18.姿なき断罪人
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それから九条は数日間、誰にも言わずに一人でその事案の解決に奔走していた。
数度に渡る削除要請や九条による働きかけも虚しく、サイトがネット上から消されることはなかった。
そうして数日が経った頃、九条はやむなく管理人の男に直接話をしようと持ちかけた。
だが案の定会うことは拒まれ、代わりに返って来たのはボイスチェンジャーで声を変えた用心深い管理人からの電話だった。
ー…カチャ
「やあ、社会のクズの犯罪者さん。」
「…。」
唐突な男の第一声に九条はあからさまに嫌悪感を募らせ黙り込むと、管理人の男はクククと不敵に笑い返した。
「なんで犯罪者って分かったかって?僕のサイトの削除を求める人間は犯罪者かそれに加担するバカだけだもの。のうのうと会いに行ったりしないよ~バカじゃないの~ふふふふ…。」
「……あなたのやっていることも犯罪です、単刀直入にお話しします。直ちにサイトを閉鎖しないと法的手段に出ますよ。」
「ふふふ…ふふふふ…いいよ、すれば?」
「…?」
「犯罪者を殲滅しようとする"正義の味方"と卑怯で卑劣な"犯罪者"。世間が君達の味方になってくれるとは思えないけど~?」
「……卑怯は……あなたも同じでしょう…!!」
九条はそう返すとグッと歯をくいしばった。
この男が言っていることが正しいのか、自分の言っていることが正しいのか、見失いそうになる。
会話の流れを掴みきれない男に、いつも冷静な九条も思わず苛立ち顔をしかめた。
「とにかく…事前に警告はしましたからね…今後削除要請に応じないようでしたら…」
「あんたがなんなのか知んないけどさぁ…あんたはこのサイトに晒されてる犯罪者達が世の役に立つとでも思ってんの?」
ー…ドクン…
「…!!」
「日本は刑罰が甘すぎてゴミみたいな連中がすぐに野放しになる。だから僕が皆が安心して暮らせるようにこうやって晒してやってるんだよ?何も殺して回ってるわけじゃあないんだ、死ぬことくらいしかこの世に貢献できないお前らと一緒にするなよ、このクズが。」
ー…ド クン…!!
「…ー!!!!!!!!」
ー…ガチャン!!!!!!
「はあ…はあ…っ…。」
男の言葉に思わず電話を切った九条は、熱くなった頭を抱えて俯いた。
いつも冷静に、そして客観的に物事を見れる九条も、自分に負い目がある分どうしても主観的に話を受け止めてしまい、
最近では思い出すことも少なくなっていたあの日々を、否応なしに思い出させられていた。
ー…ギリッ……
「私はもうあの頃とは違う………違う…!!」
"詐欺師、詐欺師詐欺師詐欺師"
その言葉は呪いのようにずっと私にまとわりついて
罪を償おうとも詫びようとも、私の全てを摘み取って行ってしまうのだ。
「……水…」
ぼんやりと焦点の定まらない自分を九条は必死に奮い立たせると、資料室を出てヨロヨロとした足取りで飲み物を取りに向かった。
「……ゴホ…ゴホッ…。」
ー…ドン!!
『あ、すみません九条さん!!……九条さん?』
「ああ…佐奈さんすみません…よく見てなくて…」
『…え…なんか九条さん顔色が……』
ー…ドサッ………
『…え?』
青い顔で佐奈の隣を通りすぎようとした九条だったが、その場で突然電池が切れたようにバタリと倒れこんでしまった。
『ちょ…九条さんすごい熱ですよ!?九条さん、大丈夫ですか?九条さん!?』
「何だどうした!!九条!?」
「九条!!!九………」
薄れゆく意識の中、九条は皆の慌てた声をぼんやりと聞いていた。
グルグルと回る視界とひんやりと冷たい床の感触、それだけが嫌に鮮明に感じられた。
...................
ー…チッ…チッ…
「……?」
いくらか時が経ち目を覚ました九条は、見慣れた自分の部屋を不思議そうに見渡した。
ここが自分の家だということは分かる、だがここまで来た経緯が全く思い出せず、腕についた点滴のあとが九条を更に困惑させた。
『あっ、九条さん!!大丈夫ですか?』
「……佐奈さん?何でここに…?私は一体…。」
『事務所で倒れてそのまま病院に運ばれたんです。過労ですって…処置もひと通り終わって安定していたので家までさっき送って来たところだったんです。』
「…そう…でしたか…面倒をかけました…ありがとうございます。」
『倒れるまで躍起になるなんて…九条さんらしくないですよ…。』
「はは…全くですね…。」
そう言われてみれば体が石のように重い。
だが過労などと自分の体調管理も出来ずに倒れるなど、九条は自分のふがいなさにハアと溜め息をついた。
『孝之助さんから、回復するまで明日から一週間自宅療養をしろとのことです。』
「いや…私は今片付けなくちゃいけない仕事があるのでそういうわけにはいかな…」
『ダメです!!それじゃ私が怒られちゃいます!!九条さんのお世話をするようにと孝之助さんから仰せつかってますから!!なんなりとどうぞ!』
「なんなりとって佐奈さん…ヒナがふてくされますよ?」
『今はそんなことより九条さんの回復を再優先で考えて下さい!!それに一人暮らしの病気の時って心細くて嫌じゃないですか…だから遠慮なく頼ってくださいね!!』
「佐奈さん…。」
あなたは相も変わらず真っ直ぐで優しい笑顔で私を見てくれる。
その瞬間だけは…私も自分の存在の卑しさを忘れることが出来る。
「じゃあお風呂入りたいのでお湯…ためてもらってもいいですか?」
『はいっ!!お安いご用です!!』
そう言ってニコニコと笑う佐奈の笑顔に、
九条は今まで張り詰めていた緊張の糸をゆるめると、嬉しそうに少し、笑った。