16.凸凹バイリンガル
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ー…ダダダダダ…
『ジャンさん…お…下ろしてくださいっ…!!対象に見つかっちゃいます!』
「アレ、ノリマショウ!!」
『へ…?』
佐奈を抱き抱えたまま人混みを失踪したジャンは、観覧車の前で佐奈を下ろした。
『あの…一応私は仕事中ですのでそういう訳には……!!』
「Je m’en fous!!Suivez silencieusement!!」
『え…?』
ジャンは日本語を使う余裕もないようで、早口のフランス語で言葉を返しその勢いのまま佐奈の手を引いた。
ジャンが何を言っているのかは分からなかったが、自棄になっている事だけは佐奈にも分かりその手をほどこうとした、その時だった。
ー…ズイッ
「?!」
『え…えっ?!?』
突如現れたテーマパークのキャラクターは、もみ合う二人に半ば強引にカラフルな風船を差し出した。
戸惑いながら二人が風船を受け取ると、妙に大きなウサギはその一瞬に佐奈の手を引きジャンの元から走り去った。
「待てコラうさぎぃぃ!!!!!!!!!!!!!」
『えっ!えええっ!?????』
「ワン!!ワンワン!!」
ほとんど状況が飲み込めぬままウサギに手を引かれた佐奈の目に次に飛び込んできたのは、
全速力で自分の方に走ってくる犬のキャラクターと、それと同じペイントが施されているのであろう、ドット柄の本物の犬だった。
「なんなんだよお前は!!付いてくんじゃねぇ!!!!!!!シッシッ!!!!」
「ワンワン!!ワン!!」
『何!?何なの?!!!!!!というか…今の声って…!?』
佐奈を連れて逃げる巨大なウサギと本物の犬にまとわりつかれながらウサギを追いかける犬。
その光景は平日の人のまばらな遊園地でひときわ異様であったが、通行人たちはみなテーマパークのショーの一環なのだろうと静観していた。
ウサギは追いかけてくる犬の一瞬の隙を突くと、隠し持っていたドッグフードを犬の着ぐるみの中に突っ込んだ。
「なっ…待ちやがれヒナ!!」
「ワン!!ワンワンワン!!!!」
「コラ俺ごと食うな犬!!!!!」
そうして犬の猛攻をなんとか振り切ったウサギは、佐奈の手を引いたまま無人の観覧車のゴンドラに飛び乗った。
ー…ゼェ…ゼェ……ハァ…ハァ…
『………あの……ウサギさん……。』
「…。」
『…いや…………ヒナさん…ですよね?』
「違います。」
『いや…声ヒナさんですし…違うなら違うで怖いんですけど…。』
腕と足を組みふてくされたようなウサギを前に、佐奈は少し嬉しそうに笑った。
『心配して来てくれたんですか?』
「………。」
『大丈夫ですよ、証拠も撮れましたしもう帰るだけだったし!!さっきは…ちょっとどうしようかと思ってましたけど…』
「………キス…されてたから。」
『あれは…!!海外の人の挨拶のような感じですよ…』
「…それでもやだ。」
『…ヒナさん…』
自分にヤキモチを焼いてくれて子供のように駄々をこねるヒナ。
そんなヒナが可愛くてたまらなくなった佐奈はどうしても顔を見たくなり、ヒナのウサギの着ぐるみの顔をもぎ取った。
ー…ズボッ
「……。」
『…ヒナさん、その顔写メ撮っていいですか?』
「…嫌だ。」
『私、ヒナさんが一番、いっちばん好きですよ?』
「…うん。」
『じゃあ一枚だけ撮らせ…』
「無理。」
ヒナはウサギの顔を佐奈から奪い取ると、照れた顔を隠すようにもう一度被ってそっぽを向いた。
写真を撮らせてくれなかったことを残念がりながらも、ヒナの気持ちが嬉しかった佐奈は幸せそうにもこもこのウサギに寄り掛かった。
『今度は着ぐるみでも調査でもなく…普通に来ましょうね?』
「…うん。」
『でも何で着ぐるみなんですか?』
「………。」
夕暮れの観覧車で二人が幸せな時間を満喫しているその瞬間
観覧車の下では犬にじゃれつかれまくって頭にきた和泉が着ぐるみを脱ぎ捨て子ども達の絶叫を招き、
その騒ぎに集まったジャンと対象カップルが鉢合わせをし修羅場と化していることなど
今の二人は知る由もなかったのだった…。