18.姿なき断罪人
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ー…バサッ
「最近こそこそ作業してると思ったら……あいつ一人でこんな案件受けてたわけね…」
「申し訳ありません…自分のせいです…!!」
次の日の朝、九条が倒れたとの話を聞いた高虎は、責任を感じているようで孝之助に深々と頭を下げた。
「いやいや、高虎くんのせいじゃないよ、ぶっ倒れるまでやってたのはあいつの勝手なんだから。」
「私があんなこと頼んだからです…やっぱり九条さんご本人にお渡しするべきものではなかった…九条さんの仇は私が必ず……!!」
「高虎くん、君がそれ言うとホントに怖いから止めようね?」
いきり立つ高虎をなだめ、吸っていた煙草の火を消すと、孝之助はハアと溜め息をついた。
「あいつも基本的にはいつも冷静なんだけどね…自分に前科があるって負い目がある分、今回はそうもいかなかったんだろうよ。」
「負い目……ですか…。」
「それにあいつは前科の事で散々社会から爪はじきに合ってきてるからなぁ…和泉とヒナには出来ればそういう思いをさせたくない…とか思っちゃったんだろ。」
「……そうでしたか…。」
当時、九条の弁護を担当した孝之助が九条に再会したのは、九条が刑務所を出てから1年程が経った頃だった。
その頃の九条は何度就職しても最後には前科がバレて職場にいられなくなるということが続き、
生きていくためにもう一度詐欺に手を染めようとしていた。
「あいつらの罪を許さないくせにあいつらの更生も阻む社会を俺は許せない。この事案は…その最たるもんだろうよ。誰にでも間違いはある…一発退場ってのはちとひどすぎないかねえ。」
「はい…。」
そう言うと、孝之助はいつもの表情とは打って変わって険しい顔でサイトの資料を握り締めた。
「どう…されるおつもりですか?私にもお手伝い出来る事があれば尽力致します。」
「ありがとよ、そうだねぇ…とりあえず…」
ー…バンッ!!!!
「5分あればそのサイト、抹消できます。」
「5秒あればその管理人落とせるぜ、おっさん。」
「ヒナ…和泉…。」
「若……!!」
『私にも出来ること…手伝わせて下さい…!!』
「佐奈…。」
恐らく応接室の前で聞き耳を立てていたらしく飛び出してきた三人に、孝之助は呆れながらも笑って言った。
「ったく盗み聞きは止めろって何回言っても聞かねえなぁお前らは…。」
「盗み聞きしなくても薄々感づいてたわ!!裏でこそこそしやがって…ったくあいつの常套手段だなコソコソ。」
「若…九条さんは若達の為を思ってお一人で…」
「あのな、こんなんでいちいちショック受けるように見えるかよ、俺らが。」
和泉はそう言うと、孝之助と高虎に頼もしくニッと笑った。
その様子を見て孝之助も笑うと、ヒナと和泉、そして佐奈の肩をポンと叩いた。
「ありがとな…でも、この案件はお前らが首を突っ込むべきじゃない。相手を一方的に押さえつけてもきっと同じことの繰り返しだ。お前らを信用してない訳じゃないが九条の二の舞いになる可能性もある。」
「そんなこと…!!!!」
「自分に罪があるっていう負い目がある以上、九条っちが口で勝てなかったんだ…お前らも同じだ。」
「……!!」
「俺がこの管理人と話をつけてくる。俺はこの管理人に言わなきゃならねえことが山程あるんだ。」
『孝之助さん…?』
ー…パシャ…パシャ…
「どんな不利な裁判でも量刑を最大限に抑えてきた量刑ブレイカーの異名を持つ南在弁護士がまた情状酌量を勝ち取り減刑に成功しました!!」
「いや頼もしいね…南在君にかかれば執行猶予のつかない刑なんてないんじゃないかと思わされるよ!!」
「…無罪を勝ち取ることに執着し被告人の今後を考えないことは違うと思うんです。裁判が長引けば、それだけ被告にも原告にも残された時間は少なくなる。」
「なるほど…次の案件は少年ながら無期懲役、死刑は免れないと言われていますがいかがですか?」
「いつもと変わりません、被告の今後を…第一に考えるのみです。」
「おじさんも僕のこと、信じてくれないんだね。」
「え…?」
「もう、いいよ…ー」
「…。」
正義を持って人を貶める行為のなんて愚かなことか。
正義を持って依頼人の刑を軽くする事だけに躍起になった弁護士。
正義を持って犯罪者達を貶めようと晒す管理人。
どちらも正義なんて持っちゃいない、
目の前の人間なんて、見ちゃいなかったんだ。
正義の味方ほどうさんくさいものはない。
俺は何十年も生きてきて胸のバッジを外すまで、そんなことにさえ気が付かなかったんだ。
だから今一度、俺は俺をへし折りに行く。