第二十四話 燃える攘夷と公使館
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ー…バタン……
「あ~~~~くっそー…こってり絞られた。」
上海から戻り藩主に報告を終えた晋作は、不服そうな顔を浮かべ頭をかいた。
というのも上海から戻り宣言通りオランダ商人と勝手に結んだ蒸気船購入の計画を、藩からは対応できないとあっさり破棄されたからだった。
「当たり前であろう…あれほど言ったではないか…。」
晋作を最後まで説得していた晴信はぐったりしながらそう言った。
だが当主であった頃は考えもしなかった人に振り回されている珍しい晴信の姿に、こまは隣で思わず笑みを浮かべていた。
「ったく…先を見据えれば無理しても買う意味があるというに…それに俺が上海に行っとる間にまた長州は方針を変えとる…困ったもんじゃ…。」
「……。」
この頃、諸藩は異国を排斥する攘夷か異国を受け入れる開国かで揺れに揺れていた。
開国を推し進める案に決まったかと思えばこの時の長州の考え方は外国との条約は破棄し、朝廷の意見を聞いた上で開国するという”破約攘夷”というものになっていた。
「方針をよく変える国は信用されなくなるであろうな。」
「それなんじゃ、あんまりいい傾向とは言えん。他のやつらと話しおうてみらんといかんな…。」
「じゃあ…また萩に戻るんですか?」
「いや、今度は江戸に行く。」
「江戸ですか!?」
「ああ、江戸で学習院御用掛の任を受けた。ちょうど今は江戸におるもんも多い、ちょうどいい機会じゃけんの。」
「そうか…せっかく命じられた職ならば誠意を持って励まねばならぬな。」
そう言ってうんうんと頷く晴信を横目に晋作はピタリと動きを止めると、予想外の言葉を口にした。
「いや、励まん。」
「「へ?」」
「この仕事はやる意味がない、無駄だということを江戸に説きに行くつもりじゃ。」
「「えええええええ⁉」」
「そんなもん国の一大事にしよる仕事やない!!さあそうと決まったら早速京を出て江戸に向かうぞ!!面白くなってきた~!!」
「わ…私は頭が痛くなってきた…。」
「は……はははははは……。」
こうして再び晋作の破天荒な言動に振り回されるこまと晴信は、一路江戸に向かい歩を進め始めた。
だが上海から故郷である萩、藩主のいる京、そして命じられた江戸と、生き急ぐようにせわしなく動き回る晋作の背中をこまは少し心配そうに見つめていた。
(どうして自分の損得なんて顧みらずにここまで国のためにと高杉さんは動き続けることが出来たんだろう…。)
未来にはもうそんな熱量のある人間は殆どいない。
自分一人の力なんかで国をどうこう出来るなんて、思いもしないから。
実際に国を背負い、戦わねば潰される必要にかられて戦ってきた晴信とはまた違い、
彼はもっと世を静観しながら平和に生きることも出来たはずだった。
それでも彼はそうしなかったのだろう。
一瞬立ち寄った故郷で彼は家族や殆ど生活を共にしていないという妻と再会したが、
晋作は後ろ髪を引かれることもなくすぐに京へと発ってしまった。
あの時のただじっと晋作の姿を寂しげに見つめる妻の顔が、
こまの頭から離れなかった。
(国のため………そんな立派な志、一度でも私は持ったことがあったかな。)
ー…ザザ…
「こまちゃん、そっちはどう?」
「!!」
こまがぼんやりと物思いにふけっていると、ふと手元のガンウェアが鈍く光りこまはハッと我に返った。
聞こえてきたその声の主は泣く泣くこまと引き剥がされた蛍で、蛍は心配そうに尋ねた。
「上海から戻った?大丈夫?」
「あ…蛍さん、はい。上海から戻って今京にいますけど、今から江戸に向かうことになりました。晴信さんも一緒です。」
「僕らも久坂玄瑞の攘夷志士の仲間に潜り込めて江戸におる、栞奈さんや榎田さん達の班もうまく対象に接近できたみたいやけんまた江戸で落ち合おう。」
「分かりました。」
「それと晴信は……器物損壊してない?」
「ふふ、はい…大丈夫ですよ。」
「こま!!何をぼーっとしちょる、置いてくぞ!!」
「あ…ま…待って下さい!!!!!!じゃあ蛍さん、また江戸で!!」
江戸ではキーパーのみんなと、そして高杉さんとともに志を同じくして国の為にと戦った人達がいる。
一度もそんな志を持ったことのない自分がそんな人たちと肩を並べられるのかと少し不安もあったが、
それ以上に日本を守ろうと戦った彼らに会うのが楽しみでもあった。
こまはそんな思いを抱えながら一歩を踏み出すと、
同じ顔で全く違う笑顔を見せる二人の背中を追いかけたのだった。