第三十話 試される人間力
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ー…ザザザザザー……
「えーこちら現在南区の発電所、アンドロイドに破壊された現場から中継致しております。」
「これは……現場はひどい状態ですね…。」
「はい、現在破壊が確認されている発電所がここで三箇所目となります。幸い怪我人は出ていませんが先日キーパーアンドロイドが逃走、それに呼応するように各地でもこうした破壊行動が頻発しております。」
「人的被害がないとはいえこれは…動機は未だ分かっていない状況ですよね?」
「はい、彼らアンドロイドがついに我々人間に牙を向いたということでしょうか…現在警察が中心となり対象アンドロイドの…」
ー……ブツン……
「ったく…仕事もしねえでくだらねえテレビばっか見てんじゃねえぞ。」
「み……御幸さん……。」
「ま……と言ってもする仕事もねえか。」
御幸はそう言うと、消したテレビのリモコンをポイと投げ捨てた。
蛍らキーパーアンドロイドが社員旅行の最中逃走してはや一週間、
キーパー達は一旦全ての業務を停止させられ、聞こえてくる物騒なニュースを聞きながら次の指示を待つだけという待機状態が続いていた。
「これからどう…なるんですかね…。」
「さあな…上はキーパーアンドロイドが扇動したって言う責任問題の火消しに手一杯だ。タイムレーンには当分乗れないだろうな。」
「蛍らが本当に扇動しておるのかは分からぬではないか。」
「分からなくとも警察から逃げたって事とガンウェアの無断使用は事実だ。これだけでも十分問題だ…。」
「……。」
世間では先の七夕の戦いで多数のアンドロイドが人間に不審を抱き、戦闘能力が高いと言われる蛍らキーパーアンドロイドが扇動し人間に反旗を翻したと囁かれている。
事実毎日あちこちで建物の破壊活動が行われておりニュースはこぞって彼らを報道し、蛍らキーパーアンドロイドの私物は警察によって全て没収されていった。
だがこまにはそれがどこか別の人のように思われて、つい先日まで隣で微笑んでいた蛍の行動とはどうしても結びつかなかったのだ。
「こま……大丈夫か。」
「は…はい……大丈夫ですよ…。」
「……。」
”タイムレーンの歴史変更の引き金となっとるんは間違いなくタイムレーンで調査をしよるキーパー達や。こんなこと話して…こまちゃん達にそんな十字架背負わせたくない”
”今この瞬間にすらまた誰かが消えるかもしれん。この覚帳にこまちゃんの名前を書くことにだけは…絶対にさせん”
「晴信…さん…?」
「ああいや……こま、蛍のこと…私は信じているぞ。あれは、そのような事をする男ではない。」
「……はい、私もそう思います…。」
こまの頷く姿を見ながら、晴信は小さく微笑んだ。
そうは言っても心の中は不安と疑問でいっぱいだろう、直前に話を聞いた自分でさえまだ何が起こっているのか全てを飲み込めていない。
本当に事実を隠したままの方がいいのか?
私ならば全てを知った上で自ら判断し行動したいと思う、だがそれを…皆が望み、受け入れられるのか。
少なくとも蛍はそれを望んでいない。
晴信が事実を伝えられず口をつぐんでいる間にも状況は好転せず、むしろ刻一刻と悪くなっているようにも思われた。
ー…ガチャ…
「お疲れ~こまちゃん。」
「栞奈さん!」
静まり返る部屋に顔をのぞかせたのは、こちらも待機時間を持て余していた栞奈だった。
そんな栞奈もまたパートナーがいなくなってしまった一人で、平静を装ってはいるがその声色は浮かないものだった。
「暇だからみんなの部屋回ってたんだけどどっこも辛気臭いのよね…。」
「みなさん…どうですか…?」
「そうね…あのメンタルおばけの榎田も珍しくしょげてるしね…東間くんに至っては一言も発しないわ。なんだかんだ言って雲母に依存してたからねえ…ダメージでかいでしょ。」
「そうですか…。」
いなくなったアンドロイドは蛍だけではない、自分以上にキーパーと二人で行動をともにしていたであろう榎田と東間二人のショックはこまにも想像に難くなかった。
「それに外も報道陣ばっか、朝も入ってくるのに苦労したわ。あーだこーだ聞かれてさあ。」
「はい…私もずいぶん早くに出勤してみましたけど…囲まれました。」
「口止めされてるからまあ答えらんないしさ~だいたい聞きたいのはこっちの方だっていうのよねえ…虎目ってあんなキャラだったっけ?あんな行動力があんなら仕事の時に発揮しろっつ-のよねえ。」
「……栞奈さん。」
「いやー…まああんま考えないようにしててもさ、あの無気力アンドロイドが離れていったなんて。よっぽど私のそばが嫌だったんだろうなあとかって…ちょっと考えちゃうわよね。」
「そ…そんな事ありませんよ…!!きっと…何か事情が…」
「そのとおりだ。栞奈殿、虎目殿は人がとても好きなのだと温泉で私に教えてくれた。私にそんな嘘を付いてもなんの利点も無いであろう…信じてやってくれ。」
「そう、虎目がそんなことを……はは…そういえばあいつ…機械のくせに温泉好きだったわねー…。」
栞奈はそう言うと、少し悲しそうな笑顔を浮かべた。
思い返せば思い返すほど分からなくなる。あの日々は、あの言葉は本当だったのか嘘だったのか。
今もまだ、信じ続けていいのか。
「…ってごめんごめん!!私も人のこと言えないわ辛気臭いことになっちゃったね!!この話はもうやめよ!!働かなきゃね!!」
「まあ仕事は無いがな。」
「八雲くーん、今それ言う~?」
「ははは…」
ー…ピピピピ……
「緊急招集、緊急招集、キーパーは第一会議室に集合セヨ…繰り返ス…」
「「!!!!」」
「き……緊急招集……!?」
「ついに方針が決まったってことかしらねえ…まったくいつもいつも後手後手の対応だこと。」
「……。」
「とにかく行くぞ、急いで準備しろ。」
そう御幸がつぶやくと、こまらは浮かない顔でガンウェアを装着し上着に手をかけた。
一体これから何が起こるのだろう。その手は小さく震えていた。
”大丈夫、何も心配せんでいいけんね。こまちゃんは僕が守るけん”
「………。」
いつも不安な顔を浮かべるたびにそう言って笑ってくれた人は今はいない。
こまはひたすら浮かび続けるろくでもない想像を振り払うように首を振ると、会議室の扉を開いたのだった。