最終話 ブリキの歴史覚帳
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ー…コツ…コツコツ……
「………ここか。」
タイムレーンが停止したちょうどその頃、御幸は一人木野に言われた政府のタイムレーン機関に潜入していた。
木野の言った通り政府は独自にタイムレーンの小規模機関を所持しており、タイムレーン本体を止めたと言ってもいまだ水面下では予断を許さない状況は続いていたのだ。
(もし…タイムレーン停止より前に寿博士を呼び出されていたらすべてが詰む……これ以上隠れて進むことも出来んなら正面突破しかないな…時間もない。)
ー…ズキ……
「………。」
ガンウェアはあと僅かの電源を残しているものの、大きくえぐれた腕からは今も激痛が走っている。
相手は国の最重要人物、公にはされていない施設とはいえこの扉の向こうには大勢の拳銃を持ったSPが待ち構えていることが容易に想像できた。
(両腕使えてたとしても微妙なとこだな…これが最期だ……保ってくれよ。)
(………空、見守っててくれ。)
ー…バンッ………!!!!!!!!
御幸はそう心の中で呟き天を仰ぐと、痛む手にガンウェアの青い光を灯し一気に部屋に飛び込んだ。
一斉に降りかかる銃弾を弾くためガンウェアで作った刀を大きく振りかぶった御幸だったが思ったような手応えはなく、その真っ暗な部屋に広がっていた光景に思わず息を呑んだ。
「なっ……!!?」
「…………あ…あ…。」
「なんだ………これは………!?」
御幸がガンウェアを収めると、そこには数名の人間がだらりと倒れていたりうずくまっていたりと異様な光景が広がっていた。
そこには御幸の懸念していた寿博士の姿はなく、代わりにSPと思われる突っ伏した男達や正気を失ったようにぶつぶつと何かを呟く総理の姿があった。
「総理……!?」
「……あ……あれは…あああれれ…あああ……あれあ…」
「………まさか……これ…タイムレーンの後遺症……?」
机に置かれた走り書きのメモから、側近やSP達が寿博士を連れ戻る為タイムレーンに乗り奔走、その後しびれを切らした総理本人もタイムレーンに乗ったことが見て取れた。
だが全盛期の寿博士を呼び戻そうとしたならば行き先は15年前程、時代があまりにも近すぎた。
総理の周囲の人間は近すぎる時代へのタイムリープの後遺症で皆性格が変わるどころか自我を失っており、命に別状はないようだったが既に正常な判断は出来ない状態になっていた。
「すぐに救急車を呼ぶ。金なんかの為に………何やってんだよ……。」
御幸はそう呟くように言うと、ガンウェアの出力を上げ最後の一振りで部屋にあったタイムレーンの装置を破壊した。
そうして御幸の呼んだ救急車に運ばれていった総理らの様態はすぐに報道され、
皮肉にもタイムレーンを安全だと謳っていた人間が
その身をもって危険性を世に知らしめることとなったのであった……。
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ー…パタン…
「瀬名さんから連絡あった?」
「うん、大丈夫みたい。それにしてもまさかこんなに軽い処分になるとはねえ…獄中生活覚悟してた身としては拍子抜けしたわ。これのおかげも大いにあるんでしょうねえ…。」
そう言うと栞奈は大勢のデモを起こす人々を映し出したテレビに目を向けた。
タイムレーンが止まったあの日から数週間、
総理がタイムレーンで精神崩壊した事実を受け、キーパー達らの反乱騒動は異国のアンドロイド討伐の件も手伝い一気に世論に後押しされる流れとなった。
政府はタイムレーンの利益を優先し危険性を詳しく公表しないまま運用していたとして総辞職に追い込まれ、新しく決まった総理がキーパー達を支持したため数日の謹慎と破壊した建物の賠償等のみの処分となったのだ。
「ま…裏で瀬名さんが怪しい会食に参加してたのは見なかったことにしておくわ…。」
「あの人どれだけ政財界にツテあるんですか…。」
「今は戦国時代じゃないんだから、八雲くんみたいな脳筋よりは遥かに有利よねえ……タイムレーンとお金はなくなったけど、こうして仕事も残してくれたわけだしまあ感謝しないとね。」
栞奈はそう言うと、目の前に積み上がった書類に目を向け苦笑いを浮かべた。
キーパーらは謹慎後ありあまっていた貯金で賠償金を支払い終えると、殆どの者は瀬名の作ったタイムレーン本部の後続機関ともいえる歴史研究機関で働くこととなった。
今まで集めた歴史文献やキーパーらの知識、現場をその身で体験してきた経験はタイムレーンなき今貴重となっており、それを後世に伝える為の資料作りや文献整理が主な仕事だった。
「栞奈は別にいいじゃんお金無くなっても、社長夫人のくせに。」
「はあ?社長夫人ってなによ。まさか瀬名さんのこと!?馬鹿じゃないの?」
「瀬名さんのこと規律違反するくらい好きだったくせに。」
「………あんたねえ……。」
いじけて唇を尖らせる虎目に栞奈はハアとため息をつくと、スマホを取り出し虎目の眼前に突きつけた。
そこに写っている仲睦まじい家族の写真に、虎目は怪訝な表情で首を傾げた。
「………不倫の証拠写真?」
「あんたホント馬鹿でしょ、瀬名さんの家族写真よ!!!!瀬名さん結婚してるし子供もいるから。」
「じゃあ栞奈が愛人……」
「あんたいい加減にしないと殴るわよ。」
栞奈はそう言うと呆れたようにスマホを机に置いた。
どうやら瀬名と栞奈の関係が自分が思ったようなものではなかったらしいということに、虎目は驚いたように目を丸くした。
「だから私は社長夫人でもないしただの婚期逃して貯金も尽きた平社員ってこと。」
「じゃあ俺にも可能性ある?」
「知らないわよ!!んなこと私に聞かないでよ!!!!!!」
「え…栞奈以外誰に聞けば…じゃあみんなに聞いてこよ…」
「ちょちょちょーーーーーっと待った!!!!!!!!!!!!」
みなに聞きに行こうとする虎目の腕を慌てて掴んだ栞奈を、虎目は表情を変えることなく見下ろした。
「俺諦めないから。」
「……執着の薄い新型アンドロイドのくせに。」
「執着したいほど人を好きになる可能性が無いとはいってないんだけど。」
「んなっ……!!!!」
「………。」
ー…バンッ……!!!!!!!!
「く……くだらないこと言ってないで早く蛍の見舞いに行ってきなさいよね!!!!!!!!行くんでしょ!!!!!?」
「えー…今のはキスする流れじゃ…なんて情緒のない嘆かわしい……。」
「はあああ????アンドロイドに情緒だ何だ言われたくないわよ!!!!早く行きなさーーーーーーい!!!!!!!!!!」