18.姿なき断罪人
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ー…カチカチカチ…
「南在探偵事務所…こんなとこに犯罪者の巣窟があったなんて…潰してやらなくちゃな……早く潰してやらなくちゃ…周囲の人間は恐ろしくてたまらないだろう…。」
ー…カチカチカチ…
ー…カチカチカチ…
「一度道を踏み外したものに取り返しなんてつかないってこと…ふふ…教えてやらなくちゃ…日本がしないなら…俺が代わって死刑にしてやるんだあはははははははは!!!」
ー…バンッ!!!!!!
「なっ……!?」
「見ーつけ。なにがそんなに面白いわけ?」
「冴嶋…和泉!!??」
突如開いたネットカフェの個室の扉、
中にいた陰鬱な顔の男は和泉を見て慌ててその場から逃げ出そうとしたが、和泉に腕をがっちり掴まれてしまった。
「おいおい、人のこと散々こき下ろしといて身元の分かんねーネットカフェから書き込みして挙句逃げるなんてそりゃねーだろ。」
「な…何で俺の居場所が…!!」
「ネットカフェなら身元が分からないとでも思ってたのか。」
「あ……朝比奈………了……!!!!!!」
自分の前に立ちはだかったヒナの姿を見て全てを理解した男は、がくっとその場にへたり込んだ。
「…君に少し話したいことがある、ここじゃあなんだからさ、少し出ないかい?あいつらはただの付き添いだから気にしないで。」
「……。」
冷たい笑顔と有無を言わせない孝之助の態度に、男は諦めたように渋々孝之助達の後に続きネットカフェを後にしたのだった。
.......................................................
ー…カラン…
「さあ、とくとお話聞かせていただきましょうか。」
連れて来られたのは人気の少ないとある喫茶店。
男はヒナと和泉の視線を気にしながらも、目の前の孝之助を睨み付けた。
「あんたとする話なんて何もな…」
「うちの従業員の事あれだけボロクソに書いといてそりゃねーだろ若造。」
「…っ!!」
顔こそ笑っているものの自分の言葉に物凄い威圧感で言葉を被せてきた孝之助に男は一瞬怯んだが、それをきっかけに男は堰を切ったように喋り始めた。
「はは…九条もそいつらもあんたも…自業自得だろう…?晒されても文句を言えないことをやってきたはずだ!!この人殺し!!バケモノ!!お前らみたいなのがウロウロしてたんじゃ俺達一般人に平穏なんて訪れないんだよ!!!!」
「……。」
「被害者は被害に合うことを選べないが加害者は加害することを選べる…!!全てお前たちが悪いんだ…一度道を踏み外した奴に更生なんて望めない、そういう人間は死刑にするしかないんだ、そうすれば世界は平和になる!!
南在孝之助…お前も同罪だ、犯罪者の肩を持って犯罪者を社会にばらまいていた!!!!!!お前も死刑だ!!死刑だ死刑だあああああ!!!!」
「………なるほど、それがお前の言い分か。」
「…ハア…ハア……。」
「まあな、今の日本は刑も軽いしやられ損だ。俺だってもっと重罰が下るべき奴はいると思うよ。でもな…お前みたいな考え方で国民を社会の外に放り出していってみろ、大変なことになるぞ。」
「…?」
「俺も死刑、あいつらも九条も死刑、罪を犯したものは過失があろうとなかろうと犯したことが悪いから死刑。
子供を殺され復讐に駆られて犯人を殺しても情状酌量の余地なく死刑、
殺すつもりは無かったのに飛び出してきた人をはねて殺してしまったので死刑、
情況証拠しか無くて確信は薄いけれど警察の無理な取り調べで自供を始めたからから死刑、
世界は死刑囚で溢れて毎日数千人が処刑される、それがお前の言う平和な世界なんだな?」
「…そうだ!!罪を犯したものは"犯した事自体"が罪なんだ…そうすれば残った人間は"シアワセ"になれる……!!」
"幸せになれる"そう呟いた男の顔は歓喜と恍惚に満ちていて、もはや正常とは思えない表情だった。
そんな男の持論に孝之助はハアと溜息を付くと、静かに言葉を返した。
「お前は死刑死刑軽く言うが…死刑を執行する人間の苦しみを考えたことがあるか?死刑を言い渡された人間を腹を痛めて産んだ母親の事を、考えたことがあるか?
無実なのに死刑囚として扱われた人間の気持ちを……お前は考えたことがあるのか!?」
「………?」
「……俺が昔、量刑ブレイカーなんて下らん名前で呼ばれる弁護士だった頃…俺はある少年の弁護を任された。
状況証拠だけではあったが確実性のある証拠に俺はなんとか情状酌量で少ない刑を勝ち取ってやろうと思っていた……でも少年が訴えたかったのは、無実ということ唯一つだった。」
「…?何を…」
「何度か接見していたのに俺は彼のことが何一つ見えちゃいなかった…そして数日後、彼は拘置所内で見張りの目を盗んで自殺した。その後に皮肉なことに証拠が捏造だって分かってな…でももうその時には全て遅かった…遅かったんだよ…。」
「……おっさん…。」
初めて口にした自分の過去の話。
孝之助は当時を思い出し悔しそうにギリッと歯を食いしばった。
「……そ…それが何だって言うんだ!?俺には何の関係も…」
「犯罪者と呼ばれる人間と直接相対していた俺でも真相なんて分かりゃしなかったんだよ、じゃあお前はどうなんだ?マスコミの発表した情報だけを信用して、死刑囚の中にも冤罪がある中、お前は何をもって晒した彼らを犯罪者だと言い切る?お前が…彼らの何を知ってるっていうんだ!!!!!!」
「だけど有罪っていう判決が出ていれば社会的には…そいつは…」
「犯罪者も裁判官も弁護士も人間だ、間違いだって起こる。だからこそどちらも最低限の人権は保証されなくちゃならねえ、冤罪だった人間は晒されてんのに冤罪を作った裁判官や警察は擁護するのか?おかしいだろ。
それに後がなくなった人間が一番怖いってことも重刑社会の治安が悪いってことで立証されてる。お前がやっていることはただの自己満足の犯罪だ!!それに何で気付かねえ!!!!!!!!」
「……!!!!!!!!」
孝之助の言葉に男は一言も言い返すことが出来ず、悔しそうにその場に崩れ落ちた。
その表情は、自分が間違っていたのかもしれない…と考えたくない事実と葛藤している顔だった。
「…信念を持って死刑を執行したいなら真正面から顔出して社会にそう訴えろ、ただし、執行のボタンを人に委ねるんじゃねえぞ。
重犯罪者も軽犯罪者もそうでないかあやふやな人間をも消し続けて平和になった世界で…たった一人の犯罪者になるんだな。」
「なあ、"せいぎのみかた"さんよ。」
「………!!」
「…行くぞ、お前ら。」
「もういいのか?おっさん。」
「この話に正解も終わりもねえよ、人の考えはそれぞれだからな…ただ俺はどうしても言いたいことを、こいつに言いに来ただけだ。」
そう言うと孝之助はヒナと和泉を連れて喫茶店を後にした。
一人残された男はブルブルと震える手をグッと握ると、その手をテーブルに勢い良く振り下ろした。
「俺のしていることは間違っていたっていうのか…?ハア…ハア…犯罪者なんてこの世から消えた方がイイじゃないか…そうだ…ハア…ハア…あいつだって同じじゃないか…弁護士のくせに犯罪者を死に追いやったんだ………そうだ今度のサイトはあいつを……」
ー…ジャキン…ー
「え?」
「今度のサイトは……カタギの道に戻るつもりのない人間にスポットを当ててみてはいかがですか?命の保証は…致しかねますが。」
「なっ…な…!?」
突如背中に突きつけられた低い声と冷たい金属の感触。その感触は、服越しにも銃口だということがすぐに分かった。
男が恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはスーツを着た男が立っており、シャツの隙間から見える刺青に男は言葉を失った。
「冴嶋組若頭共に冴嶋組をも愚弄したこと…ゆめゆめお忘れになりませんように。」
「………!!」
その後数時間後、孝之助の叱咤が効いてか高虎のクギが効いてかサイトはネット上から消えていた。
ネット上に幅を利かせていた"せいぎのみかた"は、可能な限りの情報を回収し削除し尻拭いをして回るという陳腐なものと成り果てていた。
その様子を後日ヒナから聞いた孝之助は、
"せいぎのみかた"の正義が、今度こそ方向を道徳ある方へ向いてくれることを密かに願ったのだった…。