第三十二話 偽の結末を
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ー…ザッ………
「信……繁……?な……」
「なああああああああーーーーー!!!!!!!!!!」
「!?」
突如二人の前に現れた笑顔を見せた信繁、
あっという間に消えゆく幻かと思われたその存在の上げた大声に、晴信は驚き目を丸くした。
「あああ兄上っ…そのお怪我は!!それにその御髪は……だだだ誰にやられたんっすか!!!!」
「は?か…髪!?いや私の髪などどうでもよい!!なぜお前が…ほ…本物の信繁…なのか……?」
「私に影武者などおりません!!兄上もご存知でございましょう!!それよりも早く怪我の手当をしないと…!!」
そう言って晴信を見上げ心配そうな顔を浮かべる信繁に、晴信とこまは困惑した表情を浮かべた。
触っても触れられる…幽霊などではない、
何より懐かしいその匂いと気配は信繁本人であることを自分自身が一番感じ取っていた。
だが二人の理解が追いつくよりも先に目の前に広がったのは、更に信じられない光景だった。
ー…バタバタバタ……
「信繁!!一人で先走るんじゃねーよ!!!」
「御屋形様!!ご無事ですか!?」
「急に景色が変わったと思ったら随分変わった鎧の敵兵だな…というかこれは…からくり?」
「それに晴信…その格好は……。」
「源四郎に勘助、幸綱に……虎昌まで……!!」
「晴信さん……これって…まさか……。」
「……そうか……。」
ー…ガンッツ……!!!!
「我が兵を…食い物にしようというのか……!!!!」
そう言うと晴信はギリと唇を噛み締め、その顔には隠しきれない怒りが滲んでいた。
恐らくこれは政府の何者かが戦いの助力として強制的に呼び寄せた、過去の武田軍。
そのことが分かった瞬間、久方ぶりに懐かしい仲間に再開できた喜びは一気に複雑なものへと変わっていった。
(しかし板垣と甘利はいない…だが信繁や勘助がいるとなるとだいたい呼ばれたであろう時期は分かる…そして私自身がいないのを見ると、同じ時代に同じ人間は存在できないということか…?)
「晴信様!!伏せて下さい!!!!」
「!!」
ー…ガシャアアアアン!!!!!!
「お…お前達私より前に出るな!!お前達が戦う必要はない!!」
「兄上何を言ってるんっすか早く後ろに!!!と…というかなんかどんどん来てるんっすけど!!!!!!」
「!!!!」
「晴信さん!!!!!!」
晴信が皆を止めようとするも押し寄せるアンドロイドの勢いは止まらず、あちこちで訳を話す間もないまま戦いが始まってしまっていた。
だが望まぬ形とはいえこれで形勢は逆転し窮地を脱したのも確か、これならば御幸を救い一時撤退の手も打てるように思われた。
「こま、八雲…非常に腹ただしいが我が兵はこのような木偶人形にやられるようなタマではない。私が指揮を執るゆえ一時ここは我らに任せ腕の処置を。」
「晴信ちょっと待て……これ…武田軍だけじゃ……ないぞ。」
「何……!?」
ー…ワアアア……
「おお東間!!なにやら面白いことがおこっておるようじゃのう!!あの珍妙な敵兵はどこの者だ!!欲しい!!!!」
「のっ……信長様……!?」
「うおああああああ!?か…栞奈!?こりゃあ一体どういうことや!!なんや青う光ったと思ったら…」
「藤吉郎!?な…なんであんたがここにいるのよ…!?」
「謙信様……これは……一体何が起こったのでありましょうか…。」
「ここは……まさか…。」
御幸に促され砂埃のはれ始めた周囲を見渡すと、そこには明らかに武田のものではない軍旗が色とりどりに立ち上っていた。
ざっと見ただけでも上がっている旗は武田、織田、豊臣、そして上杉。
時代も土地もバラバラな軍が一同に会している様子を見て、晴信の推察は確信に変わった。
「晴信!!!!」
「蛍…これはタイムレーンで呼び寄せられた…という認識でいいのか。」
「ああ…木野さんから異変はないって連絡あったし恐らく政府関連の人間が別ルートからやったんやろ…くそっ…最悪なことしてくれたわ…!!一時撤退で組み直さな。」
「壁、今なら敵との間に作れそうです。作りますか?」
「こまちゃん、僕も手え貸すわ。一気に行くよ!!」
「ありがとうございます!では皆さんにこれ以上前に出ないよう伝えて下さい!!!!」
こまはそう言うと、ガンウェアの最大出力で敵アンドロイドたちを囲むように大きな壁を張った。
そうしてこまに蛍がガンウェアで手を貸すと壁はこまの手を離れてもその形を留め、青い壁の向こうで身動きがとれなくなったアンドロイドがドンドンと壁を叩いた。
「ハア…ハア…ありがとうございます蛍さん…あ…あんまり長いことは保たないかもしれないですけど…ちょっとは時間稼ぎできると思います…!!」
「こまちゃん上出来や!そんで…このまんまなんの説明もせんってのももう無理やろ?撤退してもらうにしても手伝ってもらうにしても…。」
「兄上……?」
「御屋形様…これは一体…。」
「……ああ、そうだな。」
蛍の言葉に晴信は後ろを振り向くと、突如見慣れぬ場所で見慣れぬ敵と戦う状態になり困惑した表情を浮かべる皆の姿があった。
一体何と説明したものかと思いながらもこのまま放置することなど到底出来ず時間もない、晴信はハアと大きく息を吐いた。
「分かった……私が話そう。東間殿や鳴門殿達には"皆が私を武田信玄本人だと勘違いしているゆえ、それを利用し話す"とそう伝えてくれ。火急の事ゆえ深くは聞かれまい。」
「…分かりました。」
「あとは…上杉か…上杉にはキーパーがおらぬのだったな。」
「あの…晴信さん……ここは私に任せてはもらえませんか?」
「こま…?」
「以前美波さんのことで越後に行った時に話したことがあります。きっと美波さんのことを話せば…取り合ってくれるかと…。」
「では……頼まれてくれるか。」
「はい。」
ー…ザク…ザク…
「お久しぶりです、上杉…謙信さん。」
「あなたは信玄の……そうか…やはりそういうことでしたか。」
「…お話があります。」
「分かりました。大方予想はついていますが……伺いましょう。」
相変わらず察しと飲み込みが異様に早い謙信は、こまの言葉にフッと笑みを浮かべ頷いた。
そうして急遽始まったのは、国も時も世代も超えた軍事会議だった。
集まるは歴史に名を残す錚々たる顔ぶれ、
武田、上杉、織田、そしてそれに追従する豊臣こと木下藤吉郎。
昨日は敵味方だと戦っていた兵が果たして協力などしてくれるのか、
互いが不審の目を向け時間の限られる中、晴信はその中心で静かに口を開いたのだった…。