうに口を尖らせた。
「いや、佐奈のお父さんのパソコンは本当に良いものだったし、楽しかった。」
『…なら良かったです…!!』
辺り一面の緑を夕暮れに差し掛かった太陽が赤に染め始めると、あたりにはポツポツと提灯の火が灯り始めた。
真っ赤な空に真っ赤な提灯の明かりが規則的に並んだ景色は素朴で温かいながらもどこか神聖な雰囲気を漂わせており、ヒナはその景色に思わず目を奪われた。
『このあたりっていつもは日が暮れちゃうと電灯も殆ど無くて真っ暗なんです。でもこの時期は天狗様が道に迷わないようにってこうして毎日社までまっすぐに提灯の明かりを夜通し灯してあって…。』
「…東京じゃ絶対見られない景色だ。」
『はい…!!』
「…あれ…佐奈ちゃん?」
二人が夕焼けに映える提灯に気を取られていると背後から突然佐奈を呼ぶ声が響き、佐奈は驚き振り返った。
『え…朔兄ちゃん!?』
「…。」
先ほど聞いたばかりの佐奈の初恋の相手の名にヒナがピクリと反応すると、相手の男は笑顔で二人に駆け寄ってきた。
「お祭りに戻ってきたの?久しぶりだね!!」
『ああ、うん!!今年はうちが夜羽締めだから…朔兄ちゃんこそ上京してたのに戻ってるって聞いてびっくりしたよ。』
「いやあ…司法試験また落っこちちゃってね…リフレッシュも兼ねて戻ってきてたんだ。」
隣の家に住む佐奈の幼馴染の相田朔太郎は昔から頭がよく弁護士になることを夢見ていた。
朔太郎なら一発で司法試験も受かるだろうと村の誰もが思っていたが思わぬ挫折を味わいここ数年、司法試験に連敗し続けていた。
「東京にいざ行ってみたら僕の尊敬してた弁護士がもう弁護士やめちゃっててね…ちょっと意欲が削がれたってのもあってさ。」
『へえ…そうなんだぁ…。』
「ところでそちらの彼は…彼氏?」
『あ、うん!!朝比奈了さん、お祭り人手足りないから手伝ってもらう事になって…。』
「…へー……どうも、佐奈ちゃんがお世話になってます。」
「…はあ。」
「あれ…?どこかでお会いしたことありますかね?」
「……?いえ…。」
『?』
満面の笑顔で手を差し出した朔太郎のどこか嫌味のある言葉。
ヒナは先程までの穏やかな表情とは打って変わって感情のこもらない冷たい目で朔太郎を見ると、出された手に頭を下げて対応した。