第十四話 歪な同盟
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まだあたりに白い雪が残る庭先。
千代女と同じ巫女の衣装に身を包んだこまは、長尾景虎の屋敷にいた美波をようやく見つけ出した。
だが再開を果たした二人の表情は困惑したように強張り、互いにそれがどういうことを意味しているのか痛感していた。
「美波さん……無事だったんですね…探してて…良かったです…!!」
「こまちゃん…うん、ごめんね…心配かけて。」
そう言っていつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべる美波に、こまは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
御幸や蛍から容疑者だの逃げようとしているだと聞かされていた手前、再会したらどんな罵声を浴びせられるかと内心覚悟をしていたのだ。
「怪我は…ありませんでしたか?あの高さから落ちて…」
「ちょうど川に落ちたのが幸いして…でも機械関係がすべて水没して壊れてしまって、連絡も取れなくなって途方にくれていた所を景虎様に助けていただいたの。だから今はもうこんなに元気よ。」
「機械…水没しちゃったんですか…?」
「ええ、そうなの。」
美波のその言葉に、こまの心臓はドクンとうるさい音を立てた。
水没していたなんて情報は蛍が見つけた発信機のどこにもなかった。美波はやはり嘘をついているかもしれない、そう思いながらもこまは慎重に言葉を続けた。
「景虎様って……上杉…謙信のことですよね?」
「ええ。」
「………。」
「…美波さん、皆さんとても心配していますしとにかく一緒に未来に戻りましょう。」
「…!!」
その瞬間、こまが一歩踏み出したと同時に美波は一歩距離を取った。
美波のその行動にこまが驚き顔を向けると、美波は静かに笑顔をたたえながらも信じられない言葉を続けた。
「私、帰らないわ。」
「え……?何を…言ってるんですか…?」
「あっちでは誰も私のことなんて待っていない、待っているのは私が生み出すお金だけ。私はずっとここで景虎様とともに生きると約束したの。」
「そんな訳無いですよ!!皆心配していますよ?あの……ともに生きる約束っていうのは…まさか…」
「ええ、こまちゃんの思っている通りよ。景虎様をお慕いしているわ。今まで生きてきて得たものすべてを投げ打ってもいいくらいに。」
「………!!!!」
「ねえこまちゃんなら…分かるでしょう?」
美波のその絞り出したような言葉にこまは息を呑み、それ以上踏み込むことがどうしても出来なかった。
全てを捨てて晴信とこの時代で生きられたらと何度願ったことだろう。
状況さえ違えばきっと自分と美波は笑顔で恋の話に花を咲かせ、同じような境遇に互いをおおいに理解できたに違いない。
だが、美波がここに留まることも自分が晴信と同じ時間を生きることも法的には罪であり、ましてや晴信と景虎は敵同士だった。
こまはこみ上げる複雑な思いを噛み殺しながら、必死に美波を説得する言葉を紡いだ。
「で…ですが…故意にここに留まっていることがばれれば、罪に問われてしまいますよ…?」
「……。」
「とにかく一度甲斐に戻ってこれからをどうするか考えませんか?越後にはまだ担当キーパーもいません。敵国にいては私も美波さんの身の安全を保証できませんので…」
「敵国に…身の安全…まるで越後が悪い人たちのように言うのね、こまちゃん。」
「え…?」
「方方に戦を仕掛けて無用な血を流しているのは武田晴信だわ、景虎様はその被害にあわれた皆の助けに応じているだけ。そんな野蛮な方のもとには行けないわ。」
「なっ……!?晴信さんだって好きで戦なんてしているわけじゃないんです!!ただ武田の家臣やそこに住む人達を守る為に…!!」
「貴様、そこで何をしている!!」
「!!!!」
晴信を悪く言われ思わずカッとなって上げた声に、近くにいた家臣たちが気付きわらわらと集まってきてしまった。
家臣達は美波に詰め寄るこまを訝しげな様子で見ると、刀を抜いてじりじりと間合いを詰めた。
「このおなご…怪しい奴め、さては巫女にまじり忍び込んだ忍びだな。ひっ捕らえよ!!」
「っ…!!!」
ー…ザザッ!!
「こまさん、もう限界っす。行きましょう。」
「の…信繁さん…。」
「俺が時間を稼ぎます、早く!!」
こまをかばうようにして現れた信繁は、明らかに不利な状況でも怯むことなく刀を構えた。
今すぐにでも逃げ出すべき状況なのはこまも分かってはいたが、どうしても一つだけ美波に尋ねたい事がありこまは美波に向かって口を開いた。
「美波さん……もしかしてこれが……美波さんの言っていた夢なんですか…?私や皆を騙しても、叶えたい夢…?」
「……。」
「貴様、何を言っている!!美波様、お早く中へ…!!」
「こまさん!?」
家臣に中へと誘導されながら、美波はこまの懇願するような必死の問いに対して少し悲しげな笑顔を浮かべた。
そして美波がこぼした小さな小さな返答の言葉を、こまは取りこぼすことなく聞き取っていた。
「美波さん…」
"ごめんね。"
「……。」
「こまさん早く!!」
「かかれえっ!!!!!!」
ー…バチイイイッツ!!!!!!
「な…なんだこれは…!?」
「!?」
「すみません信繁さんお待たせしました…行きましょう…。」
「こま…さん…?」
「…ガンウェア。」
その瞬間、襲い来る家臣たちを阻むようにあたりには青白い壁ができていた。
何が起こったか分からないが壁に行く手を阻まれこま達を追撃することが出来なくなった家臣たちは、慌てて裏口へと駆け回っていった。
そうして美波を残し後ろ髪がひかれる思いで景虎の屋敷を後にしようとしたこまは、屋敷を出る寸前に透き通るような長い髪をした、一人の男と目があった。
「……!!」
「……。」
(あれ…もしかして……上杉…謙信……?)
足を止めることなくその場を信繁と共に走り去ったこまだったが、男の只者ではない異質な雰囲気はそのたった一瞬でも十分に分かりうるものだった。
去っていくこまを見送った景虎は何やら慌ただしい庭先に顔を出すと、不思議そうに首を傾げた。
「一体何事だい?猫でも入り込んだかな?」
「景虎様…いえ、巫女が屋敷内を迷ってしまっていたようですわ。もう…大丈夫です。」
「そうかい…じゃああれは…甲斐の猫かな。」
ー…ザザザザッ…
「もうまいたようっす。にしてもさっきの何だったんっすかね?不思議な事もあるもんっすね…ねえこまさ……こまさん…?」
「え…?」
「大丈夫っすか…?」
そう心配そうに顔を覗き込んだ信繁に、こまは初めて自分の瞳から涙がこぼれ落ちていることに気が付いた。
"ごめんね。"
「大丈夫っすよ!!きっとまた連れ戻す機会はあるっすよ!」
「いや…大丈夫です…すみません、本当にありがとうございました…もう…いいんです…。」
「こまさん……。」
こまに突きつけられた現実は御幸と蛍が危惧した以上の結果で、
美波がこまを騙しタイムシップからの逃亡を企て実行したのは疑いようもない事実だった。
だが美波の夢が、気持ちが分かってしまうこまにこれ以上美波を強引に引き戻す事は
どうしても出来なかったのであった…。
まだあたりに白い雪が残る庭先。
千代女と同じ巫女の衣装に身を包んだこまは、長尾景虎の屋敷にいた美波をようやく見つけ出した。
だが再開を果たした二人の表情は困惑したように強張り、互いにそれがどういうことを意味しているのか痛感していた。
「美波さん……無事だったんですね…探してて…良かったです…!!」
「こまちゃん…うん、ごめんね…心配かけて。」
そう言っていつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべる美波に、こまは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
御幸や蛍から容疑者だの逃げようとしているだと聞かされていた手前、再会したらどんな罵声を浴びせられるかと内心覚悟をしていたのだ。
「怪我は…ありませんでしたか?あの高さから落ちて…」
「ちょうど川に落ちたのが幸いして…でも機械関係がすべて水没して壊れてしまって、連絡も取れなくなって途方にくれていた所を景虎様に助けていただいたの。だから今はもうこんなに元気よ。」
「機械…水没しちゃったんですか…?」
「ええ、そうなの。」
美波のその言葉に、こまの心臓はドクンとうるさい音を立てた。
水没していたなんて情報は蛍が見つけた発信機のどこにもなかった。美波はやはり嘘をついているかもしれない、そう思いながらもこまは慎重に言葉を続けた。
「景虎様って……上杉…謙信のことですよね?」
「ええ。」
「………。」
「…美波さん、皆さんとても心配していますしとにかく一緒に未来に戻りましょう。」
「…!!」
その瞬間、こまが一歩踏み出したと同時に美波は一歩距離を取った。
美波のその行動にこまが驚き顔を向けると、美波は静かに笑顔をたたえながらも信じられない言葉を続けた。
「私、帰らないわ。」
「え……?何を…言ってるんですか…?」
「あっちでは誰も私のことなんて待っていない、待っているのは私が生み出すお金だけ。私はずっとここで景虎様とともに生きると約束したの。」
「そんな訳無いですよ!!皆心配していますよ?あの……ともに生きる約束っていうのは…まさか…」
「ええ、こまちゃんの思っている通りよ。景虎様をお慕いしているわ。今まで生きてきて得たものすべてを投げ打ってもいいくらいに。」
「………!!!!」
「ねえこまちゃんなら…分かるでしょう?」
美波のその絞り出したような言葉にこまは息を呑み、それ以上踏み込むことがどうしても出来なかった。
全てを捨てて晴信とこの時代で生きられたらと何度願ったことだろう。
状況さえ違えばきっと自分と美波は笑顔で恋の話に花を咲かせ、同じような境遇に互いをおおいに理解できたに違いない。
だが、美波がここに留まることも自分が晴信と同じ時間を生きることも法的には罪であり、ましてや晴信と景虎は敵同士だった。
こまはこみ上げる複雑な思いを噛み殺しながら、必死に美波を説得する言葉を紡いだ。
「で…ですが…故意にここに留まっていることがばれれば、罪に問われてしまいますよ…?」
「……。」
「とにかく一度甲斐に戻ってこれからをどうするか考えませんか?越後にはまだ担当キーパーもいません。敵国にいては私も美波さんの身の安全を保証できませんので…」
「敵国に…身の安全…まるで越後が悪い人たちのように言うのね、こまちゃん。」
「え…?」
「方方に戦を仕掛けて無用な血を流しているのは武田晴信だわ、景虎様はその被害にあわれた皆の助けに応じているだけ。そんな野蛮な方のもとには行けないわ。」
「なっ……!?晴信さんだって好きで戦なんてしているわけじゃないんです!!ただ武田の家臣やそこに住む人達を守る為に…!!」
「貴様、そこで何をしている!!」
「!!!!」
晴信を悪く言われ思わずカッとなって上げた声に、近くにいた家臣たちが気付きわらわらと集まってきてしまった。
家臣達は美波に詰め寄るこまを訝しげな様子で見ると、刀を抜いてじりじりと間合いを詰めた。
「このおなご…怪しい奴め、さては巫女にまじり忍び込んだ忍びだな。ひっ捕らえよ!!」
「っ…!!!」
ー…ザザッ!!
「こまさん、もう限界っす。行きましょう。」
「の…信繁さん…。」
「俺が時間を稼ぎます、早く!!」
こまをかばうようにして現れた信繁は、明らかに不利な状況でも怯むことなく刀を構えた。
今すぐにでも逃げ出すべき状況なのはこまも分かってはいたが、どうしても一つだけ美波に尋ねたい事がありこまは美波に向かって口を開いた。
「美波さん……もしかしてこれが……美波さんの言っていた夢なんですか…?私や皆を騙しても、叶えたい夢…?」
「……。」
「貴様、何を言っている!!美波様、お早く中へ…!!」
「こまさん!?」
家臣に中へと誘導されながら、美波はこまの懇願するような必死の問いに対して少し悲しげな笑顔を浮かべた。
そして美波がこぼした小さな小さな返答の言葉を、こまは取りこぼすことなく聞き取っていた。
「美波さん…」
"ごめんね。"
「……。」
「こまさん早く!!」
「かかれえっ!!!!!!」
ー…バチイイイッツ!!!!!!
「な…なんだこれは…!?」
「!?」
「すみません信繁さんお待たせしました…行きましょう…。」
「こま…さん…?」
「…ガンウェア。」
その瞬間、襲い来る家臣たちを阻むようにあたりには青白い壁ができていた。
何が起こったか分からないが壁に行く手を阻まれこま達を追撃することが出来なくなった家臣たちは、慌てて裏口へと駆け回っていった。
そうして美波を残し後ろ髪がひかれる思いで景虎の屋敷を後にしようとしたこまは、屋敷を出る寸前に透き通るような長い髪をした、一人の男と目があった。
「……!!」
「……。」
(あれ…もしかして……上杉…謙信……?)
足を止めることなくその場を信繁と共に走り去ったこまだったが、男の只者ではない異質な雰囲気はそのたった一瞬でも十分に分かりうるものだった。
去っていくこまを見送った景虎は何やら慌ただしい庭先に顔を出すと、不思議そうに首を傾げた。
「一体何事だい?猫でも入り込んだかな?」
「景虎様…いえ、巫女が屋敷内を迷ってしまっていたようですわ。もう…大丈夫です。」
「そうかい…じゃああれは…甲斐の猫かな。」
ー…ザザザザッ…
「もうまいたようっす。にしてもさっきの何だったんっすかね?不思議な事もあるもんっすね…ねえこまさ……こまさん…?」
「え…?」
「大丈夫っすか…?」
そう心配そうに顔を覗き込んだ信繁に、こまは初めて自分の瞳から涙がこぼれ落ちていることに気が付いた。
"ごめんね。"
「大丈夫っすよ!!きっとまた連れ戻す機会はあるっすよ!」
「いや…大丈夫です…すみません、本当にありがとうございました…もう…いいんです…。」
「こまさん……。」
こまに突きつけられた現実は御幸と蛍が危惧した以上の結果で、
美波がこまを騙しタイムシップからの逃亡を企て実行したのは疑いようもない事実だった。
だが美波の夢が、気持ちが分かってしまうこまにこれ以上美波を強引に引き戻す事は
どうしても出来なかったのであった…。