第二十九話 ちがう生き物
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ー…ザッ……
「………話せ。」
「……なんのことやら。」
「「・・・・・・。」」
あとむが晴信の目の前から忽然と消えて数日、晴信の困惑をよそに日常は至って平凡に過ぎていた。
今も唯一違和感があるのは蛍のみ、あの日から事あるごとに蛍を問い詰めてみるも蛍はのらりくらりと言葉を濁すばかり。
そうしてついには今日の社員旅行の朝を迎えていたのだった。
「おーい晴信さん蛍さん、準備できました~?」
「あ!!こまちゃんおっはよ~~~!!出来た出来たあ!!社員旅行楽しみやねえ今いくけ待っとって~~~!!」
「おい蛍待て話は終わっておらん待たぬか!!!!!!!」
「晴信さん大丈夫ですか…?なんか…怒ってます?」
「え…?ああいや…怒ってはおらぬ、大丈夫だ。」
「本当に大丈夫ですか…?」
「ああ。」
「………。」
晴信の言葉にこまは少し困ったように眉を下げた。
最近どこか上の空であったり眉にシワを寄せてばかり、そんな晴信をこまは心配していたのだが返ってくる言葉はいつも同じだった。
「それはそうと……旅行、楽しみですね!!すごく景色のいい温泉だって言ってましたよ!!」
「温泉か…そうか、それは楽しみだな。」
「あの…晴信さん…ホテルの部屋なんですが……実はですね栞奈さんが提案しくれてあの……」
「………。」
「晴信さ………」
「おーい早くバス乗って下さい~出発しますよ~!!」
「ああ、今行く。行こうかこま。」
「あ…は…はい……。」
普段激務続きのキーパー達の疲れを癒やしてもらおうと計画された一泊二日の温泉旅行。
高級旅館で出される料理と景色の最高な温泉に胸を弾ませていたこまは、少し顔をうつむけながらも慌ててバスに乗り込んでいった。
ー…ブロロロロ……
「うえーい!はーいこれカラオケ歌う人~~~!!え?何東間君歌いたいって?東間響歌いまーす!!」
「……栞奈さん酔っ払うのが早すぎます。御幸くんが歌うそうなのでマイクを回しておきますね。」
「ぐうう………スピー…」
すでに出来上がったみなを乗せたバスが向かう目的地までは二時間ほど、
この旅行での幹事である木野と蛍はホテルでの部屋割表を配りながら、蛍は座席最後部で早々に眠りについていた御幸を見て呆れたようにため息をついた。
「きのこさんホントごめんね、書類作るの任せっきりにしてしまって…御幸は寝とるしまったく…」
「いいのいいの、みんな僕と違って激務なんだから!でもごめん、僕なんか勘違いしてたみたいで晴信さん部屋一人になってるんだよね~はいこれ。」
「ああ、それは全く構わぬが…。」
「ホントごめんね。でもおっかしいなあ……なんか晴信さんが教育係になった新人の子がいなかったっけ?その子と一緒にしてたんだけどにも名前ないんだよね…あの子もう辞めちゃった?」
「!!きのこ殿…それは……!!」
「木野ね!!武田さんまで!でもホント確認したんだけどな~…。」
木野はそう言うと、不思議そうに何度も名簿と部屋割を見比べた。
恐らくそれはあとむのことだろう、木野にはどうやら皆と違いその記憶があるらしく晴信が尋ねようとすると、それを遮るように蛍があははと笑い声を上げた。
「全く木野さんおっちょこちょいやわあ~でも一人部屋ならそれで全然いいし何も問題ないんやないですか?」
「あはは…昔っからホントこんなんばっかで成長してないなあ僕…嫌になるよ。」
「……?」
(木野殿と私だけがあとむのことを覚えている…?)
(それに蛍はやはり事実を伏せようとして…何故だ?)
蛍の行動から蛍が何かを隠そうとしていることは明らかだ、だがそれがなんなのか、何故なのかが分からない。
そして木野が自分と同じく記憶が残っている理由の共通項が全く見えてこない。
再び分からないことだけが増え、晴信は再び眉間のシワを濃くして考え込んだ。
「あの…晴信さんこれ、お菓子食べます?」
「………え?あ、ああいや、大丈夫だ。すまぬな。」
「……晴信さー……」
ー…キキイイッ……!!!!!!!!
「「わあああっ!!!!」」
その瞬間、バスが急停車しバスの中は悲鳴で埋め尽くされた。
一体何事かと皆が窓の外を覗き込むと、そこには複数の警官とそれに捕らえられている男
の姿がバスの前を横切っていた。
「も…申し訳ございません!!みなさまお怪我はございませんか!?」
「あ…わ…私達は全然大丈夫です!!それよりあれは……」
「もしかしてあれって最近よくニュースになってる暴動!?」
「ああ…あのBW破壊事件からよく問題になってるあれですか…。」
「ああ…確かにそうみたいやね。アンドロイドや。」
「え…アンドロイド!?」
蛍のつぶやいたような言葉にこまが驚き目を凝らすと、確かにそこで捕まり乱雑に連れて行かれていたのはアンドロイドだった。
明らかに人間の逮捕よりも乱暴で目を覆いたくなるようなその扱いにこまが声を上げようとすると、それを蛍の手が静止した。
「なんで止めるんですか…あんな扱いいくらなんでもひどいです…!!」
「最近頻発しとるアンドロイドの反発、暴動事件、それが引き金。きっとあれもその騒動の一部、人間とちがうという事を受け入れんで分不相応な事を考えたアンドロイドが悪いんや。」
「そんな……」
「やけんこまちゃんが同情なんてせんでいいんよ。人とアンドロイドは、”ちがう”んやけん。」
「………。」
それはこまを思いやっているようで、破れない壁を作っているような言葉。
いつも蛍は自分を違うとか家電だとか線を引く、人とどこも変わらない蛍の口から出るその言葉は、いつもこまの胸を締め付けた。
「そ…それではまた出発しますので、座って下さい。」
「あ…は…はいすみません……。」
「でも最近ああいう暴動のニュースも多いけど…それと同じくらい警察のアンドロイドの扱いも目に余るものがあるわよね。見てて気分のいいものじゃないことは確かよね…。」
「……はい。」
そうつぶやいた栞奈の言葉にこまも小さく頷き、バスの車窓から通り過ぎるアンドロイド達の姿に目を伏せることしか出来なかった。
だからその時、蛍の手に握られた拳が小さく震えていることにこまが気付くことはなかった。
「……。」
楽しい楽しい一泊二日の社員旅行。
それぞれのやりきれない思いを胸に揺らし、バスは最初の目的地を目指したのであった…。