20.天狗祭り
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ー…ガタガタガタガタ
「くっそ、これほどけこの野郎!!!!」
事務所に朝から響き渡る和泉の大声。
そこには脱走しないようにとがっちり紐で繋がれ、ギャーギャー喚く和泉の姿があった。
「……あの、孝之助さんアレ(和泉)うるさいんですけど、近所迷惑ですよ。」
「しょうがないだろ~ほっといたら自分も佐奈と祭り行くって聞かないんだから。和泉が付いて行ったらまとまるもんもまとまらねえし、何より三人も一気に休暇取られたらうちが仕事にならん。」
「でもあの状態じゃ結局仕事できないじゃないですか…うるさいだけで。」
「…ま、佐奈達が新幹線乗っちまえばあいつも追うに追えないからそれまでな、そのあとはみっちり仕事詰め込んでやるさ。」
「だあああ離せえええええええええ!!!!!!!!!!」
...................................................
ー…プシュー…
『…ん?』
「…どうした?佐奈。」
『いや…なんか今和泉さんの声が聞こえた気が…気のせいですね。』
佐奈はそう言って笑うと、ヒナとともに電車に乗り込んだ。
佐奈の地元までは在来線から新幹線に乗り換えて三時間ほど。
初めてのヒナとのデートらしいデートが里帰りになってしまった佐奈は、終始そわそわと落ち着かないようであった。
『良かったんですかね、二人同時に三日も休み貰っちゃって…。』
「いい、せっかく孝之助さんが気を回してくれたんだし…佐奈は最近実家にも帰って無いって聞いた。」
『ああ…はい…。』
そう言って気のない返事を返した佐奈の顔はどこか浮かない顔だった。
結局あれから今日まで挨拶のことについてはヒナと話してはおらず、佐奈は自分の母親の考えをヒナに伝えることも出来ないでいた。
そんな佐奈の不安な気持ちを察していたヒナは、佐奈の手をギュッと握った。
『ヒナさん…?』
「佐奈、大丈夫だから。佐奈が心配することなんて何もない。せっかくなんだから、笑って。」
『……は…はいっ!!』
きっとヒナは佐奈の何倍も今日のことで気を揉んだだろうし不安もあっただろう。
自分の怖さばかりでそんなことさえ気を回せていなかったと佐奈は気付き、笑顔でヒナの手を握った。
(佐々だってヒナさんのこと気に入ってくれてたし、きっと上手くいくよね、大丈夫……!!)
移り行く景色を眺めながら佐奈は自分を落ち着けると、
次第に近づく懐かしい田舎の景色に、思わず顔をほころばせたのだった。
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ー…ミーン…ミーン…
『着いた…うわあ暑い!!もうセミ!!…なんか懐かしい…!!』
「……!!」
電車に揺られ少し疲れた二人を出迎えたのは四方を山で囲まれた田舎の駅だった。
古い木造の駅舎は無人駅で、当たり前のように切符を箱に入れる佐奈を見てヒナは驚き戸惑っていた。
「佐奈…この駅誰もいないんだけど、そんなにここは過疎化が深刻で…?」
『いや、あの駅は無人駅って言って昔から駅員さんいないんですよ…。』
「佐奈…!?あっちには野菜とお金が当たり前のように置いてあるんだけど…!??」
『あれは野菜の無人販売です、野菜貰ったらみんなここにお金置いていくんです!!』
「も…持ち逃げされたり売上金を盗られたりしないのか…?」
『あはは、確かにそう思いますよね~!!でも昔から誰もそんなことしないんですよ。まあ田んぼだらけで野菜は基本事足りてるってのもありますが…。』
「…!!」
そう言って笑う佐奈の姿と律儀に置かれたままの100円玉。
この地が橘佐奈というまっすぐで優しくて朗らかな人柄を作り上げたのだと、ヒナはしみじみと納得した。
都会のど真ん中とアメリカで育ったヒナにとってはほとんどが驚きの連続であったが、その100円玉の存在はとてもとてもあたたかく見えた。
『ね、本当になにもないとこでしょう?』
「でも、忙しくなくていい。」
『ふふ…そうですね。』
「姉ちゃーん!!朝比奈さーん!!こっちこっち~!!」
『佐々!!』
二人が故郷の空を眺めながら歩いていると、道沿いに止めた車から手を振る佐々の姿があった。
佐々に促されるままに二人は佐々の車に乗り込むと、家までの緑しかない田舎の田んぼ道をひたすら進んだ。
「朝比奈さん、あまりにも何にもなくてびっくりしたでしょ~?」
「…どちらかというと俺は佐々が車を運転していることに驚いてる。」
「えっ、俺のこといくつだと思ってたんっすか~??俺姉ちゃんの一コ下なんでもう21っすよ~!!」
「てっきり高校生くらいかと…」
「朝比奈さんひでえ!!」
『あははは!!』
あっけらかんとした佐々の表情と懐かしい風景に佐奈が笑顔を見せると、ヒナも嬉しそうに頬をゆるめた。
そうして車に揺られること数十分、車は佐奈の両親の待つ自宅へと到着したのであった…。
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