17.片思いリバーシ
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ー…カチャ
「…佐奈帰ったか…。」
誰もいなくなりがらんとした事務所。
デスクに置かれた帰宅を知らせる佐奈の書き置きを確認すると、和泉は一人部屋のソファでうなだれた。
「俺は救えねぇアホだな……。」
ヒナの体になって佐奈に好きだと言われて、佐奈と体を重ねてみたいって……単純に思った。
たった一度だけでも…それだけでもいいって。
でもそれは、完全に俺の独りよがりだ。
体がヒナだからって…佐奈が俺を"ヒナ"だと思ってる以上、中身が別人じゃただのレイプと変わらねぇじゃねぇか。
後できっと、全てを知った時に佐奈を傷つける。
俺は、それをしようとしてたんだ……最悪だ。
さっきまで自分の腕の中にいた佐奈の嬉しそうな笑顔。
自分には決して向けられないその笑顔を思い出すと、和泉はグシャグシャと頭をかいた。
好きだなんて、ヒナとして言われたって虚しいだけだって…
何ではなから気づかないかなあ、俺は。
「アホらし……水飲も……。」
和泉はフラフラとヒナの部屋にある冷蔵庫から水を取り出すと、その傍らにあったデスクに見覚えのあるものを見つけ、動きを止めた。
ー…カタ…
「…これ……。」
ヒナの部屋の机のにこっそりと置かれたそれを手に取ると、和泉はあることに気付き呆れたように溜め息をついた。
それはヒナが修理しようと試みたのであろういびつに直された佐奈の昨日の木箱。
そして木箱を持って初めて気付いた、自分の手についていた細かい沢山の傷だった。
「…あの野郎…バカじゃねえの…慣れないことするからだろ…。」
ボロボロの木片をどうにかくっつけようとしたが上手く行かず、先の見えなさそうな修理はまだ途中のようで、
元々パソコンの技術しか持ちあわせていないヒナに、これを修理しきるのは旗から見ても無理そうだとすぐに見て取れた。
和泉はおもむろにそれを手に取ると、引き出しからカッターナイフを取り出し箱の表面を削り始めた。
ー…ガリッ…ガリッガリッ…
"ヒナさん、優しいですよ?"
「………。」
ー…ガリッ…ガリッ…
"言葉は相変わらずですけど……そうじゃないですか?"
ー…ガリッ……
「………そうなんだな。」
きっとこんな事にならなけりゃ、一生気付かなかった。
こんな災難も、意味があったって事になるのかな。
誰もいない薄暗くなった事務所に木を削る音だけがこだまする。
和泉は佐奈の言葉をぐるぐると思い返しながら一心に作業を進めた。
そうして一時間ほど経ってその音が止んだ頃、
和泉の目の前には鬼の形相をした自分自身が立っていたのだった…。