16.凸凹バイリンガル
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「だあああああああああいつらあああああ!!!!!」
人のいないがらんとした事務所に響き渡った孝之助の叫び声の先には、堂々と置かれた二枚の有給休暇届けが提出されていた。
その声に驚いた出勤したばかりの九条は、呆れたように休暇届を手に取った。
「おや…二人共仕事サボって遊園地ですか…ヒナはともかく和泉なんて不毛なだけでしょうに…懲りませんねぇ。」
「あいつらのデスクに貯まってた書類腐るほど積み上げてやって~…ったく…。」
孝之助はそう言って諦めたようにドカッと椅子に腰を下ろすと、佐奈のデスクに視線を向けた。
「ここまであいつらに愛されるとはねえ…雇った時はうまく打ち解けてくれればいいくらいに思ってたけど…たいしたもんだよ。」
「そうですねえ…私も佐奈さんの事好きですよ、あと10歳若ければ有給届け出していたかもしれません。」
「俺も好きだよ…とか言ったら俺はお縄になるのかね?」
「そうですね、孝之助さんはもう初老に足突っ込んでますからねえ。」
「九条っち嫌い…。」
「でもまあ……きっと面白いことになりますよ♪依頼人の邪魔をしても大丈夫なように手はうってありますから。」
「?」
....................
ー…ガヤガヤ…
「佐奈!!」
『ジャンさん!!こっちです!!』
辺り一面笑い声と楽しそうな雰囲気で溢れた遊園地の昼下がり。
佐奈とジャンは客の群衆に紛れながら、ターゲットに見つからないよう最細の注意を払っていた。
『…彼女さん…ですよね…?』
「…オリビア…」
『一応証拠は写真に収めておきますね…?』
「ハイ……。」
フランス語の会話本を必死にフル活用しながらジャンと話をする佐奈は、待ち合わせで相手を待っているらしいターゲットに目を向けた。
自分の目で確認したいとは言えども、やはり他の男性を待っているであろう彼女を見たジャンの顔は浮かないものだった。
「オリビア!!Kept you waiting(お待たせ)!!!」
「…ユウスケ!!」
待ち合わせに現れたのは、線の細い日本人と思われる優男。
流暢な英語でアメリカ人の彼女と楽しそうに会話を楽しむと、二人はお互いの手を握り遊園地のゲートをくぐって中へ入って行った。
『ジャンさん…』
「…ダイジョウブ、イキマショウ。」
『はい…。』
ジャンの辛そうな顔に胸が締め付けられた佐奈だったが、仕事だと自分に言い聞かせ浮気の証拠にカメラのシャッターを切り続けた。
そして二人の後を追い、ジャンと二人で遊園地の中へと足を踏み入れたのだった…。
ー…ガヤガヤ…
「…。」
「…。」
「わんわん~風船ちょうだい~!!」
「うさちゃんおっきい~ふわふわ~!!」
「………。」
ー…ピー…チチチ…
ー…パシャ…パシャ…
「ナンダカツカレマシタ…。」
『ジャンさん…あ、少し休んでいてもいいですよ?私だけで後を追いますので後で電話を頂ければ…』
遊園地内のアトラクションを周り昼食を食べた二人ははたから見ると間違いなく恋人同士だった。
そんな二人を見続け心が折れた様子のジャンを佐奈が気遣うと、ジャンは少し悲しそうに笑って首を静かに横に振った。
「モウ、アキラメル。」
『え…?』
「オリビアトハワカレマス、アリガトウゴザイマシタ…」
『ジャンさん、そんなに簡単に諦めちゃいけませんよ!!何か理由があるかもしれませんし…好きだから…信じたいって思ったからここまで来たんでしょう?それなら…!!』
「……?」
思わず熱がこもってしまった佐奈は、相手がフランス人だということも忘れて日本語でまくしたててしまった。
少し驚いた様子のジャンの顔を見て佐奈は我に返ると、すみませんと口を濁した。
「ワタシノコトヲ、シンパイ…デスカ?」
『…え?あ、それは…はい…もちろん…』
「佐奈ヤサシイ、アリガトウ…」
『へ…?』
佐奈がジャンの笑顔に一瞬気を取られたその瞬間、ジャンは佐奈を引き寄せ頬にキスを落とした。
『ジ…ジャンさん…!?』
「セッカクデス、アソビマショウ!!」
『えええ!?だってあの…依頼が…!!あの…ジャンさんちょ…下ろして下さいぃぃぃ!!』
「「……!!!!!!???」」
「うさちゃん~風船飛んでっちゃったよ~?」
佐奈を抱きかかえたジャンが遊園地の人混みに姿を消したその数メートル後方、
妙に大きなうさぎと緑ドットの犬の二体の着ぐるみは、呆気に取られる子ども達の視線をよそに全力で走り出した。
ー…ダダダダダ
「…てめえヒナだろ。」
「……。(無視)」
「おいコラ無視してんじゃねぇぞ不自然にデカイうさぎ!!!!」